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第6章

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 町はまだワイバーンの襲撃からの興奮が治まらない。
 冒険者ギルドでは、『剛腕の獅子』を救助に行くかどうか、で会議が紛糾していた。その中にはなぜかへリウスと、おまけで俺もついてきている。
 壁際に立ちながら睥睨するように見ているへリウスと、その肩の上から周囲を見渡す俺。
 けっこう目立つ。

「さすがにへリウス様だけで行かせるわけにはいきませんっ」

 血管を浮きだたせながら、そう怒鳴っているのは、この村のギルドの出張所の責任者らしい人族の中年男性。常識人らしく、必死に正論を述べている。
 しかし、他の冒険者や、町長たちは、へリウスしかいないと、喚いている。
 冒険者ども、自分たちの冒険者としての誇りはないのかよ。

 確かに、へリウス一人でワイバーンを二匹を瞬殺してしまった。その強さを見せつけられたら、自分たちの身内のような『剛腕の獅子』を助けられると思うのもわかる。
 でも、肝心の彼らの状況もわからないようなところに、一人で行けとか。

 ――なんて、身勝手な奴らだ。

 結局、先ほどの少年たちは、救護所のようなところに連れていかれたけれど、矢を射られた子は、たぶん、もう早く走るのは無理かもしれない。彼を射た冒険者は、少年に謝罪に来なかったらしい。余計に腹立たしく思う。

 こういう時に、ファンタジーな世界なんだから俺にもチートな能力が現れればへリウスの手助けが出来るのに、と思うけど、そう簡単にはいかない模様。
 一応、見かけはエルフの端くれなんだから、攻撃魔法の片鱗でもあればいいのに、と、つくづく思う。へリウスの話では、どうも、エルフの能力にも二種類あるようで、戦闘に特化したタイプと、魔法に特化したタイプとあるらしい。
 俺の場合、いまだに魔法の『マ』の字も使えていないので、戦闘タイプなのかもしれない、と半ば諦めている。へリウス曰く、たった五才くらいの子供が何を言う、と鼻で笑われたけど。

 そもそも、こいつらはへリウスが子連れである、というのを考えてもいない。こうして、俺がへリウスの肩に堂々と乗っているのに。それを考慮もしないで一方的にまくしたてている姿に、呆れるしかない。
 肝心のへリウスも苛立ちを隠せない模様。無表情ながらも、狼の耳がピクピクと動いてる。太い尻尾もバタバタ忙しない。

「俺たちは、さっさとこの町を離れたいんだがな」

 へリウスの怒りを含んだ低い声に、先ほどまで喚いていた連中が、ピシリと固まる。

「いや、そこをなんとか」

 髪の薄くなった壮年の人族の町長が、へリウスに頼み込もうとする。

 ――しつこいなぁ。

 そこで俺は、ちょいとばかり考えた。俺としては、恥を忍んでって感じだが。

「ねぇ、おとうさん、ぼく、つかれちゃった」

 ぺたりとへリウスの頭の上に寄りかかる。
 うう、自分でも、恥ずかしい。しかし、さっさと、ここから抜け出したいのだ。俺の意図を察したのか、へリウスが俺の尻の辺りをポンポンと軽く叩く。

「おお、そうか。そうだな、疲れたよな」

 目を手でこすってみせて、眠さをアピール。眠くないけど。

「ちょ、ちょっと待ってください、その、お、お子さんの面倒は、うちの者でみますから、何卒っ」

 慌てた町長の言葉に、室内のどこかにいたおばさんの誰かが、へリウスの背後に回ろうとしたんだけど。

「ヒッ!?」

 へリウスの剣先が、おばさんの喉元に突きつけられていた。
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