ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第4章

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 あんなことがあったせいで少し遅くなったけれど、お昼の準備をすることができた。
 リシャールさんやサージェント様が無理しなくても、とおっしゃっていたけれど、何かしてた方が気がまぎれると思ったのだ。

 今日は、エルドおじさんの希望にそって、卵のフッカ焼き(キッシュ)を用意した。まだ、ベッドから出られる状況ではないようで、私はその脇で、おじさんが美味しそうに食べている姿を見つめてる。そういえば、うちに遊びに来ていた時も、こんな風に美味しそうに食べてくれた姿を思い出す。
 寝室の片隅では、王妃様とカイル、そのうえテオドア王子まで、カフェにでもあるようなテーブルで、私の作ったフッカ焼きを食べている。その上、テオドア王子はフォークでフッカ焼きを突き刺して、振り回してる。
 こういうお城みたいなところは、ながーいテーブルで、食事をするものだと思っていた。今、目の前で起こってるのは、普通のことなんだろうか?

『オイシーイ!』

 急に、テオドア王子が、フッカ焼きを私に見せながらオルドン語で叫んだ。

「私が教えたんだよ」

 ニコリと優しく笑うカイルに、私は一瞬、ドキリとしてしまう。まったく、美男子は罪作りだ。

「お食事中すみません……」

 サージェント様が、静かに現れ、カイルの耳元で何か話している。きっとお仕事の話なのだろう。
 私は、フッカ焼きと格闘しているテオドア王子から、フォークをとりあげて小さく切り分けた。小さくした切ったフッカ焼きを、テオドア王子の口元にもっていくと、嬉しそうに大きくあける。
 ……さすがカイルの息子。凄いカワイイ。

「陛下」
「……どうした?」
「……しばらく、レイ様と一緒にオルドンに行かれませんか』

 部屋の音が、テオドア王子が動かすフォークの音だけになった。
 私、アストリア王国に来たばっかりで、たいした観光もしていないんだけど、と少し思ったんだけれど。

「……いいね」

 おじさんは、躊躇なく、カイルの言葉に頷いた。
 なんだか、いつものおじさんよりも、顔つきが鋭い気がする。

「おじさん、サカエラおじさんのうちに来るの?」
「ああ、しばらくのんびりするのもいいだろう。オルドンに行くのも久しぶりだしね」
「え、でも」

 カイルを見ると、優しく微笑んでる。

「さっそくですが、明日からで、よろしいですか」
「明日!?」

 サージェント様が、当然のことのように言うのに、私もびっくりして、思わず、大きな声が出た。だって、一国の王様が、そう簡単に他国にいっていいの!?
 ……あ、普通にうちに来てたっけ。

「まぁ……私、レイをお茶会に誘いたかったのに」
「王妃様、それは」
「もう……わかってるわ。レイ、次に来た時には、ぜひお茶会に出てほしいわ」
「え、え、え?」
「貴女の義理の叔母様と、お約束してたのだけれど」

 ……義理の叔母?
 王妃様と父がいとこ同士だったとは聞いたから、親戚がいてもおかしくはなかった。でも、それ以上の詳しい話を母からも聞いていなかった。
 当然、王妃様は高位貴族のはず。父は貴族だたってこと……
 というか、高位貴族や王族とのお茶会とか、無理だしっ!

「そんなことより、もっとレイの料理が食べられないのが残念だなぁ」

 エルドおじさんが心底残念そうな顔で言うから、思わず私も笑ってしまう。

「うちに来たら、ホッズさんが作ってくれるよ?」
「私は、レイの料理が食べたかったのだ!」

 まるで、子供みたいなことを言うおじさんに、テオドア王子まで、「たべたい! たべたい!」だなんて言い出す。

「おじさんがそんなのじゃ、テオドア王子がワガママになっちゃいますよ?」

 ダメですよ? と注意すると、カイルと王妃様が、クスクス笑ってる。
 ここに、国王一家がいるなんてことを忘れるくらい、ほのぼのとした空気に、私は幸せな気分になった。
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