ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第7章

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 男爵はノックには反応せず、サカエラのおじさんを睨みつけている。
 以前聞いた時は、そこそこの資産家だって言ってたのに、なんで借金なんてあるんだろう?
 そう不思議に思っていると、もう一度、今度は、強めにドアがノックされた。

「なんだっ!」

 男爵の怒鳴り声に、思わず身体がビクッとする。
 ドアが開くと、中年くらいのメイドが、おどおどしたように顔を覗かせる。

「だ、旦那様、お、お客様がいらしております」
「こっちも来客中だ、帰ってもらえ」
「い、いえ、あの、それが」

 青白い顔のメイドが泣きそうな顔になっている。

「チッ、ハロルド、お前が行け」
「……はい」

 執事が部屋を出ていく間、誰も声をあげない。そして、ドアがぱたりと閉まったとたん。
「借金などしておらんし、例えしてたとしても、お前のような平民にとやかく言われる筋合いはないっ」

 怒った男爵はテーブルをダンッと叩く。しっかりした机のおかげか、壊れないで済んだようだ。

「サカエラ商会を甘く見ないでいただきたい」

 おじさんが強気だ。

「貴方の借金の証書は、うちが引き取らせてもらいましたよ。まったく、あんなはした金も借金しなくちゃならないとは。今度は何をやらかしたんですか……貴方の息子さんは」
「ぐっ!?」

 ……えーと。
 この家には跡取り息子がいるってこと? この場にはいないみたい。
 であれば、私がいる必要はないよね? さっきの話の流れの感じから、養女か何かにしたいようだったけれど。あ、もしかして、養女にしてどこかと政略結婚とか?
 絶対、嫌だけど。

 ドンドンッ

 今度はかなり強めにドアがノックされた。

「な、なんだっ」
「だ、旦那様、お客様が」
「ハロルド、断れと言っただろうがっ」
「……悪いね、マイア―ル男爵、私も急いでいてね」
「あっ」

 執事の背後から、彼よりももっと大柄でいかつい顔の紳士が現れた。

「……ダ、ダルン侯爵様」

 サッと男爵の顔色が悪くなる。

「ああ、お待ちしておりました。ダルン侯爵」

 サカエラのおじさんが立ち上がり、満面の笑みで挨拶をする。
 私もショーンさんも、おじさんに倣って立ち上がる。

「やぁ、サカエラ、少し遅れたようですまんな。お、レイ、久しぶりだな……随分と、可愛らしいな」
「ありがとうございます」

 颯爽と現れた侯爵は、さっきまでの強面から一変、甘い笑顔で私の頭を優しくなでた。
 ダルン侯爵とは、何度か、母と一緒に宿屋にいた時にご挨拶をしたことがあった。その時も、偉ぶることもなく、私を抱き上げてくれたこともあった。
 そう、『ダルンの癒し亭』はファルネーゼ子爵夫人がオーナーであり、このダルン侯爵の実妹であったりするのだ。
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