ご落胤じゃありませんから!

実川えむ

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第3章

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 私は混乱している。

 ――なぜ、こんな、立派なドレスを着させられているんだ?

 要所要所に美しいレースが施された、薄いサーモンピンクの可愛らしいドレス。人生初ドレスだ。こんなのお貴族様が着るようなものじゃないか。平民の私が着ていいものじゃない。
 その上……なぜかピッタリのサイズのドレスが用意されている。
 三つ編みにしていた黒髪はほどかれ、キレイに梳られて、うねうねと波打ち、艶々に光っている。うっすらと化粧を施されて、今まで見たことない自分がいる。残念なのは黒縁メガネ。これを外すと、よく見えないから、仕方がないけど。

「前髪はお切りになりませんの?」

 メイドの一人がそう言って顔を傾げて、覗き込んでくる。
 眼鏡で隠しても、見えてしまう、金色の目が嫌いだ。この目の色のせいで、小さい頃は散々いじめられた。

「ええ、このままで」

 残念そうな顔をしながらも、それ以上は言わないでくれた。

 私が案内された部屋は、王城の中の一角にある客間なのだろう。一応、私の荷物も置かれているので、ここに泊まるんだろう……って、平民の私が、こんなお城に泊まるのかっ!? と思って、いっしょに来てくれたマリアに聞いたら、ただニッコリとされただけだった。

「まぁまぁ! やはりお似合いですね!」

 そんな葛藤をしている私をよそに、頬を染めながら、メイドたちが喜んでいる。
 彼女たちは王城に務めているのだから、私みたいな平民ではなく、貴族のご令嬢たちのはずだ。そんな彼女たちに、私はどんな身分の者だと伝わっているんだろうか。もし、平民だと知ったら、こんな態度はしないんじゃないか、と思ったら、なんだか嫌な気分になる。まだ、何もされていないのに。
 部屋のドアがノックされる。

「はい、どうぞ」

 私の声に、ドアがゆっくりと開く。そこには、王子様の格好をした(いや、実際に王子様なんだけれど)カイル王太子と……彼そっくりの小さな男の子が、彼に抱えられながら現れた。
 室内にいたメイドたちが、ササッと、頭を下げている。

「あっ」

 私も慌てて彼女たちに習おうとしたんだけれど。

「レイはそのままで」

 そう言われてしまえば、身動きができなくなる。

「凄くいいね」

 おおお。なんだ、その輝かしいばかりの微笑みはっ!

「パパ、このひと、だあれ?」

 ……なんと。この子がカイル王太子の息子!?

「この人はねぇ……国王陛下……お祖父様の大事な人だよ」

 その言い方、なんか誤解を受けそうなんですけど。思わず、苦笑いを浮かべる私。そんな私に目を向け、意味深な笑みを浮かべている。
 いやいやいや。これ以上、何か画策とかしてないわよね。
 私は唇が引くつくのを、止められなかった。

***

 第23話より、会話文をアストリア語を通常の鍵括弧、オルドン語(レイの母国語)を二重の鍵括弧に変えております。
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