40 / 95
第5章
38
しおりを挟む
この移動の二週間の間に、小さな町に三回ほど立ち寄った。住人は人族や獣人が半々くらいだろうか。残念ながら、俺と同じようなエルフの姿は見かけられなかった。野営ではゆくっくり休めなかった分、町では宿のベッドで寝られたことはよかったかもしれない。
馬車での移動中、へリウスと二人きりになれたのは、野営をしている時くらい。その中でもへリウスが見張りの当番ではない時だけだった。それ以外は周囲の誰かしらが聞き耳を立てていそうで、あまり大きな声では話は出来なかった。
ただ、わずかな休憩時間の度に、ナイフでの戦い方は教えてもらえたことはよかったかもしれない。この小さい身体じゃ、大した戦闘は出来ないけれど、この大きなナイフに慣れるくらいにはなったと思う。
子供の体の割に動きがいいのは、やっぱりエルフだからかもしれない、というのはへリウスの言い分。確かに、普通の人族の子供だったら、指の一本、二本、やらかしていそうだ。
ついでに魔法も教えてもらえないかと思ったのだが、獣人もホビット同様、あまり魔法は得意じゃないらしい。へリウスは伝達の魔法陣とかいうものを使えるらしいんだけど、それは、学校で習ったものらしく、ちゃんと魔法の授業を受けないとダメなんだとか。残念だ。それ以外の攻撃魔法とか、治癒の魔法みたいのもあるらしいんだが、それはへリウスでも使えないそうだ。獣人ってのは、肉弾戦専用ってことなんだろう。
魔法の使い方を、どこかで誰かに教わらないといけないかもしれない。
そもそも、俺に使えるのか、というのもあるんだけど。
無事に国境の街に着いたのは、日も落ちた、だいぶ遅い時間だった。
俺たちは、そこそこ大きな宿屋に泊まることができた。部屋に入って喜び勇んでベッドに飛びのったとたん、寝落ち確定。
……子供の身体が恨めしい。
「おら、ハル、飯だ、飯食いに行くぞ」
「……むぅ」
睡魔がしつこく張り付いていたけれど、飯も大事だ。
目をこすりながら身体を起こすと、へリウスが抱き上げてくれた。思わず、彼の太い首に抱きついてしまう。完全に子供モードになっている自分。眠気の方が勝っているせいか、照れくささはまったく感じない。いいのか、俺。
食事をするところに行くと、そこそこ混んでいたが、なんとか俺たち二人で座るテーブルを見つけることができた。
「あら、僕の大きさだと、この椅子じゃ、ちょっと届かないかしらね。ちょっと待っててね」
宿の女将さんだろう。人族のおばさんが、俺用にと少し厚めのクッションを持ってきてくれた。なんか屈辱。
この身体の利点と言えるのか、食事の量が、そんなに多くなくてすむことだろう。山盛りの肉に食らいついているへリウスを見て、胸やけを起こしそうになる。そのおこぼれをもらうだけで、十分に腹いっぱいだ。
「そいで、これから先のことだけどさ」
俺はおばちゃんがくれた、木の実のジュースらしきものを飲んでいる。なんというか、ココナッツミルクみたいなものなのか、ほんのりした甘味があって、なかなか旨い。
「おうよ。とりあえず、明日、乗合馬車の予定を調べに行かなきゃな」
そうなのだ。乗合馬車よりも先に宿を探しちゃったものだから、日程がまだはっきりしない。話を聞いたところ、船の出ている港町カイドンまで、シャイアールの入口のこの町からも、かなりの距離があるらしい。森の中を突っ切るのだ。馬車での移動も大変そうだ。
「そんな中、よく、ボブさんたちの依頼に応えられたね」
「うん? そりゃぁ、ボブたちだからなぁ」
しみじみと言うへリウス。
なんで、そんなに? と思ったら、数年前、まだボブさんたちが熟練冒険者としてあちこちでかけていた頃、一緒にある街の防衛戦をともに戦ったのだとか。ボブさんたちからそんな話を聞いたことがなかったので、びっくりする。
馬車での移動中、へリウスと二人きりになれたのは、野営をしている時くらい。その中でもへリウスが見張りの当番ではない時だけだった。それ以外は周囲の誰かしらが聞き耳を立てていそうで、あまり大きな声では話は出来なかった。
ただ、わずかな休憩時間の度に、ナイフでの戦い方は教えてもらえたことはよかったかもしれない。この小さい身体じゃ、大した戦闘は出来ないけれど、この大きなナイフに慣れるくらいにはなったと思う。
子供の体の割に動きがいいのは、やっぱりエルフだからかもしれない、というのはへリウスの言い分。確かに、普通の人族の子供だったら、指の一本、二本、やらかしていそうだ。
ついでに魔法も教えてもらえないかと思ったのだが、獣人もホビット同様、あまり魔法は得意じゃないらしい。へリウスは伝達の魔法陣とかいうものを使えるらしいんだけど、それは、学校で習ったものらしく、ちゃんと魔法の授業を受けないとダメなんだとか。残念だ。それ以外の攻撃魔法とか、治癒の魔法みたいのもあるらしいんだが、それはへリウスでも使えないそうだ。獣人ってのは、肉弾戦専用ってことなんだろう。
魔法の使い方を、どこかで誰かに教わらないといけないかもしれない。
そもそも、俺に使えるのか、というのもあるんだけど。
無事に国境の街に着いたのは、日も落ちた、だいぶ遅い時間だった。
俺たちは、そこそこ大きな宿屋に泊まることができた。部屋に入って喜び勇んでベッドに飛びのったとたん、寝落ち確定。
……子供の身体が恨めしい。
「おら、ハル、飯だ、飯食いに行くぞ」
「……むぅ」
睡魔がしつこく張り付いていたけれど、飯も大事だ。
目をこすりながら身体を起こすと、へリウスが抱き上げてくれた。思わず、彼の太い首に抱きついてしまう。完全に子供モードになっている自分。眠気の方が勝っているせいか、照れくささはまったく感じない。いいのか、俺。
食事をするところに行くと、そこそこ混んでいたが、なんとか俺たち二人で座るテーブルを見つけることができた。
「あら、僕の大きさだと、この椅子じゃ、ちょっと届かないかしらね。ちょっと待っててね」
宿の女将さんだろう。人族のおばさんが、俺用にと少し厚めのクッションを持ってきてくれた。なんか屈辱。
この身体の利点と言えるのか、食事の量が、そんなに多くなくてすむことだろう。山盛りの肉に食らいついているへリウスを見て、胸やけを起こしそうになる。そのおこぼれをもらうだけで、十分に腹いっぱいだ。
「そいで、これから先のことだけどさ」
俺はおばちゃんがくれた、木の実のジュースらしきものを飲んでいる。なんというか、ココナッツミルクみたいなものなのか、ほんのりした甘味があって、なかなか旨い。
「おうよ。とりあえず、明日、乗合馬車の予定を調べに行かなきゃな」
そうなのだ。乗合馬車よりも先に宿を探しちゃったものだから、日程がまだはっきりしない。話を聞いたところ、船の出ている港町カイドンまで、シャイアールの入口のこの町からも、かなりの距離があるらしい。森の中を突っ切るのだ。馬車での移動も大変そうだ。
「そんな中、よく、ボブさんたちの依頼に応えられたね」
「うん? そりゃぁ、ボブたちだからなぁ」
しみじみと言うへリウス。
なんで、そんなに? と思ったら、数年前、まだボブさんたちが熟練冒険者としてあちこちでかけていた頃、一緒にある街の防衛戦をともに戦ったのだとか。ボブさんたちからそんな話を聞いたことがなかったので、びっくりする。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる