22 / 27
本編
終わりと始まりを予言する夢
しおりを挟む昼か夜かも分からない。そこは殺伐とした空気が漂う見知らぬ砂漠だった。
「やめて!」
私は涙ながらに必死に叫んでいる。
目の前でユリウスが何者かに鋭い剣で刺され、ばたりと頭から地面に倒れた。
「…………っ。ユ、ユリウス……?」
亡くなったはずの母も父も、タリクやアビド、その他信用していた側近たちも、次々と見知らぬ何者かに刺されていく。
「――――え?」
そして追い打ちをかけるように、このシェバ国の民たちも悲痛な叫び声をあげながら、刺され斬られ、次々と倒れていった。
「もう……もう……やめて!」
私の足元は愛する人の血で浸され、呼吸が荒くなり、膝から崩れ落ち、耳を塞いだ。
少し先でナジュムだけが何者かと応戦しており、必死に刀を振って戦っていた。
やめて……! お願いだからやめて。
もう、戦わないで。もう誰も失わせないで。
苦しまないで。傷つかないで。お願い、私のこの目に気付いて……。お願いだから。
誰の事も守らなくていいから、縛られなくていいから、私の傍に、近くにいて。
この悲惨から、私を置いて逃げて。
彼にとって、守ることや戦うことは生きる理由を指し示していると分かっていても、それでも私にあなたを守らせてほしかった。
そんな訳の分からない想いが雪崩のように胸に覆い被さっていく――。
彼を見つめる私の瞳には深い悲しみが宿っていた。
体は動くことが出来ずに、ただその光景を見ているだけしかできない。
そしてついに
「ナ、ジュム……?」
囲まれたナジュムは一瞬で斬られてしまう。
背中、腹、肩と次々と――。
ナジュムの倒れる様子はスローモーションとして私の目に映り、頭を真っ白にさせていく。
駆け寄りたくとも何故か体が動かない。
涙は絶えなく流れ、呼吸さえままならず、拳で自らの胸を強く叩いても消えてはくれない、悲惨すぎる光景に溺れていった。
「やめて、おねがいだから。……もうやめて」
薄れていく意識の中少しずつ辺りが暗くなり、鼓膜が機能しなくなるのが分かった。
「やめて……。やめて……」
霞む視界に映るのは愛する人達の青白くなった死に顔と、足元を染める血の海。
「全部……もうやめて。……いや……いやだ」
決して、決して許さない。
愛する人達を傷つけた者たちを……。
そして、私を、一番許さない。
「セイル様! セイル様!!」
地獄から逃げ出すようにパッと目を開ければ、そこには酷く焦って私を見つめるナジュムがいた。
――ああ。夢か――
良かった。ああ、生きていて……生きていてよかった。
あなたが、生きていて……本当に良かった。
「ああナジュム……!」
私は涙ながらに咄嗟にナジュムを強く抱き締めた。
ナジュムは驚きながらも、私の背中に腕を回し、優しく背中を撫でる。
「うなされていたので……心配で……大丈夫ですか?」
恐怖に溺れていた私は一層強く彼を抱き締める。
「恐ろしい、夢を見た。み、皆が……」
すると、一瞬だけナジュムの手が止まった。
「私が居ますから。大丈夫ですよ。大丈夫。大丈夫だから」
彼の声も心なしか震えていた。
神に愛された女王が神殿で見る夢――それが何を指しているのか、恐らくナジュムも分かっていたのだろう。
「だ、誰にも……誰にも言わないで。夢、夢のこと」
声も手先も、全てが、全身が恐怖で覆われていた。
何もかもが分からなかった。
夢と現実の区別さえ付かずに、軽いパニックに陥っていた。
逃げてしまいたい。全てからもう、逃げてしまいたいと本気で思うほど恐ろしい夢だったのだ。
「大丈夫。大丈夫です」
私の背中をさするナジュムの手は震えている。
この手を守らなければと強く思うほど、夢でナジュムを失った時の恐怖が鮮明に蘇り、私は恐怖に溺れた。
――夜明け前、私の運命の終わる音が聞こえ始めた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
よくできた"妻"でして
真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。
単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。
久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!?
※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる