ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第6章

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「……レイ?」

 向かい側に座るショーンさんが、私の顔を覗き込んできた。

「あ、はい」
「……やっぱり、何かあったんじゃない?」

 ――意外に鋭いな。

「……まぁ、ちょっと」

 馬車の外に視線を向ける。
 これは、ショーンさんよりも、おじさんに相談をしたいこと。

「何、俺には話ができないの?」

 チラリと目の端に見えるショーンさんは、少し寂しそうな顔で、なんか、叱られた大型犬みたい。年上の人に言う言葉じゃないけれど、かわいいと思ってしまう。
 だけど、そんな風に言われても、この話はやっぱりおじさんとしたほうがいいと思う。

「……後で、おじさんと話をするので、その時に」
「……」

 無言で反対側の窓のほうを見るショーンさんは、やっぱり子供かも。拗ねた顔をしてるのが、わかりやすくて、音もなく私は微笑んでしまった。



 家に着いても、当然、おじさんはまだ帰ってきていなかった。

「レイ、着替えたら、勉強みてあげようか」
「あ、はい」

 ショーンさんは、さっきまでの拗ねた顔が嘘のように、ニコニコした顔をしてる。不機嫌な顔で相手をされるのは、私としても、嫌だけど。
 そして、私はサロンでショーンさんに勉強を見てもらっていた。平民とはいえ、大きな商会の跡取り息子のショーンさん。さすがに未婚の男女が私室で二人きりになるわけにもいかない。
 意外にも、ショーンさんは、思っていたより人に勉強を教えるのが上手いと思った。
 辛抱強いし、私がわからないところがあって躓いても、どうやったらわかるか、一緒に考えてくれる。もしお兄さんがいたなら、こんな感じだったのだろうか。

「ショーン様、レイ様、お食事の用意が出来ました」

 ギヨームさんが私たちを呼んでくれたことで、今日の勉強は終了。私たちは勉強道具を片付けると、食堂に向かった。
 サカエラのおじさんもすでに帰ってきていたようで、席に座って待っていた。

「もう帰られていたんですね」
「ああ。たまたま今日は早くに終わってね」

 おじさんは、かなり疲れた顔でテーブルについていた。その表情からも、だいぶ忙しいんだろうことは想像できたのだけれど、私は私で話をしないといけない。

「おじさんにお話しておきたいことがあるんだけれど」

 食事をしながらではあったけれど、私はおじさんに今日会ったマイア―ル男爵のことを話した。その間、おじさんもショーンさんも、不機嫌そうな顔を隠しもしない。

「レイは、会いたいと思うわけ?」

 細くカットした肉をフォークで差しながらショーンさんが、私の顔を見ずに不機嫌そうに聞いてきた。

「……いいえ。今更って思うし」
「それなら、会わなきゃいいじゃん」

 これで解決、みたいにショーンさんは、肉を口に放り込む。

「そう簡単に済めばいいんだけどな」

 おじさんが深刻そうに言い出す。

「今回の話、どうもあちらの家の相続が絡んでるらしい」

 男爵からは、そんな話は全く出なかったんだけど。
 それを調べ上げてきたサカエラのおじさんの情報力はさすがだ。

「具体的にどうする、とかいう話になるのかもしれない。しかし、一度はあちらときちんと話をしたほうがいいとは思う」
「今更、私みたいのが現れても、男爵家だって迷惑なんじゃ」
「しかし、当主本人がわざわざ学校まで来たわけだしね」

 相手は男爵とはいえ、貴族様。もっと強引に連れて帰ることもできたはず。それをしなかったのは、保護者でもあるサカエラのおじさんの存在もあるのだろう。

「でしたら、おじさんが一緒に来てくれますか」
「もちろんだよ。レイ一人で行かせたら、エルドに殺される」

 怒り狂うエルドおじさんの姿を想像して、ちょっとだけ笑ってしまった。
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