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第3章

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 振り返って見ると、たぶん俺と同い年くらい、十七、八くらいの人間の男が立っていた。茶髪に茶色い目、ひょろっとした体格に平凡な容姿。モブっぽい、と、ちょっと思ってしまった。

「おい、聞いてんのかよ」

 なぜか不機嫌そうにそう言うと、しゃがみこんで俺の顔をのぞきこんでくる。
 じろじろと見てくる感じが、なんか、喧嘩売ってるのか? とか思って、ムッとしたまま、無視してボブさんの家に向かって走り出す。
 俺、エルフになってよかった、って思ったのは、足の早さを実感した時。
 前の姿の時だって、けして足が遅かったわけじゃないけど、やっぱり段違いに早いんだ。ホビット族たちとの狩りでも、青年たちにも遅れをとらないスピードに、皆が感心してくれる。

「ちょ、ま、待てよっ」

 誰が待つかってんだ。
 広くもない村の中、すぐにボブさんの家に飛び込む。

「おんや、お帰り」
「ただいま、メアリーさん。ウサギ捕ってきた」
「おお、うまそだねぇ」

 嬉しそうに受け取る姿に、俺のほうがホッとする。まさに癒される、とはこのことだ。特に、あんな不機嫌そうな奴に絡まれた後じゃ、なおさらだ。
 俺はそのまま、メアリーさんの夕飯の準備を手伝う。家にいた頃は、まったくと言っていいほど、手伝いなんかしなかった。でも、メアリーさんのは、素直に手伝えるから、不思議だ。

「帰ったぞぉ」
「おかえり~」
「おかえりなさ~い」

 ボブさんは、たぶん、あの馬車のそばにいた集団の中にでもいたんだろう。何やら、嬉しそうに小さな麻袋を抱えて入ってきた。

「あれ、やだよぉ。煙草吸うなら、奥の部屋でやってけれ」
「わかっとるよぉ」

 奥の部屋というのは、ボブさんの煙草部屋だ。なかなか行商人が来ないから、残り少なくなってた煙草をチビチビ吸っていた。この後、あの部屋は煙草の煙で充満しそうだ。
 てっきり、奥の部屋に籠るのかと思ったら、ボブさんは麻袋を置いて戻って来た。
 俺とメアリーさんは、まだ食事の準備中。そんな俺たちを見ながら、ボブさんは椅子に座って話し出した。

「どうもオルカのじいちゃんたちは駄目だったらしい」

 さっきまでの声とは違って、低いトーンでそう離すボブさん。

「駄目だったって?」

 メアリーさんが眉間に皺を寄せながら、背後のボブさんの方へと目を向ける。俺もそれにならって振り向くと、ボブさんは悲しそうな顔でメアリーさんを見つめている。

「この村に来る途中、馬車の残骸が見つかったそうだ」
「それって」
「ああ、ボロボロにされた荷馬車には、なんも残ってなかったと……荷馬車にオルカのじいちゃんの家のマークが着いてたから、すぐにわかったんだと」
「……なんてこと!」

 部屋の中は、ジューッとウサギの肉が焼ける音だけが響いた。
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