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エピローグ

二人の朝

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真梅雨怪奇譚
                             

 皆、梅雨を斯く語りき。

 いと憂しや。いと憂しや。
 
 咲いた紫陽花を誰も見ない。

 外は、雨降り。

 皆、濡れたくない。

 雨が冷たいと知っているから。




 2019 6月20日。梅雨。

 江藤海斗は、飾り気のない白のマグカップに、ブラックコーヒーを淹れる。カップは二つ。一つは自身のもの、もう一つは、彼の上司である舞田峰子のものだ。エチオピアの芳しい香りが鼻腔をくすぐる朝のこの瞬間が、江藤海斗は嫌いじゃない。彼は、注ぎ終えたカップのうちの一つを、上司の机の上に置く。

「できましたよ、マイさん」
「お。すまないね、海斗」

 足を組み、新聞を広げながら、細い煙草を吹かしていた舞田峰子は、灰皿に煙草の先をにじりつけつけながら礼を言う。切れ長の目は新聞紙の文字列を追ったままだ。上司とはいっても、峰子はまだ二十半ば程の齢なのだが、海斗は大学の一年生にあたる年齢であるため、それなりに歳は開いている。

 海斗は、自身のデスクの椅子に腰を下ろすと、コーヒーを一口啜る。そして、一息つくと、テレビのリモコンのスイッチを入れた。朝食後のルーチンだ。ジジという電子音を伴って、液晶は像を映し出し、内部のスピーカーは音を発する。

 海斗と峰子の職場は、科学者の研究室と医者の診察室を足したような空間で、そこに、書類の積まれた机がいくつかと、簡易なキッチンが備わっている。白を基調とする家具の並ぶこの空間において、黒色の小さなテレビは、異物のように馴染まない。海斗がテレビを点けたタイミングは、いつものニュース番組が丁度トピックを変えた瞬間だった。
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