ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

文字の大きさ
上 下
39 / 81
第5章

38

しおりを挟む
 サージェント様に言われた通り、翌日にはアストリアの王都から旅立っていた私たち。
 まがりなりにも国王陛下のエルドおじさんなのに、旅立つ準備とか、仕事のこととか、そんな簡単に片を付けてしまうことに唖然となる私。
 気が付けば馬車にのり、あれよあれよという間に、オルドンに戻ってきてしまった。
 予定よりも戻りが早いことと、エルドおじさんを同行していることに驚くかな、と思っていたのに、サカエラおじさんは、待ってましたと言わんばかりに満面の笑みで、エルドおじさんを屋敷に招き入れていた。

 アストリアから戻ると、私には、普段通りの毎日が始まった。
 違いがあるとすれば、サカエラのおじさんの家に、いつもエルドおじさんがいるようになったことだ。
 料理長のホッズさんやマリエッタさんに頼まれた買い物を終えて帰ってくる度。

「おかえり~」

 玄関先でドアを開けたとたん、『ただいま』という前に抱き付かれて、毎回私は押しつぶされそうになる。荷物持ってるのに!

「お、おじさんっ、苦しいっ」

 背中をポンポンと叩いて、ようやく脱出できる。
 毎回、なぜ玄関開けてすぐに、と思ったら、カイルからアストリア土産だと渡されてたチャームについた魔石に、追跡機能がつけられてたことを、ついこの前教えられた。

「そこまでしなくても」
「いやいや、心配なんだよ」
「……ここで心配されるべきなのは、おじさんの方じゃ」

 一国の王様が、まさか、こんな商会の会長の屋敷に滞在してるなんて、思ってもいないかもしれないけど。
 私が注意しても、おじさんは、ずっとサカエラおじさんの屋敷から出ないからいいんだって。それに、ちゃんと護衛がついていると。わざわざ紹介はしてくれなかったし、姿も見てないんだけど、影で護衛している人がいるんだそうだ。それも複数。全然、私にはわからない。それがプロというものなのかもしれない。
 そして、私にもなぜか、女性の護衛がついてしまった。

「レイ様、エルド様のお気持ちですから」
「……はぁ」

 私についているのは、ベアトリスさんという、凄い美女。なんでも、カイルの護衛をしているチャールズさん(少し軽い感じの護衛の方)の双子のお姉さんなのだとか。
 私の買い物にも一緒に行ってくれる頼もしい女性だ。さすがに、街中を騎士のような格好で平民の私の護衛は浮くので、私と似たような格好をしているけど。違う意味で浮いている。

「ホッズ! 今日の夕食はなんだい?」

 厨房に荷物を届けに来た私の後を、嬉しそうについてくるエルドおじさん。
 なぜか、オルドンに来てからエルドおじさんが、どんどん元気になっていっている気がする。

「そうですなぁ、エルド様のお好きな卵のフッカ焼きあたりどうですか」
「いいね、いいね」

 私の隣で荷物を取り出すのを、楽しそうに手伝うエルドおじさん。
 絶対、誰も、この人が国王陛下だなんて、思ったりしないと思う。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

処理中です...