ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第4章

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 リシャールさんが、思いのほか、市場の他、平民街にも詳しくて驚いた。なんでも、カイルのお忍びとかに、何度か付き合わされたことがあるらしい。王太子がお忍びで、とか、あの容貌では目立ちそうなのに、ちゃんと忍ぶことができたのだろうか。

 ダイスさんの実家では、なかなかの収穫があった。
 おじいさん、久しぶりのオルドン語で泣きそうになってて、つられて私も泣きそうになって困った。

「シーユとミシルまで分けていただけるなんて」

 期待はしてた。
 絶対ソームルがあるなら、シーユやミシルもあるはずだって。ただ、オルドン特有なものでもあるから、こちらでは貴重なものになるかも、と思ったのだ。
 でも、エルドおじさん……国王陛下が召し上がると聞いたら、おじいさんはむしろ大喜びで分けてくれた。ありがたいものだ。
 しかし、荷物が増えてしまった。どうしようと、思ったら、いつの間にかお付きの人が増えていてびっくり。もしかして、つけてきてたのだろうか。

「ずいぶんと塩辛いんですね、シーユというものは」

 そんなことを考えていると、味見をしたリシャールさんが、味を思い出して顔をしかめている。普通は原液のままでなんて飲まないから。

「あくまで、調味料ですから」
「そういうものなんですね」

 リシャールさんは普段、厨房になんて入らないだろう。だいたい、できたものしか口にしないようで、なかなか新鮮な驚きだったようだ。
 そんな会話をしていたおかげか、私たちはだいぶ砕けた雰囲気にはなったと思う。お貴族様相手に、どうかとは思うけど。

 必要と思われるものは一通り手に入れた私は、かなり満足していた。あとはまた、王宮の厨房をお借りして……と、作る物を考えながら、ほくほくした気分で王宮へ戻ろうと、リシャールさんの後をついていく。
 リシャールさんは王宮までの近道を選んでくれたようで、王宮の裏の通りを歩いていると。

 パシッ!

 突然、私の足元に太い矢が突き刺さった。

「えっ!?」

 目の前の状況に、固まる私。

「!? レイ様、こちらに急いでっ」

 荷物を持ったリシャールさんが、いきなり私を背後に庇うように隠しながら、王宮の裏門へと走る。気が付くと、黒ずくめの服を着た男の人たちが現れて、私たちの周りを守るように並走している。もしかして、こんなにつけてる人がいたの!?

「リシャール様」
「任せる」

 一人がぼそりと問いかけてきたのを、リシャールさんが小声で何か答えている。数人だけ残して、他の人達はババッといなくなった。
 一瞬のことにびっくりしながらも、私はリシャールさんに促されて王宮の裏の入口から無事に戻ることに成功した。
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