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エピローグ

二人の朝 Ⅲ

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真っ赤なルージュを塗った艶のある唇を、微かに動かし呟く峰子。右手では、その唇よろしく光沢のあるショートの金髪をも弄んでいる。

「どうしてそう思うんです?」
「今回の事件、ただの基地外の愉快犯とは違うってことさ」

 海斗は頭の後ろで手を組むと、椅子の背もたれに思い切りよりかかり、峰子の背中に、無言で続きを促す。見上げた峰子の後ろ姿は、ウェットオイルを塗った濡れ髪の金髪が、真白の肌とまっさらな白衣によく映えていた。

「海斗、犯人はどうしてこんなことをすると思う?」
「さあ。そうですね……。世間から注目されたかったから、とかですか?」

「そうだな。実際に、今回と似たようなケースの事件では、そういう動機が多い」
「今回は、違うんですか?」
「ああ。おそらくな」

 そう返事して、峰子は、ゆっくりと一口コーヒーを口にすると、ひと呼吸おいて続ける。

「今回は、犯人が単に目立ちたいだけという理由では説明がつかないんだよ。私が生まれてすぐ――お前が生まれる前だな、神辺市で起きた連続殺人事件のこと、知っているか?」

「ええ、少しは。確か、中学生が犯人の……」
 それがいったいどうしたのだ、という訝しむような目をして、海斗は答えた。

「そう、それだ。あのときの犯人はな、死体の頭部をノコで切り落として、自分の通う学校の門の前に置いたんだよ。おまけに、警察を挑発する内容のメッセージカードを生首に咥えさせてね。そのカードに付された偽名は、恥ずかしくなるような当て字。
 いろいろ説があるけど、私はね、これは、目立ちたがりの中学生の犯行としてしかみていない。つまりね、単に目立ちたいなら、数を殺すなんてまどろっこしいことをしないでも、いくらでもやり様はあるってことさ。
 でも、今回の犯人は違う。片っ端から、目についたものを殺していっている。それこそ、カタツムリやカエルまでね。それも、的確に急所をついて、瞬殺。無駄がない。この殺し方はね、一番効率は良い。しかし、一番殺しを実感できない殺し方だ。当然だろう、対象は苦しみもせずにすぐ死んじゃうんだから。だから、殺戮を楽しむ異常性癖者ってわけでもない。
 じゃあ、この犯人は何がしたいのか。導き出さる答えは一つ。何かしら、多くを殺さなくてはならない目的があって、殺すべくして殺しているんだ。目立ってしまったのは、あくまでその結果にすぎないのさ」

「でも、何の為に。社会から注目を浴びたいわけでもなく、殺しが好きなわけでもないなら、動物を無差別に殺す目的なんて……」

「さあな。そこが、私にも分からないんだよ。だから私たち向けの仕事かもなと言った。あと、私たちの領分だとする理由がもう一つ」

 そう言って、峰子は、細い人差し指を立てる。
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