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第3章
25 side カイル
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王城の大きなロータリーで待ち構えるカイル。その目の前に、馬車がゆっくりと止まった。
ドアが開くと同時に、まず先にサージェントが降りてきた。目の前に、まさか王太子本人が待ち構えるとは思いもよらず、大きく目を見開く。しかし、諦めたように、小さくため息をつくと、その場を譲った。
カイルは期待の眼差しで、馬車の中へと目を向けると、続くように降りようとしていたレイの姿が見えた。
――制服以外の姿も、可愛らしい。
たぶん、サカエラが用意させたであろう、シンプルでありながら上等な生地で作られたと思われる紺色のワンピース。黒縁の眼鏡は相変わらずだが、その眼鏡の奥に輝く金色の瞳に、胸がドキッとする。
手を差し出したカイルに、レイは「え?」と声をあげた。
心からの微笑みを浮かべただけで、周囲にいる者たちは、ハッと息をのむが、カイルの目にはレイしか見えていない。
「おかえり、レイ」
約三か月前に初めて出会っただけだというのに、自然とその言葉が出た。
レイはまさかカイル自身が出迎えに来るとは思っていなかったのか、呆然としてしまい、馬車から降りてこない。
「レイ様、お早く」
「あ、は、はいっ」
背後にいたのは、サージェントのメイドの一人、マリア。その目はカイルへ生温い視線を向けている。
レイは指先だけをカイルの掌にのせようとしたけれど、彼が許すわけもなく。
「さぁ、しっかりつかまって」
「え、え、えぇぇぇ!?」
強引に引き寄せると、そのまま姫抱きに抱きかかえる。
ふわりと香る石鹸の匂いに、内心、ドキッとするが、そんな顔は見せないカイル。
一方で、レイはあわあわと混乱している。そんな彼女の表情に、ニヤリと笑う。最初の出会いから、どこか大人びてクールな印象のあった彼女の、年相応に焦った表情を見て、嬉しくなった。
レイを王城内の客間へと案内した後、不機嫌そうなカイルが自分の執務室へと向かう。
本来なら、王宮内の一部屋へと案内したかったのが、サージェントがそれを止めた。彼女は隣国の平民という立場にある。その彼女を容易に王宮内に入れることなど、認められない、というのだ。
レイの金色の目を見れば、絶対に王家の血筋が入っているのはわかるというのに。
「陛下が聞いたら、なんと言うか」
「しかし、王族の安全面のためにも、安易には」
「……わかっておる」
リシャールに諫められるカイルは、ムスッとしたまま執務室のドアを開ける。その彼の隣に素早く近寄る地味な男。王家の影の一人だ。
「……グライス伯爵が、なにやら画策しているようです」
男へ目を向けると、話を続けるように、頷く。
「おそらく、レイ様の存在に気づいたのかと」
「隠し子の件か。彼女は、もう関係ない。最終的に陛下に確認をする必要はあるが、まず、間違いなく、陛下の御子ではないぞ」
「はっ……しかし、隠し子がいるかもしれない、という情報だけが独り歩きしているようでして」
「……我々が非公式にオルドン王国に行っていたことが伝わっているのか」
「……それだけではなないと思いますが。あなた様の母上も……」
思い出したくもない、実母の存在に、つい、歯ぎしりをする。
先王の妾であり、息子のカイルが生まれたと同時に、金だけ受け取ると、さっさと別の男のもとへ去って行った血縁上の母親。夜会などの席で遠くにいるのを見かけた程度でしかない。愛情など一欠けらも感じない。
そんな母親を、利用しようとする、今の夫のグライス伯爵。
「……まずは、レイの安全を優先してくれ」
「はい」
そのまま静かに部屋を出ていく男。
「まったく……厄介な女だ」
苦々しく呟きながら、再び仕事に戻るカイルであった。
ドアが開くと同時に、まず先にサージェントが降りてきた。目の前に、まさか王太子本人が待ち構えるとは思いもよらず、大きく目を見開く。しかし、諦めたように、小さくため息をつくと、その場を譲った。
カイルは期待の眼差しで、馬車の中へと目を向けると、続くように降りようとしていたレイの姿が見えた。
――制服以外の姿も、可愛らしい。
たぶん、サカエラが用意させたであろう、シンプルでありながら上等な生地で作られたと思われる紺色のワンピース。黒縁の眼鏡は相変わらずだが、その眼鏡の奥に輝く金色の瞳に、胸がドキッとする。
手を差し出したカイルに、レイは「え?」と声をあげた。
心からの微笑みを浮かべただけで、周囲にいる者たちは、ハッと息をのむが、カイルの目にはレイしか見えていない。
「おかえり、レイ」
約三か月前に初めて出会っただけだというのに、自然とその言葉が出た。
レイはまさかカイル自身が出迎えに来るとは思っていなかったのか、呆然としてしまい、馬車から降りてこない。
「レイ様、お早く」
「あ、は、はいっ」
背後にいたのは、サージェントのメイドの一人、マリア。その目はカイルへ生温い視線を向けている。
レイは指先だけをカイルの掌にのせようとしたけれど、彼が許すわけもなく。
「さぁ、しっかりつかまって」
「え、え、えぇぇぇ!?」
強引に引き寄せると、そのまま姫抱きに抱きかかえる。
ふわりと香る石鹸の匂いに、内心、ドキッとするが、そんな顔は見せないカイル。
一方で、レイはあわあわと混乱している。そんな彼女の表情に、ニヤリと笑う。最初の出会いから、どこか大人びてクールな印象のあった彼女の、年相応に焦った表情を見て、嬉しくなった。
レイを王城内の客間へと案内した後、不機嫌そうなカイルが自分の執務室へと向かう。
本来なら、王宮内の一部屋へと案内したかったのが、サージェントがそれを止めた。彼女は隣国の平民という立場にある。その彼女を容易に王宮内に入れることなど、認められない、というのだ。
レイの金色の目を見れば、絶対に王家の血筋が入っているのはわかるというのに。
「陛下が聞いたら、なんと言うか」
「しかし、王族の安全面のためにも、安易には」
「……わかっておる」
リシャールに諫められるカイルは、ムスッとしたまま執務室のドアを開ける。その彼の隣に素早く近寄る地味な男。王家の影の一人だ。
「……グライス伯爵が、なにやら画策しているようです」
男へ目を向けると、話を続けるように、頷く。
「おそらく、レイ様の存在に気づいたのかと」
「隠し子の件か。彼女は、もう関係ない。最終的に陛下に確認をする必要はあるが、まず、間違いなく、陛下の御子ではないぞ」
「はっ……しかし、隠し子がいるかもしれない、という情報だけが独り歩きしているようでして」
「……我々が非公式にオルドン王国に行っていたことが伝わっているのか」
「……それだけではなないと思いますが。あなた様の母上も……」
思い出したくもない、実母の存在に、つい、歯ぎしりをする。
先王の妾であり、息子のカイルが生まれたと同時に、金だけ受け取ると、さっさと別の男のもとへ去って行った血縁上の母親。夜会などの席で遠くにいるのを見かけた程度でしかない。愛情など一欠けらも感じない。
そんな母親を、利用しようとする、今の夫のグライス伯爵。
「……まずは、レイの安全を優先してくれ」
「はい」
そのまま静かに部屋を出ていく男。
「まったく……厄介な女だ」
苦々しく呟きながら、再び仕事に戻るカイルであった。
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