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第2章
015
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ショーンさんを、私の部屋(元のショーンさんの部屋でもあるけど)のベッドに腰かけさせる。
「ちょっと待っててください」
私は、調理場に向かうと、ちょうどそこにいたマリエッタさんに、ショーンさんが好きな飲み物を聞いてみた。
「坊ちゃんは、甘い紅茶がお好きでしたね」
ニコニコ笑いながら教えてくれたマリエッタさんが、私と一緒に紅茶の準備をしてくれた。小さなトレーに紅茶の入ったポットとティーカップを二つ、蜂蜜の入った小皿、そして料理長のホッズさんお手製のクッキーを載せて、部屋に戻る。
ドアを開けて見ると、ショーンさんは、もう泣き止んでいたけれど、照れくさいのか、顔は俯いたままだった。
ここでドアを閉めてしまうと、色々と言う人もいるかもしれないので、ドアは開けたまま。マリエッタさんも気を使ってか、私にトレーだけ渡すと、中までは入ってこなかった。
「紅茶、ここに置きますね。蜂蜜あるんで、お好みでいれてください」
そう言って紅茶の入ったティーカップを勉強机の上に置くと、私は自分の分を手にして椅子に座った。淹れたばかりだから、まだ熱い。
「……ごめん」
ベッドのほうから聞こえた声は、小さすぎて、意識してなければ聞き漏らしそうなくらい。
「……」
私は何も言わずに、ちらりと彼のほうに視線をやった。
「……俺、向こうでちょっと、嫌なことがあって……その上……父さんが言った通りなことが……あったもんだから……」
ポツリポツリと、小さな声が零れ、そして涙がぽとり、ぽとりと落ちた。
「泣き虫なんですね」
「……みっともないよな」
エヘヘ、とシャツの袖口で涙を拭う姿は、大きな体とは正反対に、小さな子供のよう。私は自分のティーカップを机において、少し間を開けて、ショーンさんの隣に座った。
「素直に、おじさんに甘えればいいんですよ」
仕方ないなぁ、と思いながら、ヨシヨシ、とショーンさんの頭を撫でる。
すると、ショーンさんがびっくりした顔をしたかと思ったら、急に真っ赤になった。私の手を振り払うかと思ったら、素直に撫でられ続けてる。
「ショーンさん、落ち着いたら、おじさんにちゃんと謝りましょ……蜂蜜はいりますか?」
「自分でいれるよ」
彼が小さく頷いたのを見て、彼のティーカップを渡す。
私は立ち上がると、自分の部屋にある荷物を使い古したマジックバッグに詰め込み始める。元々、そんなに荷物があるわけでもない。
「何やってるんだ?」
ティーカップを手にしたショーンさんが、不思議そうな顔をする。
「お引っ越しです」
「えっ!? いや、いいよ、いいよ。俺のほうが、別の部屋にいくから」
慌ててティーカップを机において、私の腕を掴んで、作業を止めたショーンさん。
「いえいえ! 元々、ショーンさんのお部屋ですから」
「いや、でも、俺、あまりこの部屋にいなかったから……」
急に素直になりすぎてるショーンさん。
さっきまでの、興奮した姿とのギャップがありすぎて、私のほうが戸惑ってしまう。
「でも」
「いいって! レイさんになら、使ってもらっても……いいんだ」
そういうと、赤い顔をそらす。
……どうしたんだろう?
