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第2章
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あの偉そうなアストリア人に会ってから、三日たった。
あれから、向こうからの接触はない。私にしてみれば、半分は拍子抜け、半分は安心している。
サカエラおじさんとは、一度だけ朝食の時に会うことができた。
恰幅のいいおじさんは、いつも気持ちいいくらい美味しそうにご飯を食べる。料理長のホッズさんも料理人冥利に尽きる、といつも嬉しそうだ。それにその姿を見るだけで、私も食欲がわいてくるから不思議だ。
その時に、ちらっとアストリア人の話をした。通信の魔道具で聞いていたかもしれないが、全部が全部、聞こえたとは限らない。
それでも、おじさんは特に深く考えるでもなく、『また何かあったら、すぐに連絡しなさい』とだけ言ってくれた。
結局、その後に何もないようなので、大した話ではなかったのだろう。
いつものように、学校から帰るために、馬車の待っている場所に向かおうと校門を出た。
生徒の半分は学校の寮に、残りの半分は地元出身者が多いせいか、実家から通っている者の方が大半だ。目の前を多くが、楽し気に友人たちと帰っていく。
そんな中、私は一人、いつものように学校帰りの生徒たちの流れと外れて、細い通りへと入っていくが、それを気に留める者は誰もいない。
私自身ができるだけそうありたいと思っているから、寂しいとも思わない。
いつも通り、待ち合わせの場所に行ったのに、馬車も御者のアーノルドさんの姿もなかった。
「……?」
何かあったのだろうか、と周囲を見渡すが、それらしい馬車も見当たらない。
もう少し待つべきなんだろうか?
いつも待っていてくれるから、姿がないだけで、不安になる。大した距離ではないにしても、事故でもあったのか、と心配になる。
『ハ~イ、君がレイ・マイアール?』
ぐずぐずと悩んでいると、急に、心地よいバリトンの声で、アストリア語で話しかけられた。
驚いて振り向くと、そこに立っていたのは、超美形な男性。
見上げるような身長、緩くウェーブがかった艶やかな黒髪を一つに縛り、小麦色の肌に 深いエメラルドグリーンの瞳。冒険者のようなカジュアルな格好をしているのに、どこか品のある雰囲気の彼が、にこやかに微笑んで立っている。
私の周囲には、こんな人間離れしたような美形は、見たことがなかった。
――神話や物語などに聞くエルフみたい。
こんな人間離れした美しい存在がいるという現実を目の前に見せつけられて、思わず、呆然としてしまう。
そう、まさに、あんぐりと口を開けたまま、見惚れて立ち尽くしてしまった。
あれから、向こうからの接触はない。私にしてみれば、半分は拍子抜け、半分は安心している。
サカエラおじさんとは、一度だけ朝食の時に会うことができた。
恰幅のいいおじさんは、いつも気持ちいいくらい美味しそうにご飯を食べる。料理長のホッズさんも料理人冥利に尽きる、といつも嬉しそうだ。それにその姿を見るだけで、私も食欲がわいてくるから不思議だ。
その時に、ちらっとアストリア人の話をした。通信の魔道具で聞いていたかもしれないが、全部が全部、聞こえたとは限らない。
それでも、おじさんは特に深く考えるでもなく、『また何かあったら、すぐに連絡しなさい』とだけ言ってくれた。
結局、その後に何もないようなので、大した話ではなかったのだろう。
いつものように、学校から帰るために、馬車の待っている場所に向かおうと校門を出た。
生徒の半分は学校の寮に、残りの半分は地元出身者が多いせいか、実家から通っている者の方が大半だ。目の前を多くが、楽し気に友人たちと帰っていく。
そんな中、私は一人、いつものように学校帰りの生徒たちの流れと外れて、細い通りへと入っていくが、それを気に留める者は誰もいない。
私自身ができるだけそうありたいと思っているから、寂しいとも思わない。
いつも通り、待ち合わせの場所に行ったのに、馬車も御者のアーノルドさんの姿もなかった。
「……?」
何かあったのだろうか、と周囲を見渡すが、それらしい馬車も見当たらない。
もう少し待つべきなんだろうか?
いつも待っていてくれるから、姿がないだけで、不安になる。大した距離ではないにしても、事故でもあったのか、と心配になる。
『ハ~イ、君がレイ・マイアール?』
ぐずぐずと悩んでいると、急に、心地よいバリトンの声で、アストリア語で話しかけられた。
驚いて振り向くと、そこに立っていたのは、超美形な男性。
見上げるような身長、緩くウェーブがかった艶やかな黒髪を一つに縛り、小麦色の肌に 深いエメラルドグリーンの瞳。冒険者のようなカジュアルな格好をしているのに、どこか品のある雰囲気の彼が、にこやかに微笑んで立っている。
私の周囲には、こんな人間離れしたような美形は、見たことがなかった。
――神話や物語などに聞くエルフみたい。
こんな人間離れした美しい存在がいるという現実を目の前に見せつけられて、思わず、呆然としてしまう。
そう、まさに、あんぐりと口を開けたまま、見惚れて立ち尽くしてしまった。
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