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第5章
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「マイア―ルが人とこんなに話しているところを見たのは、初めてかもしれないな。」
ニヤニヤ笑いながら言う先生。
確かに、学校では誰とも話をしようとはしていなかった。
「もっと、教室でも、人と話をしたらいいのに。」
さらっと話しながら、成績表に視線を落とした先生。
でも私は、人に拒絶されるくらいなら、初めから関わらない方がいいんだ。
特に貴族令嬢たちの質の悪さには、目を背けたくなる。それを先生方に気付かせない巧妙さに恐怖すら覚える。
「宿屋の仕事といっても、色々あるだろう。中には、人と話をするようなのもあるし、『ダルンの癒し亭』辺りであれば、貴族も多く泊まるだろう」
先生が、私に視線を移した。普段は、のほほんとしているし、あんまり話をするわけでもない。
「本当に目指してるなら、いろんな人と接したほうがいいんじゃないかな」
先生の言う通りなんだと思う。でも。
「先生、レイは、小さい頃、いじめられてたことがあるんです」
「いじめですか?」
『こんな存在感の薄い、目立ちもしない子が?』
先生の目はそう言ってる気がする。
それは、私がそうしたいと思ってるからだけど。
「ええ。この子の瞳のせいで」
私がまだ教会の学習会に通っていた頃。
まだ、メガネをかけていなかった私は、自分の瞳の色が、他の子と違うことは気付いていても、それはたいしたことではないと思っていただけど、そう思わない奴らもいて、毎日、学習会に行くのが苦痛で仕方なくて、だけど、母には言えなかった。
私はは学習会に行くフリをして、サカエラのおじさんの屋敷に逃げ込んだ。
屋敷ではマリエッタさんが、仕事の合間に面倒を見てくれるようになった。そして、私には何も言わずに、母と相談して学習会に行かなくてもよくしてくれた。
それから私は、できるだけ目立たないように、人に目を見られないようにしてきた。
前髪を長くして、縁の太いメガネをかけて、メガネの奥の瞳を見られないようにしてきたのだ。
「ああ、そういえば、マイア―ルの瞳の色は、綺麗な色をしてたっけねぇ」
忘れてたよ、あはは、と、事もなげに笑った先生に、私はびっくりした。
今まで、瞳の色に気付いた子たちは、皆一様にギョッとして、気味悪そうにされたから。
「まぁ、まだ自信がないというなら、仕方がないけど……でも、いつまでも隠してはいられないだろう?」
確かに、私がやりたい仕事をするためには、隠したままではいけないかもしれない。
「レイ。君は私と同じ色の瞳が嫌かい?」
隣に座るエルドおじさんがそう言った。私と同じ金色の目が、少しだけ悲しそうに見える。
「そんなことないっ」
たった一人、私と同じ目の色をしているエルドおじさんと会うたびに、どれだけ救われたことか。
「よかった。レイに嫌われたら、私は死んでしまうよ」
「もう、大袈裟なんだから」
「……私は、何を見せられているんだろう」
ぼそりと先生が呟いた声は、私の耳には入ってこなかった。
ニヤニヤ笑いながら言う先生。
確かに、学校では誰とも話をしようとはしていなかった。
「もっと、教室でも、人と話をしたらいいのに。」
さらっと話しながら、成績表に視線を落とした先生。
でも私は、人に拒絶されるくらいなら、初めから関わらない方がいいんだ。
特に貴族令嬢たちの質の悪さには、目を背けたくなる。それを先生方に気付かせない巧妙さに恐怖すら覚える。
「宿屋の仕事といっても、色々あるだろう。中には、人と話をするようなのもあるし、『ダルンの癒し亭』辺りであれば、貴族も多く泊まるだろう」
先生が、私に視線を移した。普段は、のほほんとしているし、あんまり話をするわけでもない。
「本当に目指してるなら、いろんな人と接したほうがいいんじゃないかな」
先生の言う通りなんだと思う。でも。
「先生、レイは、小さい頃、いじめられてたことがあるんです」
「いじめですか?」
『こんな存在感の薄い、目立ちもしない子が?』
先生の目はそう言ってる気がする。
それは、私がそうしたいと思ってるからだけど。
「ええ。この子の瞳のせいで」
私がまだ教会の学習会に通っていた頃。
まだ、メガネをかけていなかった私は、自分の瞳の色が、他の子と違うことは気付いていても、それはたいしたことではないと思っていただけど、そう思わない奴らもいて、毎日、学習会に行くのが苦痛で仕方なくて、だけど、母には言えなかった。
私はは学習会に行くフリをして、サカエラのおじさんの屋敷に逃げ込んだ。
屋敷ではマリエッタさんが、仕事の合間に面倒を見てくれるようになった。そして、私には何も言わずに、母と相談して学習会に行かなくてもよくしてくれた。
それから私は、できるだけ目立たないように、人に目を見られないようにしてきた。
前髪を長くして、縁の太いメガネをかけて、メガネの奥の瞳を見られないようにしてきたのだ。
「ああ、そういえば、マイア―ルの瞳の色は、綺麗な色をしてたっけねぇ」
忘れてたよ、あはは、と、事もなげに笑った先生に、私はびっくりした。
今まで、瞳の色に気付いた子たちは、皆一様にギョッとして、気味悪そうにされたから。
「まぁ、まだ自信がないというなら、仕方がないけど……でも、いつまでも隠してはいられないだろう?」
確かに、私がやりたい仕事をするためには、隠したままではいけないかもしれない。
「レイ。君は私と同じ色の瞳が嫌かい?」
隣に座るエルドおじさんがそう言った。私と同じ金色の目が、少しだけ悲しそうに見える。
「そんなことないっ」
たった一人、私と同じ目の色をしているエルドおじさんと会うたびに、どれだけ救われたことか。
「よかった。レイに嫌われたら、私は死んでしまうよ」
「もう、大袈裟なんだから」
「……私は、何を見せられているんだろう」
ぼそりと先生が呟いた声は、私の耳には入ってこなかった。
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