「ショーンさん、調子でも悪いんですか?」
熱でも出たのかと、心配になって、額に手をやると、驚いたように私を見て固まった。
「……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫っ」
ショーンさんは、あたふたと部屋を出て行ってしまった。
「本当に大丈夫なのかな……」
少し気になったけれど、私よりも大人なショーンさんだから、きっと大丈夫なのだろう。
それよりも、まだ少し先だけど、旅行のことを思い出して、ワクワクしてきた。
亡くなる少し前、宿屋の仕事をしていた母が、たまには逆の立場になりたい、と話していたのを思い出す。
……私も一度は、母と一緒に旅がしたかったな。
「ちょっと待っててください」
私は、調理場に向かうと、ちょうどそこにいたマリエッタさんに、ショーンさんが好きな飲み物を聞いてみた。
「坊ちゃんは、甘い紅茶がお好きでしたね」
ニコニコ笑いながら教えてくれたマリエッタさんが、私と一緒に紅茶の準備をしてくれた。小さなトレーに紅茶の入ったポットとティーカップを二つ、蜂蜜の入った小皿、そして料理長のホッズさんお手製のクッキーを載せて、部屋に戻る。
ドアを開けて見ると、ショーンさんは、もう泣き止んでいたけれど、照れくさいのか、顔は俯いたままだった。
ここでドアを閉めてしまうと、色々と言う人もいるかもしれないので、ドアは開けたまま。マリエッタさんも気を使ってか、私にトレーだけ渡すと、中までは入ってこなかった。
「紅茶、ここに置きますね。蜂蜜あるんで、お好みでいれてください」
そう言って紅茶の入ったティーカップを勉強机の上に置くと、私は自分の分を手にして椅子に座った。淹れたばかりだから、まだ熱い。
「……ごめん」
ベッドのほうから聞こえた声は、小さすぎて、意識してなければ聞き漏らしそうなくらい。
「……」
私は何も言わずに、ちらりと彼のほうに視線をやった。
「……俺、向こうでちょっと、嫌なことがあって……その上……父さんが言った通りなことが……あったもんだから……」
ポツリポツリと、小さな声が零れ、そして涙がぽとり、ぽとりと落ちた。
「泣き虫なんですね」
「……みっともないよな」
エヘヘ、とシャツの袖口で涙を拭う姿は、大きな体とは正反対に、小さな子供のよう。私は自分のティーカップを机において、少し間を開けて、ショーンさんの隣に座った。
「素直に、おじさんに甘えればいいんですよ」
仕方ないなぁ、と思いながら、ヨシヨシ、とショーンさんの頭を撫でる。
すると、ショーンさんがびっくりした顔をしたかと思ったら、急に真っ赤になった。私の手を振り払うかと思ったら、素直に撫でられ続けてる。
「ショーンさん、落ち着いたら、おじさんにちゃんと謝りましょ……蜂蜜はいりますか?」
「自分でいれるよ」
彼が小さく頷いたのを見て、彼のティーカップを渡す。
私は立ち上がると、自分の部屋にある荷物を使い古したマジックバッグに詰め込み始める。元々、そんなに荷物があるわけでもない。
「何やってるんだ?」
ティーカップを手にしたショーンさんが、不思議そうな顔をする。
「お引っ越しです」
「えっ!? いや、いいよ、いいよ。俺のほうが、別の部屋にいくから」
慌ててティーカップを机において、私の腕を掴んで、作業を止めたショーンさん。
「いえいえ! 元々、ショーンさんのお部屋ですから」
「いや、でも、俺、あまりこの部屋にいなかったから……」
急に素直になりすぎてるショーンさん。
さっきまでの、興奮した姿とのギャップがありすぎて、私のほうが戸惑ってしまう。
「でも」
「いいって! レイさんになら、使ってもらっても……いいんだ」
そういうと、赤い顔をそらす。
……どうしたんだろう?
「ショーンさん、調子でも悪いんですか?」
熱でも出たのかと、心配になって、額に手をやると、驚いたように私を見て固まった。
「……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫っ」
ショーンさんは、あたふたと部屋を出て行ってしまった。
「本当に大丈夫なのかな……」
少し気になったけれど、私よりも大人なショーンさんだから、きっと大丈夫なのだろう。
それよりも、まだ少し先だけど、旅行のことを思い出して、ワクワクしてきた。
亡くなる少し前、宿屋の仕事をしていた母が、たまには逆の立場になりたい、と話していたのを思い出す。
……私も一度は、母と一緒に旅がしたかったな。
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