ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第4章

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『カアイイー!』

 テオドア王子は、そんな私の心境なんて、気づくわけもなく、キャッキャと私の髪をいじりはじめた。

「わ、ど、どうしよ。ダ、ダメですよ、テオドア様」
 
 ぐしゃぐしゃにされながら、私は眼鏡をとられないようにはずした。せっかくメイドさんたちに綺麗にしてもらったのに。そう思いながら、手櫛で整える。
 カイルも慌ててテオドアを足元に下して、私の顔を見ると、にこりと笑った。

「そうやって、眼鏡なんてはずせばいいのに」

 カイルは、前髪をすくいあげて、私の瞳を覗き込む。

「えっ……」
「美しい瞳をしているのだから」

 母以外に、そんなことを言う人はいなかった。
 近所に住む子供たちに散々揶揄われてたから、小さいうちは前髪を伸ばして、学校に上がるころには眼鏡もかけて、金色の瞳を隠していた。
 私は慌てて前髪を元に戻すと、カイルから少しだけ離れた。あまりにドキドキし過ぎて、自分の顔が火照ってるのがわかる。カイルは自分がどれだけ美形なのか、わかってないんじゃないか。

「レイ?」

 私の足元に来たテオドア王子が、ドレスをちょいちょいと引っ張る。

「おねつあるの?」
「……大丈夫かい?」

 テオドア王子の言葉に、少し心配そうに優しく語りかけるカイル。

「す、すみません。ちょっと、疲れが出たのかもしれません」
「それはいけない。今日は、一日ゆっくり休むといいい」

 カイルはテオドア王子を乳母に預けると、私とともに部屋を出た。
 そこには、しっかり護衛の二人が待っている。さすが王太子だ。それなのに、私の隣を歩いて、歩調まで合わせて歩くカイル。
 先ほどのカイルの顔を思い出すだけで、ドキドキが止まらなくなるから、顔をあげることができない。

 私の部屋まで送ってくださったのは、助かった。この広い王宮内、一人で戻ってこれる自信はまったくないのだもの。もう一度、エルドおじさんのところに行く自信もない。

「無理はいけないよ?」
「……はい。ありがとうございました」

 ドアの前でぺこりと頭を下げると、去り際に、カイルに軽く額にキスされた。

「へ?」

 こっちでは挨拶のたびに、するものなのだろうか? いや、貴族とか王族とか?
 呆然と見送る私を、護衛の二人……厳つい方はまったく見向きもしなかったけれど、もう一人の若い方は、ニヤニヤ笑いながら、私にひらひらと手を振って去っていった。

 彼らの姿が見えなくなったとたん、胸がドキドキしてきた。

 ――毎回、こんなことされてたら、私の心臓は持たない気がする。

 私は頭をクラクラさせながら、部屋の中へと入っていった。
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