ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第4章

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 翌日、初めて街に行ってみた。一番は、エルドおじさんに食べてもらう食材探しだ。
 一応、王都ということもあり、市場もかなり大きい。ここであれば、オルドンの食材があるのではないか、と期待したのだ。
 当然、ついでに街の観光も楽しむつもりだ。

 オルドンと違い、アストリア王国は冬場かかなり寒くなるせいか、石造りの重厚な建物が多い。木製のドアには、必ずと言っていいほど、その家々の紋章のようなものが色とりどりで描かれていた。
 当然、街中はアストリア語であふれている。それなりに会話はできるものの、今までにないくらい、アストリア語ばっかりなので、なかなか新鮮だし、勉強になっている。

 人の波をぬいながら、市場の店を覗いていく。そんな私の後をついてくるのは、なんと、カイルに付いていた厳つい人……リシャールさんと言うらしい。王太子付きの人だから、絶対、この人もお貴族様だと思うんだけど、私についてきていいんだろうか。

『あ、コイモン(とろろ芋)だ』

 まさか、オルドンの食材でも珍しいコイモンがあるんなんて。

『おや、あんた、オルドン人かい』

 かなり高齢の店主がオルドン語で声をかけてきた。

『ええ、つい、この前、こちらに来たのよ。コイモンなんて、珍しいんじゃない?』
『そうさね、アストリアではあまり食べられないんだがね、好きな者がいるんでな』

 コイモンは山の中に生えているもので、平地が多いオルドンでは珍しい。そういえば、アストリアは山に囲まれた土地柄、あってもおかしくはないのか。それでも、食べないっていうのはもったいない。

『これ、ください』
『おう、ありがとさん』

 これをすりおろしたものを、エルドおじさん、食べてくれるだろうか。店主がずいぶんと大きなのを渡してくれたもので、大きめな籠からにょっきりと芋が出てします。

「よろしければ、お持ちしますが」

 そう声をかけてきたのはリシャールさん。

「え、あ、いえ、大丈夫ですっ!」

 私は恐縮しながら、籠を抱え込んで、ニッコリ笑った。
 一応、護衛とはいえ、お貴族様に、無理ですっ!

 しばらく市場をうろうろしているうちに、買いたい食材はほぼ揃えられた。たぶん、王宮の厨房にもありそうだけれど、自分で選んだ方が、なんとなく落ち着くというか。

「あとは、ダイスさんの家ですね」

 昨日、わざわざソームルと土鍋を持ってきてくれたダイスさん。もしかしたら、他にもオムダル由来の調味料とかないかな、とか思ったので、ダイスさんの実家に伺うことにした。ちゃんと、ダイスさんには許可をもらってる。

 ――できたら、シーユ(醤油)やミシル(みりん)あたりがあったらいいんだけど。

 私はダイスさんに書いてもらった住所をリシャールさんに見せる。

「それでしたら、あちらですね」

 リシャールさん共もに、私たちは市場を抜けると、平民が多く住む街の方へと足を向けたのだった。
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