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第5章
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夏休みが終わった。まだ暑さは残るものの、雲の形が変わってきていて、季節の移ろいが目に見えてきた。
いまだにエルドいじさんは、サカエラおじさんの家にいる。
すっかり、家に馴染んでいて、そのうえ、たまにサカエラおじさんの仕事を手伝っている。
国王陛下が、である。
ここで他の人の仕事を手伝うくらい元気なら、国に戻った方がいいのでは、と思うのだけれど。
エルドおじさんが来ていようと、私の学校での日常は変わらない。
一応、私の通っている学校は身分に関係なく平等をうたってはいるものの、実際には、身分をかさにきる馬鹿な貴族も少なからずいる。時々、貴族のご令嬢たちが、平民の誰かしらに、因縁をつけている姿を見ることがある。
私の場合、誰とも関わろうともしないから、誰も私には関わってはこない。影が薄いせいもあるだろうけど。
彼女たちの姿を見るにつけ、一人でいることが、どんなにか平和な気分で過ごせるか、つくづく思わされる。
ただ、今までと違うのは、カイルやサージェント様のような、高位貴族の存在を知ったこと。彼らは、あんなくだらないことはしない、と思う。
ついつい、アストリアでの出来事を思い出すと、あれは夢だったのではないかと、思ってしまう。今までと変わらない日常のせいで。
今日の最後の授業が終わり、帰ろうとバッグを手にした時に担任に呼ばれた。
教壇に立つ先生は、少し困ったような顔をしている。
「レイ・マイアール、今度の面談なのだが」
「はい」
この時期は、今後の進路について生徒だけではなく、保護者も同伴で話し合いをすることになっている。一般的な平民であれば、このまま、仕事につく者がほとんどだ。よっぽど優秀でない限り、上位の学校に進むことはない。
私も、母と同じように、宿での仕事をするつもりでいる。
母が亡くなるまで務めていたのは、王都にある高級宿、『ダルンの癒し亭』。ダルン侯爵家が出資している宿屋として有名だ。オーナーで未亡人のファルネーゼ子爵夫人(ダルン侯爵の実妹)には、サカエラおじさん同様に、よくしてもらっているし、私が卒業するのを待ってくれている。
「お前の保護者は……サカエラ商会のサカエラ氏でよかったよな?」
「ええ。去年もお願いしましたが?」
私に身内はいない。
祖父母は、母が若い時にすでに亡くなってるし、父親のほうは……アストリアにいるらしいけど、会えなかったし、自分の将来の話をするような相手でもないと思う。
そもそも、わざわざオルドンにまで来るとは思えないけど。
「いや、昨日、お前の親戚を名乗る方から問い合わせがきてな」
……は?
なんだか歯切れの悪い感じの先生に、私の方も困惑するしかない。
それは、本当のことなのだろうか。まさか、アストリアの親戚が?
「……」
「相手が貴族の方なのでな……一度、サカエラ氏と話してみてくれないか」
「はぁ」
そう聞くと、アストリアの関係だろうか。
「一応、連絡先はこちらだそうだ」
エルドおじさんにも相談したほうがいいかも、と思っているうちに、差し出された小さなメモ。そこには、相手の名前と貴族街の住所が書かれていた。
「……マイア―ル男爵?」
名前から、母の関係者なんだろうという予想はつく。うちはずっと平民だと思っていたのに、貴族と繋がりがあるなんて。それも、貴族街ということは、オルドンの貴族だ。
しかし、なんで今さら、それもなんで学校に? と疑問しか浮かんでこない。
先生に頭を下げ、メモを制服のジャケットのポケットに突っ込む。
なんだか、もやもやした気分のまま、私は教室をを出た。
いまだにエルドいじさんは、サカエラおじさんの家にいる。
すっかり、家に馴染んでいて、そのうえ、たまにサカエラおじさんの仕事を手伝っている。
国王陛下が、である。
ここで他の人の仕事を手伝うくらい元気なら、国に戻った方がいいのでは、と思うのだけれど。
エルドおじさんが来ていようと、私の学校での日常は変わらない。
一応、私の通っている学校は身分に関係なく平等をうたってはいるものの、実際には、身分をかさにきる馬鹿な貴族も少なからずいる。時々、貴族のご令嬢たちが、平民の誰かしらに、因縁をつけている姿を見ることがある。
私の場合、誰とも関わろうともしないから、誰も私には関わってはこない。影が薄いせいもあるだろうけど。
彼女たちの姿を見るにつけ、一人でいることが、どんなにか平和な気分で過ごせるか、つくづく思わされる。
ただ、今までと違うのは、カイルやサージェント様のような、高位貴族の存在を知ったこと。彼らは、あんなくだらないことはしない、と思う。
ついつい、アストリアでの出来事を思い出すと、あれは夢だったのではないかと、思ってしまう。今までと変わらない日常のせいで。
今日の最後の授業が終わり、帰ろうとバッグを手にした時に担任に呼ばれた。
教壇に立つ先生は、少し困ったような顔をしている。
「レイ・マイアール、今度の面談なのだが」
「はい」
この時期は、今後の進路について生徒だけではなく、保護者も同伴で話し合いをすることになっている。一般的な平民であれば、このまま、仕事につく者がほとんどだ。よっぽど優秀でない限り、上位の学校に進むことはない。
私も、母と同じように、宿での仕事をするつもりでいる。
母が亡くなるまで務めていたのは、王都にある高級宿、『ダルンの癒し亭』。ダルン侯爵家が出資している宿屋として有名だ。オーナーで未亡人のファルネーゼ子爵夫人(ダルン侯爵の実妹)には、サカエラおじさん同様に、よくしてもらっているし、私が卒業するのを待ってくれている。
「お前の保護者は……サカエラ商会のサカエラ氏でよかったよな?」
「ええ。去年もお願いしましたが?」
私に身内はいない。
祖父母は、母が若い時にすでに亡くなってるし、父親のほうは……アストリアにいるらしいけど、会えなかったし、自分の将来の話をするような相手でもないと思う。
そもそも、わざわざオルドンにまで来るとは思えないけど。
「いや、昨日、お前の親戚を名乗る方から問い合わせがきてな」
……は?
なんだか歯切れの悪い感じの先生に、私の方も困惑するしかない。
それは、本当のことなのだろうか。まさか、アストリアの親戚が?
「……」
「相手が貴族の方なのでな……一度、サカエラ氏と話してみてくれないか」
「はぁ」
そう聞くと、アストリアの関係だろうか。
「一応、連絡先はこちらだそうだ」
エルドおじさんにも相談したほうがいいかも、と思っているうちに、差し出された小さなメモ。そこには、相手の名前と貴族街の住所が書かれていた。
「……マイア―ル男爵?」
名前から、母の関係者なんだろうという予想はつく。うちはずっと平民だと思っていたのに、貴族と繋がりがあるなんて。それも、貴族街ということは、オルドンの貴族だ。
しかし、なんで今さら、それもなんで学校に? と疑問しか浮かんでこない。
先生に頭を下げ、メモを制服のジャケットのポケットに突っ込む。
なんだか、もやもやした気分のまま、私は教室をを出た。
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