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能力発現

能力を持つ者たち

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2019 6月22日。 梅雨。

「それじゃあ、その成果を聞こうか。動機が何にしろ、私たちとしても、憑依者の能力――うん、能力が割れてるってのは好都合だ」
 さも当然のことのように、舞田峰子は言う。

「ちょっと待ちなさいよ! ヒョウイシャとか、能力とか、そんなサラリと言われても意味分かんないわ! それに、能力って……。漫画や映画の世界でもあるまいし」

「何をいまさら。実際に君は、自らの身体を通してフィクションの世界みたいな体験をしたんじゃないか」

「それは……そうだけど。と、とりあえず、ヒョウイシャと能力ってやつについて詳しく説明しなさいよ! 私の……能力、能力?   について話すのはその後にするわ」

 私も、自分が変な力を使える魔法使いみたいになってしまったことは理解していた。れでも、はいはい、とすんなりソレを受け入れられるほどメルヘンチックな性格はしていない。だから、舞田峰子の話には期待している。

 口ぶりから察するに、舞田峰子は、私に起こった異変の何かについて詳しそうな様子である。彼女なら、コレの治療法を知っているかもしれない。仮に治療は無理だとしても、この現象に対する、何らかの科学的な裏付けがあれば、それでも十分だ。

「少し長くなるけど、それでも聞くかい?」
「ええ。分からないことをそのままにしておくのは、好きじゃないの」
 私の返事を聞いて、舞田峰子は、一度瞑目すると、大きく息を吐きだす。

「分かった、話そう。まずは、能力についてだ。
 結論として、これは科学的に説明することは困難だ。だから、敢えて言おう。魔法や超能力のようなものだと考えてもらっていい」

「…………そんな!」
 私は、無意識のうちに声を発してしまっていた。

「流石にこたえたようだね。まあ、それもそうか。でも、残念ながら種も仕掛けもないんだよ。
 能力は、言うなれば一種の病気のようなものさ。君のように後天的に憑依される者もいれば、生まれつき、先天的に憑依されている者もいる。この説明で、憑依者についても、少しは想像できるようになったろ?
 能力の種類だけど、それは、多種多様。本当にいろいろある。私と、そこに立っている海斗も、それぞれ能力を持っている」

 そう言って舞田峰子は、後ろに立っている江藤海斗を顎で指す。私が座ったまま振り向くと、目が合った。しかし、江藤海斗はやはり何も喋らない。私も特には気にせず、また舞田峰子の方を向き直した。それにしても、この二人も憑依者? だったのか。何となくそんな気はしていたけれど。

「能力っていう呼称は、格好悪いが我慢してくれ。単にabilityの和訳なんだ。能力の研究の最先端は、アメリカでね。ま、さっきの君のは、本当の意味で病気であるとも……そこらへんの詳しいことは後でいいや」

 峰子は、最後の方を濁す。向こうにも、話す順序があるのだろう。私は、はっきりと聞き取れた前半部について尋ねた。
「アメリカが最先端って、能力って、世界中にあるってわけ?」
「ああ、そうだ。そこらへんは、今から憑依者について話すから、同時に説明するとしよう」

 タン、とエンターを一度押すと、米田峰子は椅子をくるりと回して、パソコンの方へと向けていた身体をこちらへと向き直した。

「だいたいの察しはついていると思うけど、憑依者とは、能力に憑依された者のことを言う。さっきも言ったように、憑依者は世界中に存在していて、そうだな……私たちの組織が把握しているだけで二千人。まだ見つかっていない者も含めると、五千人くらいはいるって見立てだ。
 そして、憑依者は、大きく二つに分けられる。ついさっき、能力は、生まれつき先天的に獲得している場合と、後天的に獲得する場合があるって言ったのを覚えているだろ? それで、先天的憑依者と、後天的憑依者に分類される。
 先天的憑依者の多くは、親から能力が遺伝した場合が多い。研究の結果、能力の遺伝はほとんど起こらないことが分かっているんだけど、中には遺伝しやすい能力なんてのもある。そういう能力は、先祖代々受け継がれたりしているわけだ。私が、このタイプ。……ちなみに、同じ能力は同時には存在しえないから、親から子に能力が遺伝した際は、父親にしろ母親にしろ、子が生まれて数日のうちに何らかの病で死ぬことになる。母親の場合は、出産時に死ぬことが多いんだけど、父親の場合は、脳死や心臓発作などなど」

「そんな、じゃあ……」
「ああ、私かい? 母親からの遺伝だったから、私を産んで母は死んだらしい」

 舞田峰子は、何の感情の起伏も無く、スラっと言ってのけた。ただ、その目はどこか遠くを見ているようだった。

「続けよう。後天的憑依者っていうのは、まさに君のことだね。普通は、十歳までには能力が発現する例が多いから、君みたいに、高校生になって能力が発現するなんてのは稀だ。海斗も先天的憑依者だけど、六歳の時分には、能力を自覚していたよ。
 とまあ、詳しいことは後々話すとして、基本的なことは理解できたかい? いや、理解よりもまずは、信じられるようになったかどうかだな。どうだい?」

「信じるしかないでしょ……。嘘をついているようにも見えなかったし」

 実際に、彼女の口ぶりは嘘をついている風では無かった。それに、何より、ここまで凝った嘘をつくメリットが考えつかない。

「じゃあ、他に何か聞きたいことは?」

 舞田峰子は、そんなことを言う。案外親切になんでも話してくれたけど、なんというか、その、守秘義務とかは無いのだろうか。何でも、説明によると、舞田たちは組織っていうものに属しているようだけど。

 せっかくだし、とことん聞いておくことにした。
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