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第8章

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 学校では、私がファルネーゼ子爵家の養女になった噂がすでに広まっていた。
 ファルネーゼ子爵夫人と『ダルンの癒し亭』という組み合わせは、王都でも有名なだけに、関心が向けられるのだろうが、貴族たちの噂好きには、ほとほと呆れる。
 多くの生徒たちから向けられる好奇と嫉妬の眼差しは、うざったいことこの上なかった。特に平民からの視線が痛すぎる。
 平民から貴族に養子に入る、なんてことは、よほどのことがない限り、稀だ。
 その稀なことが、同じ学校の生徒である私に起こったのだから、色んな思いで見られてしまうのは仕方がないのだろう。

 この国では学校を出たら、平民は就職するのが一般的だ。
 一方で貴族たちの場合、上位の学校に行くことになる。平民でも優秀だったり、金銭的に余裕があれば進学することもあるけれど、多くはない。ショーンさんは、私の勉強をみてくれているあたり、かなり優秀な方なんだろう。

 本来なら平民だった私は、このまま卒業して『ダルンの癒し亭』に就職するつもりだった。しかし、子爵家の養女になったことで、上位の学校に行くことになった。
 まだ勉強をしなきゃいけないのか、と少しだけうんざりするし、ついていけるのか、心配だ。特に、貴族のマナーの授業というのが、不安で仕方がない。
 ただ、メリットもある。
 上位の学校にいけば、魔術について学べるようになり、『伝達の魔法陣』を使えるようになるのだ。

「そうなれば、もう少し頻繁にカイルとやりとりできるのかな」

 私は子爵夫人から与えられた部屋で、アストリアから届いたカイルの手紙を手にしながら呟く。カイルの手書きの手紙だと思うと、胸がほっこりと温かくなる。
 最後の1枚はテオドア王子の手書きの絵だ。まだ、文字までは書けないらしい。思わず、笑みを浮かべてしまう。

 あれからすぐに国に戻っていったカイルだけれど、1週間に1回は手紙を送ってくれるようになった。私が『伝達の魔法陣』を使えるようになったら、もっとやりとりが出来るようになるのだろうか。
 ダルン侯爵家で会ったカイルの姿と、優しい言葉を思い出す。

「陛下がレイのことを凄く心配しているんだ」

「それに王妃殿下も、また会いたいとおっしゃっているよ」

「テオドアもレイに会いたがってる」

 ――カイルも、少しでも私に会いたいって思ってくれただろうか?

 さすがに侯爵や子爵夫人がいる場で、聞く勇気はなかった。
 そしてカイルは私たちの養女の話が決まったのを見届けると、すぐにアストリアへと帰ってしまった。
 王太子だから忙しいのは理解できるし、もしかしたら仕事の合間をぬって来てくれたのかもしれないとも思う。
 だけど、もう少し落ちついて色んな話がしたかったなぁ、と思うのは私の我儘だろうか。
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