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第8章
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今私は、ファルネーゼ子爵夫人の屋敷にご厄介になっている。
「さぁ、レイ、気を付けていってらっしゃいね」
「はい、お義母様」
学校に行くために屋敷の馬車に乗り込んだ私。
サカエラのおじさんの家の馬車もかなりいいものだったが、子爵家の馬車も思いのほか、いい馬車に驚く。さすが王都でも有名な『ダルンの癒し亭』のオーナーだけのことはある。
私は、マイア―ル男爵家ではなく、ファルネーゼ子爵家の養女になってしまった。
元は、アストリア王国のバーンズ伯爵(父の弟)が、私を引き取りたいと言いだしたことから始まる。こっちも、なんで今頃、な話なんだけれど、伯爵家は王妃様から私の話を聞いて、初めて私の存在を知ったらしい。
先代の伯爵が父の結婚に猛反対していたのは覚えていたらしいのだが、当時、まだ学生だった伯爵は学校の寮での生活だったそうで、詳しい話を知らないうちに父が亡くなってしまったのだそうだ。
「伯爵がレイを引き取りたいと話をしても、特に先代の奥方が猛反発してね。説得に時間がかかってしまったのだよ」
カイルがため息をつきながら話していたのを思い出す。
正直な話、私としては今更な話だし、これから貴族として生活するの? と思うと、面倒だなって思う。しかし、そうも言ってられないというのを、カイルから聞かされた。
私は知らなかったのだけれど、何度かサカエラのおじさんの屋敷で襲撃があったらしい。それに、私が街中へ買い出しに行っている間にも、狙われていたらしいのだ。とりあえず、無事に済んでいたのは、エルドおじさんやカイルが護衛を影でつけてくれていたから。
「元々、陛下がオルドンに何度も行くからいけないんです」
エルドおじさんを狙う誰かが、弱点になりうる私を狙っているというのだ。
――私がおじさんの弱点?
首を傾げたくなるけれど、可愛がっていただいている自覚はある。何かあったら、気にかけてもらえるくらいには。
「できればこのままアストリアへ連れて行きたいんだが」
「アストリア国のバーンズ伯爵家といば、確か、バーンズ公爵家に繋がるお家柄では」
「さすが子爵夫人、よくご存知だ。公爵家は王妃のご実家でもある」
「……なるほど。しかし、いきなり伯爵家にレイを連れていかれるのは」
「問題があるか」
ダルン侯爵が渋い顔をしながら私へと目を向ける。
「平民で貴族のマナーを知らない者がいきなり高位貴族の家柄に入ったら、苦労するのが目にみえてます」
そう言われて、学校での貴族のご令嬢たちを思い出す。あんなのと一緒にいられる自信はないけれど……いつまでもサカエラのおじさんの世話になるわけにもいかないのも事実。
早く自立するつもりでいたけれど、そうも言ってられないのかもしれない。
「でしたら、私のところの養女にしてマナーなどを一通り学んでから、伯爵家へと行かれてはいかがでしょうか」
「ミシェル」
「お兄様、いいじゃない。元々、私は彼女を養女にしたかったのよ。一時的でも、私の娘になってくれるなら、こんなに嬉しいことはないわ」
「え、えと?」
「フフフ、いきなり見知らぬ所でマナーを学ぶのは大変でしょ? それに、私のところだったら、宿屋の方もお手伝いしてもらえるじゃない?」
「ミシェル!」
侯爵と子爵夫人の言い合い(じゃれあい?)に、困惑する私。
「レイ、君はどうしたい?」
カイルの優しい言葉に、私はサカエラのおじさんに目を向ける。
「好きにしていい。無理に貴族にならなくても、うちにずっといてくれたっていいんだよ」
「おじさん」
「レイは私の娘みたいなものなんだからね」
その言葉で、私の気持ちは決まった。
「……ファルネーゼ子爵夫人、お世話になってもよろしいでしょうか」
