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第3章
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シックな深いえんじ色のドレス、プラチナブロンドの長い髪に、翡翠のような緑色の瞳。そして、年齢不詳の美しさに、呆然としていると、おじさんの青白さに負けないくらい、青い顔をしているその人は、じっと私を見つめて、立ち止まった。
「……イリーナ」
おじさんの声の感じで、この人がおじさんに近い人なのだろうと想像がついた。もしかして奥さん? ……この国の王妃様!?
「あなた……彼女は?」
今にも泣きそうな顔で私を見続けるから、居た堪れなくて私のほうが先に視線をはずした。
「残念ながら、お前が期待している、私の隠し子ではないよ」
そう言うおじさんの声は、とても優しく、その声だけで、どれだけ王妃様を愛してるのかがわかるくらい。
「……!?」
王妃様は、その言葉が、嬉しかったのか、寂しかったのか、悲しかったのか。
ただただ驚いた表情で立ち尽くしている。私は王妃の前に立ち、たいして身長差のない彼女に向き合って、不慣れなカーテシーで挨拶をした。
「お初にお目にかかります。レイ・マイア―ルと申します』
「……」
少し悲し気な表情で、私を見つめる王妃。この人は、まだ、聞いていないのか?
「サージェント様から聞いてませんか? 私の父の話」
「……いいえ」
王妃様は、ひっそりと後ろに立っていたサージェント様へ訝し気に視線をやった。
それは、報告を怠っていたことへの批難も意味していただろう。硬い表情のまま、サージェント様は王妃様に向かって、深々と頭を下げた。
私は王妃様に向かって話し始めた。
「……私の父は、レオン・バーンズといいます」
「まさかっ!?」
王妃様は驚いた顔で、私の顔を食い入るように見つめた。
「……そうだ。お前の従弟のレオンだよ」
おじさんは深いため息の後、そう伝えると、王妃様は泣きそうな顔になっている。
「……彼に……彼に家族がいたなんて……」
「レイの母親……メリンダは、あの時、レオンの死のショックで、体調を崩してしまってね……だから、葬儀にも来れなかった」
私が3歳の頃。あやふやな記憶の中で、ベッドから半身を起こした、無表情な母の姿を思い出す。
「まぁ……。レイ、今は、あなたのお母様は?」
「去年亡くなりました」
私はなんとか、笑えたと思う。もう半年経ったのだから。
「なんてこと!」
急に、ふわっと、薔薇のような香りが私を包んだ。
「……レイ」
私よりも小柄だった母のそれとは違うけれど、この抱擁は亡き母のことを思い出させた。
「私は大丈夫です。私のことを大事に思ってくれる人がいるから」
抱きしめてくれた王妃様から、そっと身体を離し、心配そうに見つめる王妃様に、笑いかける。
「……そろそろ私たちは失礼しようか。義母上、義父上とお話があるのでは?」
カイル王太子に言われ、私は彼と共に部屋を出た。
二人は、これから、どんな話をするのだろう。少し気になりながらも、私はカイル王太子の後をついていった。
「……イリーナ」
おじさんの声の感じで、この人がおじさんに近い人なのだろうと想像がついた。もしかして奥さん? ……この国の王妃様!?
「あなた……彼女は?」
今にも泣きそうな顔で私を見続けるから、居た堪れなくて私のほうが先に視線をはずした。
「残念ながら、お前が期待している、私の隠し子ではないよ」
そう言うおじさんの声は、とても優しく、その声だけで、どれだけ王妃様を愛してるのかがわかるくらい。
「……!?」
王妃様は、その言葉が、嬉しかったのか、寂しかったのか、悲しかったのか。
ただただ驚いた表情で立ち尽くしている。私は王妃の前に立ち、たいして身長差のない彼女に向き合って、不慣れなカーテシーで挨拶をした。
「お初にお目にかかります。レイ・マイア―ルと申します』
「……」
少し悲し気な表情で、私を見つめる王妃。この人は、まだ、聞いていないのか?
「サージェント様から聞いてませんか? 私の父の話」
「……いいえ」
王妃様は、ひっそりと後ろに立っていたサージェント様へ訝し気に視線をやった。
それは、報告を怠っていたことへの批難も意味していただろう。硬い表情のまま、サージェント様は王妃様に向かって、深々と頭を下げた。
私は王妃様に向かって話し始めた。
「……私の父は、レオン・バーンズといいます」
「まさかっ!?」
王妃様は驚いた顔で、私の顔を食い入るように見つめた。
「……そうだ。お前の従弟のレオンだよ」
おじさんは深いため息の後、そう伝えると、王妃様は泣きそうな顔になっている。
「……彼に……彼に家族がいたなんて……」
「レイの母親……メリンダは、あの時、レオンの死のショックで、体調を崩してしまってね……だから、葬儀にも来れなかった」
私が3歳の頃。あやふやな記憶の中で、ベッドから半身を起こした、無表情な母の姿を思い出す。
「まぁ……。レイ、今は、あなたのお母様は?」
「去年亡くなりました」
私はなんとか、笑えたと思う。もう半年経ったのだから。
「なんてこと!」
急に、ふわっと、薔薇のような香りが私を包んだ。
「……レイ」
私よりも小柄だった母のそれとは違うけれど、この抱擁は亡き母のことを思い出させた。
「私は大丈夫です。私のことを大事に思ってくれる人がいるから」
抱きしめてくれた王妃様から、そっと身体を離し、心配そうに見つめる王妃様に、笑いかける。
「……そろそろ私たちは失礼しようか。義母上、義父上とお話があるのでは?」
カイル王太子に言われ、私は彼と共に部屋を出た。
二人は、これから、どんな話をするのだろう。少し気になりながらも、私はカイル王太子の後をついていった。
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