58 / 81
第7章
57
しおりを挟む
男爵はノックには反応せず、サカエラのおじさんを睨みつけている。
以前聞いた時は、そこそこの資産家だって言ってたのに、なんで借金なんてあるんだろう?
そう不思議に思っていると、もう一度、今度は、強めにドアがノックされた。
「なんだっ!」
男爵の怒鳴り声に、思わず身体がビクッとする。
ドアが開くと、中年くらいのメイドが、おどおどしたように顔を覗かせる。
「だ、旦那様、お、お客様がいらしております」
「こっちも来客中だ、帰ってもらえ」
「い、いえ、あの、それが」
青白い顔のメイドが泣きそうな顔になっている。
「チッ、ハロルド、お前が行け」
「……はい」
執事が部屋を出ていく間、誰も声をあげない。そして、ドアがぱたりと閉まったとたん。
「借金などしておらんし、例えしてたとしても、お前のような平民にとやかく言われる筋合いはないっ」
怒った男爵はテーブルをダンッと叩く。しっかりした机のおかげか、壊れないで済んだようだ。
「サカエラ商会を甘く見ないでいただきたい」
おじさんが強気だ。
「貴方の借金の証書は、うちが引き取らせてもらいましたよ。まったく、あんなはした金も借金しなくちゃならないとは。今度は何をやらかしたんですか……貴方の息子さんは」
「ぐっ!?」
……えーと。
この家には跡取り息子がいるってこと? この場にはいないみたい。
であれば、私がいる必要はないよね? さっきの話の流れの感じから、養女か何かにしたいようだったけれど。あ、もしかして、養女にしてどこかと政略結婚とか?
絶対、嫌だけど。
ドンドンッ
今度はかなり強めにドアがノックされた。
「な、なんだっ」
「だ、旦那様、お客様が」
「ハロルド、断れと言っただろうがっ」
「……悪いね、マイア―ル男爵、私も急いでいてね」
「あっ」
執事の背後から、彼よりももっと大柄でいかつい顔の紳士が現れた。
「……ダ、ダルン侯爵様」
サッと男爵の顔色が悪くなる。
「ああ、お待ちしておりました。ダルン侯爵」
サカエラのおじさんが立ち上がり、満面の笑みで挨拶をする。
私もショーンさんも、おじさんに倣って立ち上がる。
「やぁ、サカエラ、少し遅れたようですまんな。お、レイ、久しぶりだな……随分と、可愛らしいな」
「ありがとうございます」
颯爽と現れた侯爵は、さっきまでの強面から一変、甘い笑顔で私の頭を優しくなでた。
ダルン侯爵とは、何度か、母と一緒に宿屋にいた時にご挨拶をしたことがあった。その時も、偉ぶることもなく、私を抱き上げてくれたこともあった。
そう、『ダルンの癒し亭』はファルネーゼ子爵夫人がオーナーであり、このダルン侯爵の実妹であったりするのだ。
以前聞いた時は、そこそこの資産家だって言ってたのに、なんで借金なんてあるんだろう?
そう不思議に思っていると、もう一度、今度は、強めにドアがノックされた。
「なんだっ!」
男爵の怒鳴り声に、思わず身体がビクッとする。
ドアが開くと、中年くらいのメイドが、おどおどしたように顔を覗かせる。
「だ、旦那様、お、お客様がいらしております」
「こっちも来客中だ、帰ってもらえ」
「い、いえ、あの、それが」
青白い顔のメイドが泣きそうな顔になっている。
「チッ、ハロルド、お前が行け」
「……はい」
執事が部屋を出ていく間、誰も声をあげない。そして、ドアがぱたりと閉まったとたん。
「借金などしておらんし、例えしてたとしても、お前のような平民にとやかく言われる筋合いはないっ」
怒った男爵はテーブルをダンッと叩く。しっかりした机のおかげか、壊れないで済んだようだ。
「サカエラ商会を甘く見ないでいただきたい」
おじさんが強気だ。
「貴方の借金の証書は、うちが引き取らせてもらいましたよ。まったく、あんなはした金も借金しなくちゃならないとは。今度は何をやらかしたんですか……貴方の息子さんは」
「ぐっ!?」
……えーと。
この家には跡取り息子がいるってこと? この場にはいないみたい。
であれば、私がいる必要はないよね? さっきの話の流れの感じから、養女か何かにしたいようだったけれど。あ、もしかして、養女にしてどこかと政略結婚とか?
絶対、嫌だけど。
ドンドンッ
今度はかなり強めにドアがノックされた。
「な、なんだっ」
「だ、旦那様、お客様が」
「ハロルド、断れと言っただろうがっ」
「……悪いね、マイア―ル男爵、私も急いでいてね」
「あっ」
執事の背後から、彼よりももっと大柄でいかつい顔の紳士が現れた。
「……ダ、ダルン侯爵様」
サッと男爵の顔色が悪くなる。
「ああ、お待ちしておりました。ダルン侯爵」
サカエラのおじさんが立ち上がり、満面の笑みで挨拶をする。
私もショーンさんも、おじさんに倣って立ち上がる。
「やぁ、サカエラ、少し遅れたようですまんな。お、レイ、久しぶりだな……随分と、可愛らしいな」
「ありがとうございます」
颯爽と現れた侯爵は、さっきまでの強面から一変、甘い笑顔で私の頭を優しくなでた。
ダルン侯爵とは、何度か、母と一緒に宿屋にいた時にご挨拶をしたことがあった。その時も、偉ぶることもなく、私を抱き上げてくれたこともあった。
そう、『ダルンの癒し亭』はファルネーゼ子爵夫人がオーナーであり、このダルン侯爵の実妹であったりするのだ。
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
【完結】今更魅了と言われても
おのまとぺ
恋愛
ダコタ・ヒューストンには自慢の恋人が居る。彼の名前はエディで、同じ魔法学校の同級生だ。二人の交際三ヶ月記念日の日、ダコタはエディから突然別れ話をされた。
「悪かった、ダコタ。どうやら僕は魅了に掛かっていたらしい……」
ダコタがショックに打ちひしがれている間に、エディは友人のルイーズと婚約してしまう。呆然とするダコタが出会ったのは、意外な協力者だった。
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全17話で完結予定です

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる