5 / 81
第2章
04 side カイル
しおりを挟む
のどかな鳥のさえずりとともに、大きな城門を多くの人が通り抜けていく。
『もう少し早く来たら、チェリスの花が満開の時期だったろうに』
のんびりと周囲を見ているのは、アストリア王国王太子、カイル・アストール二十六歳。
艶やかな黒髪に小麦色の肌、スラリとした背の高さに、服を着ていても鍛え上げられた体とわかる姿に何人もの人が、目を止めるていく。
ともに連れている愛馬、フラムの横を歩きながら、オルドン王国の国の花であるチェリス(桜)の終わった木々の植わった街道へと目を向ける。
学生時代、近隣諸国を一人で旅をしたおかげで、こういった旅には慣れていた。しかし、王太子になってからは、警護なしでの旅行は久しぶりだった。
今回、警護をつけずに一人、オルドン王国にやってきたのは、義母イレーナと、イレーナの幼馴染のユージン・サージェントの話を聞いてしまったから。どうにか仕事の都合をつけて、なんとしてもオルドン王国に来て確かめるために来てしまった。
もし、その話が本当ならば、この地位を譲らなければならない、と思ったからだ。
遡ること、一か月前。
国王、エルド六世が体調不良を言いだした頃。
『……ユージン、お願い。もし本当なら』
『エルド様が、そんなわけないでしょう。もしそうなら、あの方のことだ。あなたにもちゃんと伝えるでしょう』
『そんなこと、わからないわ。あの人は、私のことを大事に思ってくれるから……余計に、言えないのかもしれない』
会話を漏れ聞いたのは、義母に義父エルド六世の公務について相談をしようと赴いた時。カイルには、そんなつもりはなかったけれど、立ち聞きしてしまった。
二人は幼馴染とはいえ、男女。まさかと思いながらも、心配してしまったのは、カイル自身が、元妻の不貞で傷ついた記憶が残っているからだった。
『私、見てしまったのよ。あの人が、その子供の姿絵を嬉しそうに眺めているのを』
その子供?
まさか、義父のほうに問題が?
『きっと、あの人の隠し子に違いないわ』
涙をこぼしながら、ユージンにしがみついている義母。
……そんな。義父がそんなことをするわけがない。
そう思いながらも、カイルはその場から立ち去ることができなかった。
『わかりました。その子供について、お調べしてみましょう』
『お願い。もし、あの人の子供なら……カイルには悪いけど、あの人の子……直系の子に継がせたい……たとえ、私の子供でなかろうとも』
唇を噛みしめながら、手にしている手紙をユージンに渡す。
『これは、その子供が国王に送って来た手紙よ。オルドン語とアストリア語で書かれているけれど。オルドン語のほうは、私にはよくわからないわ』
『……レイ・マイアール』
『性別まではわからないけれど。もし男なら、皇太子に、女なら、それこそカイルと結婚させてもいいし』
――結婚!?
思わず手を握りしめるカイル。
元妻と別れて、すでに三年たっているけれど、彼女の裏切りにまだ心の傷は癒えない。結婚などよりも、息子のテオドアとの生活が守られる方がずっといい。
『もう少し早く来たら、チェリスの花が満開の時期だったろうに』
のんびりと周囲を見ているのは、アストリア王国王太子、カイル・アストール二十六歳。
艶やかな黒髪に小麦色の肌、スラリとした背の高さに、服を着ていても鍛え上げられた体とわかる姿に何人もの人が、目を止めるていく。
ともに連れている愛馬、フラムの横を歩きながら、オルドン王国の国の花であるチェリス(桜)の終わった木々の植わった街道へと目を向ける。
学生時代、近隣諸国を一人で旅をしたおかげで、こういった旅には慣れていた。しかし、王太子になってからは、警護なしでの旅行は久しぶりだった。
今回、警護をつけずに一人、オルドン王国にやってきたのは、義母イレーナと、イレーナの幼馴染のユージン・サージェントの話を聞いてしまったから。どうにか仕事の都合をつけて、なんとしてもオルドン王国に来て確かめるために来てしまった。
もし、その話が本当ならば、この地位を譲らなければならない、と思ったからだ。
遡ること、一か月前。
国王、エルド六世が体調不良を言いだした頃。
『……ユージン、お願い。もし本当なら』
『エルド様が、そんなわけないでしょう。もしそうなら、あの方のことだ。あなたにもちゃんと伝えるでしょう』
『そんなこと、わからないわ。あの人は、私のことを大事に思ってくれるから……余計に、言えないのかもしれない』
会話を漏れ聞いたのは、義母に義父エルド六世の公務について相談をしようと赴いた時。カイルには、そんなつもりはなかったけれど、立ち聞きしてしまった。
二人は幼馴染とはいえ、男女。まさかと思いながらも、心配してしまったのは、カイル自身が、元妻の不貞で傷ついた記憶が残っているからだった。
『私、見てしまったのよ。あの人が、その子供の姿絵を嬉しそうに眺めているのを』
その子供?
まさか、義父のほうに問題が?
『きっと、あの人の隠し子に違いないわ』
涙をこぼしながら、ユージンにしがみついている義母。
……そんな。義父がそんなことをするわけがない。
そう思いながらも、カイルはその場から立ち去ることができなかった。
『わかりました。その子供について、お調べしてみましょう』
『お願い。もし、あの人の子供なら……カイルには悪いけど、あの人の子……直系の子に継がせたい……たとえ、私の子供でなかろうとも』
唇を噛みしめながら、手にしている手紙をユージンに渡す。
『これは、その子供が国王に送って来た手紙よ。オルドン語とアストリア語で書かれているけれど。オルドン語のほうは、私にはよくわからないわ』
『……レイ・マイアール』
『性別まではわからないけれど。もし男なら、皇太子に、女なら、それこそカイルと結婚させてもいいし』
――結婚!?
思わず手を握りしめるカイル。
元妻と別れて、すでに三年たっているけれど、彼女の裏切りにまだ心の傷は癒えない。結婚などよりも、息子のテオドアとの生活が守られる方がずっといい。
0
お気に入りに追加
165
あなたにおすすめの小説

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。

この度、運命の番に選ばれまして
四馬㋟
恋愛
※章ごとに主人公が変わるオムニバス形式
・青龍の章:
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
・朱雀の章:
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

みんながみんな「あの子の方がお似合いだ」というので、婚約の白紙化を提案してみようと思います
下菊みこと
恋愛
ちょっとどころかだいぶ天然の入ったお嬢さんが、なんとか頑張って婚約の白紙化を狙った結果のお話。
御都合主義のハッピーエンドです。
元鞘に戻ります。
ざまぁはうるさい外野に添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる