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恐い顔をした優しい人
しおりを挟む散々変なことばかりを言ってきた俺の言葉を信じてくれるか不安だったけれど、レオさんは一度何かを考えるように顎の下に手を置くと、数秒経ってから「分かった」と小さく頷いた。
「打撃の受け方から人間なのは間違いないだろうな。その調子で覚えていることは俺に教えてくれ」
「は、はい」
「人数は?複数か?」
「……はい、四人でした」
「…………そいつらは、男か?」
「は、はい」
「…………」
「……?」
俺の言葉を聞くなり、なぜかレオさんは眉間に皺を寄せて、とてつもなく恐い表情をしてみせた。
……いや、本気で恐いから是非ともやめて欲しい。圧が、圧がすごい。今すぐ大声を出してアレスを呼び戻したいくらいだ。
「……あ、あの……?」
「……歩」
「は、はい?」
「言いにくいことを承知で訊ねるのだが、それはただの暴行か?」
「……?」
暴行の種類に、ただの暴行かそれ以外の暴行があるのか?レオさんの言っている意味が分からず、俺は首を傾げる。
「……つまりだな、他に酷いことはされてないのか?」
「他、というと……?」
「……妊娠の可能性があるような行為を受けたのか?」
「……っ、え?ま、まさかそんなこと!だって俺は男……、」
『だって俺は男ですよ』という言葉は寸前のところで止まった。……なぜなら、今の俺は女の姿をしているからだ。ここでまた話をループさせても、俺が聞き分けのない変な奴だと思われるか、レオさんを困らせるだけだ。
「……あ、えーっと。そのようなことは一切されていないので心配はご無用です」
「…………本当か?もし心配だったら朝一にでも女医を呼ぶのだが」
「い、いえっ。本当に大丈夫ですので」
「……そうか」
……つまりは、レオさんは女性の俺が“そういう行為”を受けた可能性を考えて心配をしてくれていたらしい。こんな話をアレスの前でするわけにもいかないから、だからわざわざ二人きりになってから話してくれたのだろう。
「言いにくいことを聞いて悪かったな」
「そんなことありません。気遣ってくださって、ありがとうございます」
先程の恐い表情から一変して、レオさんは後頭部を軽く掻きながら気まずそうな表情をして俺に謝ってくれた。
……本当に、レオさんは変わっている。俺が今まで接してきた男たちとは全く違うんだ。こんな男性と関わり合いを持ったのが初めてものだから、少し感動をしてしまった。
「どちらにせよそのような酷い乱暴をお前のような幼い子供にする奴の気が知れん。犯人を見掛け次第、いつでも報告をしてくれ。そうすれば、すぐに俺がそれ相応の処罰をそいつらに与えてやる」
「俺は別に幼くはないんですけど……、あはは、ありがとうございます」
もうその気持ちだけでも十分だ。
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