ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

文字の大きさ
上 下
48 / 81
第5章

47 side カイル

しおりを挟む
 義父である国王陛下がいらっしゃらない間の書類が、山ほど机の上に重ねられている。
 陛下がオルドンに行かれて、すでに一か月以上が経っている。護衛から定期的に届く、現状報告を読むにつけ、国王陛下が順調に回復し、今ではすっかり、サカエラ氏の仕事の手伝いまでしているという。

「いいかげん、戻って自国の仕事をしてもらいたいもんだね」
「……申し訳ございません。実行犯までは辿り着いたのですが、まだ、黒幕までには至らず」

 王太子の執務室内の別の机で、自分同様、山ほどの書類に埋もれているユージンから、残念そうな声が聞こえてきた。

 今回の国王陛下のオルドン行きは、陛下の体調悪化が毒による可能性が出てきたからだった。レイが作った食事の時と、普段の食事とで、陛下の体調が明らかに異なったためだ。
 今までは食後、しばらく身体の不調を訴えていたのに、レイの食事の時には、むしろベッドから身体を起こす気力もあるほどだった。
 結果としては、配膳についていたメイドの一人によるものというのまではわかったのだが、黒幕について調べる前に自死してしまった。
 このまま、陛下が帰国すれば、再び同じことが起こる可能性があるせいで、帰国を促すのが躊躇われる。

「……どうせ、あやつらに決まっているのに」

 頭に浮かぶのは、グライス伯爵とその妻。忌々しい実母の顔。すでに親子の縁は切っているというのに、いまだに『実母』であることに胡坐をかき、他の貴族たちも、その様子を窺っている。今回のこれには、コヴェリ公爵家もかんでいるに違いない。
 しかし、明確な証拠もない。
 苛立ちながら、書類を捲っているところに、伝達の魔法陣による手紙が届いた。

「なんと、陛下からとは珍しい」

 手元に現れたのは、小さなメモに、それより少し大きな写真。それを見て私は固まってしまった。
 写真に写っていたのは、陛下とサカエラ氏の間に挟まれたレイの姿。
 あんなに前髪を長くして、黒ぶちのメガネで隠していた金色の瞳が、今は、前髪が取り払われて、シルバーの細いフレームの眼鏡の中でキラキラと輝いている。
 少し、慌てた顔のレイに、私のハートは、ギュッと掴まれた。
 こんなに可愛いレイは、私だけが知っていればよかったのに。

『カワイイだろ?』

 陛下の文字に、煽られてる自分を自覚する。
 自分から、瞳を隠していたと思われるレイが、こんなふうに自分の顔をさらし、彼女を挟んで写る陛下とサカエラ氏の嬉しそうな顔が、私の心を逆撫でした。たった一ヶ月ほどしか経っていないというのに、彼女がグッと可愛らしさを増しているように見える。
 今、目の前にいたならば、抱きしめてしまいそうなくらいに。
 アストリアにいる間、彼女の頬にキスをしただけで頬を染め、照れる姿に、新鮮な気持ちになったのを思い出す。何の思惑を持ってか知らないが、王宮をうろついている貴族の令嬢たちにも、見習わせたいくらいだ。

「はぁっ……オルドンになど、帰らせなければよかった」

 額に手を当てて、後悔ばかりが湧き上がる。
 仕事に集中することができそうもない私を、生ぬるい目でユージンが見ていたことには気付かなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

処理中です...