ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第4章

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 エルドおじさんと、ほとんど話らしい話をする暇もなく、私は別室へと案内された。そこでは、先ほど会ったばかりのテオドア王子が、四十代くらいのおばさんとともに、遊んでいた。たぶん、乳母かもしれない。

「さぁ、改めて、僕の息子を紹介させてくれるかな」

 カイル王太子を見つけたとたん、大きなエメラルドグリーンの目が一層大きく開かれ、 嬉しそうに立ち上がって、とてとてと歩いてくる。

「パパ!」

 カイル王太子は、その姿を誇らしげに見つめ、彼が歩いてくるのを待っている。カイル王太子の足元に到着すると、サッと抱き上げられたテオドア王子。彼の顔が私のすぐ目の前までやってきた。うわ、可愛いっ!

「テオドア、ご挨拶は?」
「う?」

 最初、カイル王太子にきょとんとした顔をしたかと思ったら、今度は私のほうを見る。

「テオドア! さんさいっ!」

 ……満面の笑みを浮かべて、ご挨拶してくれたのはいいんだけれど、なぜか今度は、ご機嫌で私の頭をペシペシ叩き始めた。所詮、三歳児のこと、大した力はないんだけど。
 私も、ついつい、ニコニコしながら叩かれている。

「こらっ! テオドア! 人の頭を叩いてはいけないよ」
「カイル王太子殿下、大丈夫ですよ」

 カイル王太子の注意の声に、彼の息子は、一瞬、父親が何を言っているのかわからないのか、ぽかんとしている。

「いや、そういうわけにはいかない。ダメなものはダメと教えなければ」
「まぁ、そうですけど……テオドア様、痛い痛いですから、やめてくださいね」

 そう言ってニッコリ笑ってみせると、今度は私の笑顔の何十倍もの威力の微笑みが返ってきた。

『か、かわいいいいい!』

 思わず、正直な声が出てしまう。

『カアイイ?』

 ああ、テオドア王子は、なんて顔で、『カアイイ』なんていうんだろう!
 私の顔は、きっとメロメロになってるに違いない。

「クスッ、レイ、君の顔も、『カワイイ』よ」

 そう言ったかと思うと、カイル王太子は、隣に立っていた私の頬にキスをした。

「えっ!?」
「それと、私のことはカイルと呼んでくれ」
「い、いえ、そういうわけには……」

 目の前に、超イケメンの真面目な顔が接近してるっ!
 視線をはずして、乳母らしき女性や、他のメイドさんに目を向けるけど、サッと視線を外される。誰も助けてくれないのか!
 もう一度カイル王太子に目を向ける。

「カイル」

 諭すように言う、優しく響く低い声は、まるで魔法の言葉みたいだ。

「は……はい。カイル」

 目の前にある深いエメラルドグリーンの瞳には、誰も抗えないに違いない。
 相手が身分違いの王族だとわかっていても、吸い込まれるように、惹かれてしまう自分に、気付いてしまった。
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