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第3章
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乗合馬車のつもりでいた私の覚悟を、返してほしい。
街中を巡回している馬車の板張りを経験していたから、おそらく乗合馬車もそのようなモノだと思ってた。だからこそ、小さなクッションを荷物の中に無理やり詰め込んでいたのに。
……なんだ、この上等な座席は。
『レイ様、お飲み物はいかがなさいますか』
なぜだか、とーても立派な馬車の中にいる私。そして、目の前にはサージェント様が仏頂面のままだ。
そんなサージェント様をよそに、私の隣に座る女性……メイドさん、なんだろうか。彼女がにこやかに話しかけてくる。さすがに、一応、成人前とはいえ、私も女性の一人。男女が馬車の中に二人きり、というわけにもいかないから、ということなんだろう。
そして、向かい側に座るサージェント様の機嫌の悪そうな顔を見たら、飲み物を勧められたって、素直に受け取る気になるわけがない。
『け、結構です』
私は顔を引きつらせながら断ると、窓の外へと目を向ける。まだ街の中を走っているようで、建物の景色がゆっくりと流れていく。
最初、馬車に乗り込んで早々、向かい側に座ったサージェント様。ジロジロと私の顔を眺めたかと思ったら、いきなり私の前髪をかきあげた。
「!?」
私が驚くと同時に、彼もびっくりした顔をした。
「な、なにするんですかっ!」
『す、すまない』
冷ややかな瞳の印象が強かったのに、今、目の前にいる人は、戸惑いを隠せないでいる。
『その瞳は……』
『父の瞳と同じだそうです』
『……まさか君が、レオンの娘だったとは』
『父を知ってるんですか!?』
サージェント様が、懐かしそうに父の名を呼ぶので、思わず聞いてしまった。
『……ああ。しかし、そんなに交流があったわけではない』
残念そうな顔をチラリと見せて、その先は何も話してはくれなかった。
いつの間にかに街を抜けると、馬車は大きな街道を走っていく。
いくつもの馬車を追い越していくスピードに、驚きが隠せない。全然、ペースが違うのだ。目を瞠りながら、流れていく景色に息をのむ。
『……これから、どういう経路で向かわれるのですか』
乗合馬車であれば、アストリア王国までの直通がないから、何度か乗り継ぎがあったはずだ。何せ、隣国は山越えをしなくてはならず、それが厳しいので、普通は山を越えずに、迂回ルートを選ぶのだ。
『うむ? 経路も何も、直通の街道を向かうだけだが』
『え?』
『王族専用の街道があるから、それを使うだけだ』
その言葉に、私ははてなマークがいくつも浮かぶ。王族? 直通の街道?
『カイル王太子から、何も聞いていないのか?』
……?
『すみません?』
『ん?』
『カイル王太子?』
『ああ?』
『あの人が?』
『そうだが』
『……』
……知らなかったよ。
今頃になって、血の気が引いてきている。私、失礼なことしなかったかしら。
『知らなかったのか?』
『……はい。おじさんも、普通に接してたし』
『サカエラ氏?』
『はい。』
『彼は国王の親友だからな』
『……え?』
『エルド六世。君が「エルドおじさん」と呼ぶ人のことだ』
えっ!?
な・ん・だ・っ・て!?
『……本当に、君は何も知らないんだな』
そう言って、呆れたような顔をする、サージェント様。
『だ、だって、おじさんたちは、何も言わなかったから……』
そうだ。おじさんたちは、何一つ、教えてくれなかった。
でも、それでも、私は何も知らなくても問題なかったし、十分に幸せだったのだ。
街中を巡回している馬車の板張りを経験していたから、おそらく乗合馬車もそのようなモノだと思ってた。だからこそ、小さなクッションを荷物の中に無理やり詰め込んでいたのに。
……なんだ、この上等な座席は。
『レイ様、お飲み物はいかがなさいますか』
なぜだか、とーても立派な馬車の中にいる私。そして、目の前にはサージェント様が仏頂面のままだ。
そんなサージェント様をよそに、私の隣に座る女性……メイドさん、なんだろうか。彼女がにこやかに話しかけてくる。さすがに、一応、成人前とはいえ、私も女性の一人。男女が馬車の中に二人きり、というわけにもいかないから、ということなんだろう。
そして、向かい側に座るサージェント様の機嫌の悪そうな顔を見たら、飲み物を勧められたって、素直に受け取る気になるわけがない。
『け、結構です』
私は顔を引きつらせながら断ると、窓の外へと目を向ける。まだ街の中を走っているようで、建物の景色がゆっくりと流れていく。
最初、馬車に乗り込んで早々、向かい側に座ったサージェント様。ジロジロと私の顔を眺めたかと思ったら、いきなり私の前髪をかきあげた。
「!?」
私が驚くと同時に、彼もびっくりした顔をした。
「な、なにするんですかっ!」
『す、すまない』
冷ややかな瞳の印象が強かったのに、今、目の前にいる人は、戸惑いを隠せないでいる。
『その瞳は……』
『父の瞳と同じだそうです』
『……まさか君が、レオンの娘だったとは』
『父を知ってるんですか!?』
サージェント様が、懐かしそうに父の名を呼ぶので、思わず聞いてしまった。
『……ああ。しかし、そんなに交流があったわけではない』
残念そうな顔をチラリと見せて、その先は何も話してはくれなかった。
いつの間にかに街を抜けると、馬車は大きな街道を走っていく。
いくつもの馬車を追い越していくスピードに、驚きが隠せない。全然、ペースが違うのだ。目を瞠りながら、流れていく景色に息をのむ。
『……これから、どういう経路で向かわれるのですか』
乗合馬車であれば、アストリア王国までの直通がないから、何度か乗り継ぎがあったはずだ。何せ、隣国は山越えをしなくてはならず、それが厳しいので、普通は山を越えずに、迂回ルートを選ぶのだ。
『うむ? 経路も何も、直通の街道を向かうだけだが』
『え?』
『王族専用の街道があるから、それを使うだけだ』
その言葉に、私ははてなマークがいくつも浮かぶ。王族? 直通の街道?
『カイル王太子から、何も聞いていないのか?』
……?
『すみません?』
『ん?』
『カイル王太子?』
『ああ?』
『あの人が?』
『そうだが』
『……』
……知らなかったよ。
今頃になって、血の気が引いてきている。私、失礼なことしなかったかしら。
『知らなかったのか?』
『……はい。おじさんも、普通に接してたし』
『サカエラ氏?』
『はい。』
『彼は国王の親友だからな』
『……え?』
『エルド六世。君が「エルドおじさん」と呼ぶ人のことだ』
えっ!?
な・ん・だ・っ・て!?
『……本当に、君は何も知らないんだな』
そう言って、呆れたような顔をする、サージェント様。
『だ、だって、おじさんたちは、何も言わなかったから……』
そうだ。おじさんたちは、何一つ、教えてくれなかった。
でも、それでも、私は何も知らなくても問題なかったし、十分に幸せだったのだ。
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