ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第4章

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 私が用意したのは、おじさんの夕食になってしまった。メイドさんから、食事を運ぶワゴンを借りて、私自ら持ってきた。なかなか新鮮。

「私がおじさんに作ってあげられるのは、これくらいだよ?」

 ベッドに半身を起こしたおじさんの目の前におかれたソームルの具だくさんスープ。出来立てほやほや。コックトウル(瓜科)の漬物は、浅漬けだから、歯ごたえもあっていい感じ。水麦の炊いたやつは、土鍋ごと持ってきた。目の前で小さな器に盛ってあげたら、おじさんの目がキラキラしてるし。

「おおお! 久しぶりの水麦だ!」
「王宮の厨房にはあったよ? 作ってもらわなかったの?」
「……作り方がわからんし」
「え、でも、ダイスさんっていう若い料理人の人が、食べたことあるって」
「なんだと!」

 ……エルドおじさんは知らなかったらしい。オルドン出身の身内がいる者が厨房にいるのを。まぁ、確かに、国王陛下なわけで、わざわざ、厨房のそれも下っ端にまで目が届くわけもない。

 ……あ、そうだった。エルドおじさんは、国王だったっけ。

 今更思い出して、内心焦っている私をよそに。

「早くに知っていれば!」 
「とりあえず、どうぞ」
「おお!」

 ――病人だったんだよね?

 そう思うくらい、エルドおじさんの食事が進む。

「……美味い。美味いなぁ」

 エルドおじさんの呟きが聞こえる。

「おじさん、おかわりいる?」
「あ……お願いしようか」

 私の言葉に素直に器を差し出すおじさん。
 格好はいつもと違うけれど、浮かべる笑みはいつものおじさんだ。

「このスープもいいな。少し塩味が強い気がするが」
「ごめん、これもこちらで分けていただいたやつだから」
「そうか、そうか」

 気が付いたら、スープも水麦も完食してるし。

「美味かった!」
「それはよかった」

 すっかり、二人の世界になっていたところで。

「……次回は、私たちも食べさせていただきたいものですね」

 あ。
 カイルと王妃様が、笑みを浮かべながら立っていた。

「す、すみませんっ!」

 いや、しかし。おじさんが望んだから、食事を作ったわけで、さすがに他の王族の方々には……。
 チラリとおじさんへと目を向けるけど、スッと視線を逸らされた。ズルいッ!

「いや、でも、私が作れるのは、こんな質素なものでしかありませんし」
「いえいえ、陛下が美味しそうに召し上がっているのですもの、私も一度は頂てみたいですわ」

 ……えぇぇぇぇ。
 これ、料理人の方々に失礼ってもんじゃ。

「レイ、今度は卵のフッカ焼き(キッシュ)が食べたい」
「お、おじさんっ」
「お前のフッカ焼きは世界一美味い。食べたいなぁ」

 そんな物欲しそうな顔をするなんて、ズルいっ。

「う、う~ん」
「ぜひ、作ってはもらえないだろうか……今度は、私たちの分も」

 カイルがニンマリ笑ってる。
 ああ、これは、断れないやつだ。 

「は、はぁ……」
「じゃあ、明日のお昼なんてどうだ?」
「わ、わかりました……料理人の方には、ちゃんと断りを入れといてくださいね」

 私は料理をするために、ここまで来たんだろうか。
 食器を片づけながら、ちょっとだけ、首をかしげる私なのであった。
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