「ええ!」
とても嬉しそうな笑みを浮かべた子爵夫人に、私も少しだけホッとしたのだった。
「さぁ、レイ、気を付けていってらっしゃいね」
「はい、お義母様」
学校に行くために屋敷の馬車に乗り込んだ私。
サカエラのおじさんの家の馬車もかなりいいものだったが、子爵家の馬車も思いのほか、いい馬車に驚く。さすが王都でも有名な『ダルンの癒し亭』のオーナーだけのことはある。
私は、マイア―ル男爵家ではなく、ファルネーゼ子爵家の養女になってしまった。
元は、アストリア王国のバーンズ伯爵(父の弟)が、私を引き取りたいと言いだしたことから始まる。こっちも、なんで今頃、な話なんだけれど、伯爵家は王妃様から私の話を聞いて、初めて私の存在を知ったらしい。
先代の伯爵が父の結婚に猛反対していたのは覚えていたらしいのだが、当時、まだ学生だった伯爵は学校の寮での生活だったそうで、詳しい話を知らないうちに父が亡くなってしまったのだそうだ。
「伯爵がレイを引き取りたいと話をしても、特に先代の奥方が猛反発してね。説得に時間がかかってしまったのだよ」
カイルがため息をつきながら話していたのを思い出す。
正直な話、私としては今更な話だし、これから貴族として生活するの? と思うと、面倒だなって思う。しかし、そうも言ってられないというのを、カイルから聞かされた。
私は知らなかったのだけれど、何度かサカエラのおじさんの屋敷で襲撃があったらしい。それに、私が街中へ買い出しに行っている間にも、狙われていたらしいのだ。とりあえず、無事に済んでいたのは、エルドおじさんやカイルが護衛を影でつけてくれていたから。
「元々、陛下がオルドンに何度も行くからいけないんです」
エルドおじさんを狙う誰かが、弱点になりうる私を狙っているというのだ。
――私がおじさんの弱点?
首を傾げたくなるけれど、可愛がっていただいている自覚はある。何かあったら、気にかけてもらえるくらいには。
「できればこのままアストリアへ連れて行きたいんだが」
「アストリア国のバーンズ伯爵家といば、確か、バーンズ公爵家に繋がるお家柄では」
「さすが子爵夫人、よくご存知だ。公爵家は王妃のご実家でもある」
「……なるほど。しかし、いきなり伯爵家にレイを連れていかれるのは」
「問題があるか」
ダルン侯爵が渋い顔をしながら私へと目を向ける。
「平民で貴族のマナーを知らない者がいきなり高位貴族の家柄に入ったら、苦労するのが目にみえてます」
そう言われて、学校での貴族のご令嬢たちを思い出す。あんなのと一緒にいられる自信はないけれど……いつまでもサカエラのおじさんの世話になるわけにもいかないのも事実。
早く自立するつもりでいたけれど、そうも言ってられないのかもしれない。
「でしたら、私のところの養女にしてマナーなどを一通り学んでから、伯爵家へと行かれてはいかがでしょうか」
「ミシェル」
「お兄様、いいじゃない。元々、私は彼女を養女にしたかったのよ。一時的でも、私の娘になってくれるなら、こんなに嬉しいことはないわ」
「え、えと?」
「フフフ、いきなり見知らぬ所でマナーを学ぶのは大変でしょ? それに、私のところだったら、宿屋の方もお手伝いしてもらえるじゃない?」
「ミシェル!」
侯爵と子爵夫人の言い合い(じゃれあい?)に、困惑する私。
「レイ、君はどうしたい?」
カイルの優しい言葉に、私はサカエラのおじさんに目を向ける。
「好きにしていい。無理に貴族にならなくても、うちにずっといてくれたっていいんだよ」
「おじさん」
「レイは私の娘みたいなものなんだからね」
その言葉で、私の気持ちは決まった。
「……ファルネーゼ子爵夫人、お世話になってもよろしいでしょうか」
「ええ!」
とても嬉しそうな笑みを浮かべた子爵夫人に、私も少しだけホッとしたのだった。
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