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第1章

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 年末も押し迫った十二月三十日。
 俺は親父と二人、親父の実家に向かっていた。
 ほとんど会話すらない俺たちは、目的地の駅に着くまでの電車の中も、その移動手段であるバスに乗っている間も、一言も話をしなかった。

 そもそも親父と一緒に旅行に行く、ということ自体、十五年ぶりくらいだ。
 あの時は、親父に連れられて田植えの手伝いとして親父の実家に行ったらしいが、俺にはその時の記憶がまったくない。
 当時、俺は事故にあって入院してたらしいのだが、それすらも覚えていない。

 今回、親父の実家に行くという話を聞かされた時には、すでに冬休みに入ってた。
 妹は自分も行きたいと駄々をこねたが、いつもなら妹に甘い両親が断固として認めなかった。
 なぜ家族全員ではなく、俺と親父という組み合わせなのか。
 親父に聞いてみたが、完全に無視されて答えてはくれなかった。

 本当は、年末年始は稼ぎ時だからと、ガッツリバイトを入れてたのに、急な話でダメになったという連絡をしなくちゃならなくなったのは参った。
 店長からは『こんな急に困るんだけど』と、苦々しい声で言われ、俺は電話越しに何度も頭を下げることになった。
 年明けのバイトが、すごく不安になったのは言うまでもない。

                *   *   *

 山道を行くバスの窓の外は、完全に陽が落ちている。
 時々、道路脇がほの白く見えるのは積雪のせいだ。窓際に座っている俺は、ジッと外の景色を見つめる。黒々とした木々が途切れるたびに、いくつもの星が煌く濃紺の夜空に黒々とした稜線が幾重にも連なっているのが見えた。それは、まるで影絵のようだった。

 今思えば、親父の言うことなど聞かずに、一人で行かせればよかったんじゃないか、とか思う。
 すでに体格では俺の方がデカいし、強引に引っ張って行こうとしたって、むしろ、俺の方が親父のことを振り回せるくらいだろう。
 だけど、そこまで反抗的になれなかったのは、親父がどうこうというよりも、親父の実家のある場所に興味があったのだ。
 自分がどういったところで、事故にあったのか、その話を親父以外の人間から聞いてみたいと思ったのだ。

 バス停を降りてすぐにある細い脇道を無言で歩いていく親父の後をついていく。
 街灯らしきものがポツンポツンとついているが、人通りなどまったくない。雪道など慣れない俺は、雪で凍った道を注意しながらザクザク歩く。
 足元ばかり気にしていたから、周囲の様子が変わっていたことに気が付かなかった。

 一陣の冷たい風が、俺の頬を嬲る。ハッとした俺が顔を上げた時、目の前には広い雪原が広がっていた。
 たぶん、この雪の下に田んぼが埋まっているのかもしれない。その景色に足が止まった俺。吐き出す白い息が、やけに目に付く。
 そんな俺のことなど気にかけもせずに、親父はどんどん歩いていく。
 コンパスの長さなら、倍近くあるのに、歩くペースが全然違う。俺は慌てて追いかけた。

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