ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第9章

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 オルドンでも他の貴族のご令嬢たちに絡まれたことはあるものの、普通にスルーしていた。彼女たちもそれ以上に絡んでくるわけでもなかったし、いたずらをされたりもなかったから。
 今回みたいに呼び出されて、とかは初めてだったけど。

「レイ姉さん、大丈夫だった?」
「ありがとう、ベイス。」
「まったく、お里が知れるというものですわ」
「メンゼン様、お手数をおかけして申し訳ございません」
「まぁ、お気になさらないで。できれば、私もベイス様同様、エリザベス、と呼んでいただきたいわ」

 私がヴェリーニ侯爵令嬢たちに呼び出されたことに気付いた、同じクラスの女子が、わざわざベイスのところまで知らせに行ってくれたらしい。高位貴族が多いクラスなのに、きっと、勇気がいっただろうに。後でお礼をしなくては。
 しかし、それよりも気になるのは、なぜ、メンゼン侯爵令嬢も一緒なのか、ということだ。

「えと……失礼ですが、メンゼン様とベイスはどういったご関係で……」

 もしや、私が知らないだけで、2人は恋仲だとか……。

「変なこと考えないでね。レイ姉さん」
「私たちは同好の士なのよ」
「同行の士?」

 ちょっと想像してたのとは違う関係らしい。
 というのも。

「私たちは、『レオン・バーンズ様を愛する会』の会員なのです!」

 ……は?

「レイ姉さんの父上、僕にとってのレオン伯父さんは、憧れの存在なんだ!」
「ええ! 国王陛下が視察中に暴漢に襲われそうになった時、勇敢に立ち向かい、多勢に無勢の状況でも最後まで諦めず、国王陛下を守り切ったという話は、有名なのですよ!」
「騎士を目指す者の憧れだよ」

 なんか、凄い話が盛られている気がするんだけれど、まさか父さまの話がここまでネタにされているとは、知らなかった。
 ベイスも、なんか、目つきがいっちゃっている。

「それも、貴女の……もう、レイ様でよろしいわよね? レイ様の身の上のお話までついて、それはもう、今、社交界の女性たちの話題はバーンズ家の話で持ちきりなのですわ!」

 ――私の身の上まで、モリモリなのか。

 なんか、青い空を見上げて現実逃避したくなった。
 そんな私のことをそっちのけで、ベイスとエリザベス様が盛り上がっているよ。
 
「ですからね、ぜひ、我が家のお茶会にいらして欲しいの」
「……え?」
「大人数にはいたしませんわ」
「いや、あの、私、父の話ができるほど、記憶になくて」
「まぁ」
「父は私が生まれてすぐにアストリアに行ってしまって、そのまま戻らなかったので……」

 正直、期待されても、何も話せない。

「ごめんなさい! そうとは知らず、私だけで勝手に盛り上がってしまって……」
「いえいえ。でも、その、皆さんのお話を聞けたら嬉しいかなと……」
「……ええ、そうね! ぜひ、私たちの知っている、貴女のお父様のお話をさせて頂きたいわ! それには、当然。ベイス様も同席してくださいませね?」
「え、ぼ、僕もですか!?」
「当然ですわ! 同士なのですから!」

 ……エリザベス様は、思った以上にパワフルな方なんだなぁ、と、つくづく思った。
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