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第7章
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貴族の系図っていうのは、複雑だ。気が付けば、どこそこの伯爵家と公爵家が繋がっているとか、没落した家の血脈だとか。
私はもうただの平民でいいのに、周りが許してくれないようだ。
「レイ、うちの子になる?」
ダルン侯爵家のサロンでお茶を頂きながら今日の顛末を話している時に、ファルネーゼ子爵夫人がおずおずとした感じで聞いてきた。
今回、助けていただいたダルン侯爵の実妹でもあるファルネーゼ子爵夫人は、未亡人だ。
ご主人は何年か前にお亡くなりになっており、彼女には子供がいなかった。代わりに亡き子爵の愛人に男の子がいるらしいが、認知はされていない。その愛人というのが、なかなか男性関係の華やかな方だというのは、私が知っているくらいに有名な話であり、本当に子爵の子供かも怪しい、という。
そのせいもあって、跡取りにと子爵家の傍系の子供を、という話になっているようなのだが、まだ決まっていないらしい。
そんな中、ファルネーゼ子爵夫人が私を養子にしたい、と言っていることに、私はどう答えるべきか、迷った。
夫人は、私が小さい時から母とともにお世話になった方だ。
時々、母が宿屋に幼い私を連れてきた時には、可愛がってくれたし、私が熱を出して母が何日か仕事を休まなければいけなくなった時も、『無理をしないで』と言って休ませてくださったそうだ。
普通だったら、すぐに辞めさせられていただろう。
そういう意味でも恩人である夫人からの言葉に、素直に頷けなかったのは、やっぱり『貴族』に対しての忌避する気持ちがあるからかもしれない。
学校で見かける貴族子女たちの傲慢さや、今日見た、あのマイア―ル男爵家の人々。ダルン侯爵や子爵夫人のようにいい方もいるのだろうけれど。
「ファルネーゼ子爵夫人、お待ちください」
どう答えようか迷っていた私だったけれど、その前に、なぜかサカエラのおじさんが声をあげた。
「サカエラ、私はレイに聞いているのよ」
私に対するのとは違い、子爵婦人は厳しい声でおじさんを睨む。
同席しているダルン侯爵は、何も言わないけれど、子爵夫人を宥めもしないところからも、夫人側なんだろう。
「申し訳ございません、しかし、これは彼女の意思だけでは」
「なぜ? 他に誰が彼女の人生を決めるというの。彼女の人生は、彼女のものよ」
「それはそうなんですが……」
困ったような顔のサカエラのおじさんの目の前に、小さな青い鳥が突然現れた。
「何? 伝達の魔法陣?」
「申し訳ございません」
「……急ぎなんだろう。赤いリボンがついている」
ダルン侯爵の言葉に、子爵夫人は口をつぐむ。
サカエラのおじさんが掌を青い鳥に差し出すと、手元に小さな手紙が現れた。それを広げたおじさんは、目を見開き、大きくため息をついた。
「……侯爵様」
「なんだ」
「この後、お時間はございますでしょうか」
「特に予定はなかったかと思うが」
侯爵がチラッとドアの方に立っていた執事に目を向けると、こくりと頷いている。
サカエラのおじさんは意を決したように言葉にしたのは。
「アストリア王国の王太子殿下が、お忍びでいらしているそうで……レイに会わせろと」
「は?」
侯爵様だけではなく、その場にいた子爵夫人や、ショーンさんも固まった。
――なぜ、カイルが!?
当然、私も固まってしまったのは言うまでもない。
私はもうただの平民でいいのに、周りが許してくれないようだ。
「レイ、うちの子になる?」
ダルン侯爵家のサロンでお茶を頂きながら今日の顛末を話している時に、ファルネーゼ子爵夫人がおずおずとした感じで聞いてきた。
今回、助けていただいたダルン侯爵の実妹でもあるファルネーゼ子爵夫人は、未亡人だ。
ご主人は何年か前にお亡くなりになっており、彼女には子供がいなかった。代わりに亡き子爵の愛人に男の子がいるらしいが、認知はされていない。その愛人というのが、なかなか男性関係の華やかな方だというのは、私が知っているくらいに有名な話であり、本当に子爵の子供かも怪しい、という。
そのせいもあって、跡取りにと子爵家の傍系の子供を、という話になっているようなのだが、まだ決まっていないらしい。
そんな中、ファルネーゼ子爵夫人が私を養子にしたい、と言っていることに、私はどう答えるべきか、迷った。
夫人は、私が小さい時から母とともにお世話になった方だ。
時々、母が宿屋に幼い私を連れてきた時には、可愛がってくれたし、私が熱を出して母が何日か仕事を休まなければいけなくなった時も、『無理をしないで』と言って休ませてくださったそうだ。
普通だったら、すぐに辞めさせられていただろう。
そういう意味でも恩人である夫人からの言葉に、素直に頷けなかったのは、やっぱり『貴族』に対しての忌避する気持ちがあるからかもしれない。
学校で見かける貴族子女たちの傲慢さや、今日見た、あのマイア―ル男爵家の人々。ダルン侯爵や子爵夫人のようにいい方もいるのだろうけれど。
「ファルネーゼ子爵夫人、お待ちください」
どう答えようか迷っていた私だったけれど、その前に、なぜかサカエラのおじさんが声をあげた。
「サカエラ、私はレイに聞いているのよ」
私に対するのとは違い、子爵婦人は厳しい声でおじさんを睨む。
同席しているダルン侯爵は、何も言わないけれど、子爵夫人を宥めもしないところからも、夫人側なんだろう。
「申し訳ございません、しかし、これは彼女の意思だけでは」
「なぜ? 他に誰が彼女の人生を決めるというの。彼女の人生は、彼女のものよ」
「それはそうなんですが……」
困ったような顔のサカエラのおじさんの目の前に、小さな青い鳥が突然現れた。
「何? 伝達の魔法陣?」
「申し訳ございません」
「……急ぎなんだろう。赤いリボンがついている」
ダルン侯爵の言葉に、子爵夫人は口をつぐむ。
サカエラのおじさんが掌を青い鳥に差し出すと、手元に小さな手紙が現れた。それを広げたおじさんは、目を見開き、大きくため息をついた。
「……侯爵様」
「なんだ」
「この後、お時間はございますでしょうか」
「特に予定はなかったかと思うが」
侯爵がチラッとドアの方に立っていた執事に目を向けると、こくりと頷いている。
サカエラのおじさんは意を決したように言葉にしたのは。
「アストリア王国の王太子殿下が、お忍びでいらしているそうで……レイに会わせろと」
「は?」
侯爵様だけではなく、その場にいた子爵夫人や、ショーンさんも固まった。
――なぜ、カイルが!?
当然、私も固まってしまったのは言うまでもない。
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