上 下
15 / 95
第2章

14

しおりを挟む
 このすーっと抜けてく感じは、何度も体験しているわけではないけれど、慣れないものだ。この気持ち悪さが落ち着くのを待つために、目をギュッと閉じてその場に蹲っていると、背後でガサガサという音が聞こえてきた。
 その不安な音に、ドキリとする。こんな森の中にいるのなんて野生の動物しか思い浮かばない。
 ウサギとか狐とかだったらいいんだけど、クマみたいなのがいたらやべぇな、と思いつつ、振り向いて目を薄っすら開けてみると、なんか、ちんまいおっさんが、掻き分けた草の間から、びっくりした顔で俺を見ていた。

 ――そう、ちんまいおっさん。

 たぶん、大きさでいえば今の俺と大差なさそうではある。茶色いモジャモジャの髪に、西洋人のように濃い顔。オフホワイトのシャツに茶色のジャケット、それに裸足でこんな森の中を歩いていることにびっくりする。
 なんかどっかで見たことがある、と思ったら、ほら、あれだ。なんかファンタジーの映画に出てきた小人みたいな奴ら……そうだ、ホビットだ。
 それに気付いて、俺もびっくりして目を見開く。まさか、本物? 
 ちんまいおっさん改めホビットのおっさんが、なんか作り笑顔でじわりじわりとこっちに寄ってくる。まるで、小動物を捕まえようとしているかのように、だ。

 ――狙いは俺か?

 映画通りなら、けして攻撃的な生き物じゃないはず。
 うん、でも、なんでそんなのがいんの? 
 唖然としている俺を気にすることなく、ホビットのおっさんは、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。

「ほれ、でーじょぶだー。こわぐねぇ。こわぐねぇぞ」

 ホビットのおっさんの、まさかの田舎弁まるだしに、正気に戻る俺。
 そして今さら、俺はおっさんにケツを向けてる自分に気が付いたが、まだ、身体に力が入らないみたいですぐに立上れない。俺は、みっともなかろうと、赤ん坊みたいだろうと、両手をついてハイハイで逃げようとしたんだが。

「でーじょぶだー! おらんとこ来い。こんなとこじゃぁ、魔物に食われちまうだ!」
「魔物!?」

 おっさんの言葉に固まった途端、簡単に抱え込まれる俺。

「ふえっ!?」

 そして、おっさんが一気に走り出した。同じくらいの体型のはずなのに、軽々と森の中を走っていく。
 そのスピードも凄いんだけどっ!?

「ま、魔物って!?」
「でーじょぶだー! おらんちさ行けば、魔物なんかきやしねぇ!」

 いや、全然、説明になってないしっ! 
 ていうか、なんか臭うっ! おっさんの体臭かっ!?

「く、臭いっ!」
「お、す、すまんっ、臭いか? こりゃ、魔物除けをつけてっからな。家、着くまで、がまんしてけろ」

 慌てたおっさんは、声を殺しながら、そう言った。
 臭いで魔物が寄って来ないの? でも、こうやって走って音立ててったら、ヤバくない?!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

処理中です...