ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

文字の大きさ
上 下
33 / 81
第4章

32

しおりを挟む
 私は、今、王宮内の大きな厨房にいる。
 時間はすでに昼食の後片付けも終わり、料理人の方々の食事も終えているようだ。

 カイルから、エルドおじさんの食事を作るように頼まれて、ここに立っているのだけれど、私が作れるのなんて、母の教えてくれた家庭料理。それなのに、こんな厨房に連れてこられて、さぁ、作れ、といわんばかりに、料理人たちに見つめられてるなんて、どんないじめだ。でも、エルドおじさんの頼みごとじゃ、仕方ない。
 
 でもっ! こんな大きな鍋とか、フライパンとか、私に使いこなせるわけないじゃない!
 それに、サカエラ邸に持ち込んだ、母手作りの調味料、ソームル(味噌みたいなもの)もない! ……今では微妙にマリエッタさんの味になってきてるけど。
 たぶん、エルドおじさんが食べたいのって、そういうのだろう。

 大きなため息をつくと、たぶん、この場で一番偉そうな人(たぶん、料理長)に声をかけた。

「どうかしたかい?」
「すみません、あの、こちらにはソームルはないですか?」
「ソームル……ああ、オルドンの家庭で使われる調味料か。うーん、さすがに、この厨房では用意してないなぁ」
「そうですか……あ、あと、もう少し小ぶりな鍋とか……」
「ああ、それならある」

 料理長が若い料理人に声をかけてくれた。

「そういや、ダイス、お前んとこの爺さん、オルドン出身じゃなかったか」

 小鍋を持ってきた若い料理人に、別の料理人の人が声をかける。

「あ、はい。ソームルなら、実家にならあるかもしれませんが……家々で味が違うんで……」

 確かに、材料の配分で味が少しずつ違ってくる。しかし。

「あの、無いよりいいので、少しお分け頂けたりしますか?」
「ダイス、今から取りに行ってこい」
「は、はいっ」

 ダイスが駆け出していく後姿を見送ると、他の材料の方へと目を向ける。
 一応、今考えているのは、ソームルの具だくさんスープに、コックトウル(瓜科)の漬物、水麦の炊いたやつ。どれも母が得意にしていた料理だ。

「さすが王宮……いい材料が揃ってるわ」

 立派な野菜や大きな肉の塊があったりと、なかなか街中の市場でもみない物がある。
 私がザックザクと材料を切っているうちに、ダイスさんが大荷物を背負って帰ってきた。

「はぁ、はぁ、も、戻りましたぁっ」

 膝から崩れ落ちながらも、背中の荷物は落とさなかった。偉い。
 その荷物を他の料理人たちが受け取り、調理台へと置いていくと。

「わっ! 凄いっ! 土鍋も持ってきてくださったんですか!」

 思わず喜びの声をあげる。

「はぁ、はぁ、はぁ……じ、じい様が、オルドンの料理をやるなら、これも使うんじゃないかと」
「おお! わかってらっしゃる!」

 アストリアの食事はパンがメインなのは聞いていたし、そもそも、水麦の炊くのも、オルドンの田舎料理だと、母から聞いた記憶がある。

「さぁて、頑張りますか」

 私は土鍋を手に、気合をいれたのであった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

この度、運命の番に選ばれまして

四馬㋟
恋愛
※章ごとに主人公が変わるオムニバス形式 ・青龍の章: 蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。 ・朱雀の章: 美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います

下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。 御都合主義のハッピーエンドです。 元鞘に戻ります。 ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!

夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。 エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。 それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?  ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹

処理中です...