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わたし、思い出します
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逢坂さんのお家で働かせていただくことになって、一ヶ月ほど経ちました。慣れたか慣れていないかと考えてみますと、やっぱりまだ全く慣れません。勿論仕事内容ではなくて、……逢坂さんに対してのことです。あの方の私に対してのオーラの色と巧みな会話に、一ヶ月経とうとも私はまだまだ翻弄され続けています。
「(……私なんかに好意を抱いてくださるなんて、相当な物好きですよね)」
特別に可愛くも綺麗でもなければ、スタイルだって良いわけではありません。それに男の人を喜ばすような話術だって持ち合わせてはいません。それなのに逢坂さんは、ひたすら私に好意を向けてくださっているのです。こんなことは初めてのことですので、対処や対応には困ってしまいます。……ですが、やはり好きだと思っていただけるのはとても嬉しいことです。
そんなことを考えながら、私は数日ぶりの休日を謳歌していました。
「(あ、これ。逢坂さんが好きそうな料理が載っていそうです)」
書店で並んでいた料理の本を手に取ってパラパラとページをめくっていきます。お肉とお野菜がメインの料理の作り方が沢山載っているこの本の通りに料理を作れば、きっと逢坂さんも喜んでくれるに違いありません。彼の喜ぶ顔が今にも想像できます。それに少ないレパートリーを増やすこともできるでしょう。そう思った私は、この本を購入しようと決めました。
……そんな時でした。
「あ!人見さんじゃん!」
「……?」
「また会ったねー。お互い住んでいる場所が近いのかなぁ?」
「え、えっと」
「いや、この前は私が偶然見かけただけかー」
突然背後から女性に声を掛けられたのです。
最初は全くどなたか分からなかったのですが、クスクスと可憐に笑う彼女の姿を私は微かに覚えています。……確か同じ高校だった明美さんです。といいましても、同じクラスになったこともなければ私たちの間には一度も交流がなかったはずなのです。綺麗で可愛くて男子はもちろんのこと女子にも人気があり、私のような人間は近寄ることさえもできない存在でしたから、そんな明美さんが私のことを覚えているのは少し驚きです。
「お、お久しぶりです」
「あはは。なんで敬語なの?」
「いえ、これは癖みたいなもので……」
「そうなんだ。人見さんって面白いね」
同級生に敬語を使って話すのは、やはりおかしいでしょうか。ですがこれを今更やめることなんてできません。
「今日は一人で買い物?この前一緒に居た彼氏は?」
「……彼氏?」
「ほら。夜に駅前まで車で送ってくれていた彼氏だよ」
……もしかしなくても明美さんは、逢坂さんのことを話しているのでしょうか。
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