ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第8章

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 それからは、バーンズ伯爵夫人と王妃殿下で会話が盛り上がり、私たちはただ聞いているだけ。カイルは仕事はいいのか、ずっと私から離れない。

「それでは、伯爵家への養子縁組の件、お任せしてもよろしいわね?」
「もちろんですわっ!」

 そこは伯爵が答えるところじゃないのだろうか。
 どうも、元々、養子縁組に乗り気だったのは、伯爵夫人の方だったらしい。バーンズ伯爵家にはすでに3人の息子さんたちがいて、今更4人目? という感じだったようなのだ。

「ああ! 息子ばっかりで、可愛らしいドレスなんて着せられなかったから、嬉しいわっ!」

 ……私は着せ替え人形になるようだ。

「ドレスを頼む時は、ぜひ私も誘って欲しいわ」
「ええ! ぜひぜひ」

 バーンズ伯爵は、すでに遠い目になっている。
 完全に伯爵夫人の尻に敷かれているんだろう。お疲れ様、である。
 伯爵家の屋敷の方の準備はできていて、いつでも移ってもいいとのこと。本当に、いいのだろうかと、伯爵の方へと目を向けると、スッと視線を外されてしまった。

 ――本当は、嫌なのかな。

 そう思った時。

「うっ!?」

 突然、バーンズ伯爵がうめき声をあげる。なんと、伯爵夫人の肘鉄が入った模様。

「ローレンス、あなた、照れるのはいいけれど、そういう態度は誤解されますわよ」
「ア、アリエル」
「ごめんなさいね。レイさん……いえ、もう、レイでよろしいわよね?」
「は、はい」
「もう、この人ったら、不器用で誤解されやすいんだけれど、うちは家族みんなであなたが来るのを楽しみにしているのよ?」
「そうなんですか」

 そう言われて伯爵へ目を向けると、顔の表情じゃわからないけれど、耳が真っ赤になっていた。
 
「ん、んんっ、アリエルの言う通りだ。いつでも、屋敷に来てもらっても構わない」
「……ありがとうございます」
「レイ、お待ちしてるわね!」

 なかなか賑やかな伯爵夫人に、私もクスリと笑ってしまう。ファルネーゼ子爵夫人も、パワフルな女性だと思ったけれど、伯爵夫人も通じるものがありそうだ。
 伯爵夫妻が出ていった後、王妃殿下とカイルと私、という3人だけになった。

「仲良くやっていけそうね?」

 そう微笑みながらティーカップを手にしている王妃殿下。この方とも私が血縁関係があるのも、不思議な気持ちになる。
「だといいのですが」
「レイなら大丈夫よ。困ったら、私に言いなさい。お仕置きしてあげるわ」

 そうならないことを願いながら、私は再び、公爵家から貸し出された絵に目を向ける。
 自分と似ているといいながらも、こちらの女性の方が快活な印象がある。不思議と目が離せない。

「気になるなら、この絵、写真にとっておく?」

 隣に座っていたカイルがそう言ってくれた。

「いいのですか?」
「構いませんよね?」
「大丈夫よ」

 その後、護衛のリシャールさんに撮影機を取りに行かせると、絵だけではなく、それの横に並ばせられて写真をとることになった。
 すごく恥ずかしかった。
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