42 / 50
すれ違い
しおりを挟む
男3人でわいわいガヤガヤと話し合った後、2人のツッコミ役に疲れてきた俺は途中で離脱して、川辺を歩いていた。
「ちゃんと楽しんでるのか?」
「……」
チェアに座りながら一人読書に勤しんでいた白峰に近づいてそんなことを尋ねると、相手がチラリとこちらを見上げる。
「まあ、ぼちぼちといったところね」
再び文庫本へと視線を戻して、そんな言葉を返してくる白峰。
その顔は相変わらずの無表情だったが、白峰の口からぼちぼちといった言葉が出てきたので、彼女なりにけっこう楽しんでくれているのだろう。
俺はそんなことを確認できてほっと息を吐き出すと、再び言葉を続ける。
「それなら白峰も川遊びに参加すれば良かったのに」
「参加するわけないでしょ」
どうして私があなたの前で水着にならなきゃいけないのよ、と今度はキリッとした目つきで白峰がこちらを睨みつけてくる。って、そんなこと言いながらちょっと恥ずかしそうに顔を赤くするのはやめてくれます? なんか余計なことを想像しちゃいそうなので。
などと煩悩を刺激されて危うく白峰の水着姿を想像しそうになった俺は、慌てて首を振り正気を取り戻す。
そしてわざとらしくゴホンと咳払いをして誤魔化していると、「まあでも……」と再び白峰が口を開いた。
「同世代の人たちとこんな風に出かけるのもたまには悪くないのかもね」
そんなことを言う白峰の視線の先には、相変わらず川遊びを楽しんでいる茜や水無瀬さん、そしていつの間にか一緒に遊んでいる快人の姿が映る。
「でも意外だったな。白峰はみんなでバーベキューとか出かけるのとか嫌いな人間だと思ってたんだけど」
「そうね。そもそも他人と関わること自体が嫌いだったから」
冷めた口調できっぱりとそんなことを言う白峰。
「じゃあなんで接客業なんてやろうと思ったんだよ」
「それは……」
こちらの質問に対して白峰が言葉を濁す。けれども彼女は諦めたようにため息を吐くと、ぼそりと口を開いた。
「あなたのお父さんが私の家に家具を運んでくれた時、『良かったらうちで働いてみないか?』って話しをしてくれたのよ」
川の水面を見つめながら、白峰がそんな言葉を漏らした。
やはりあの時親父は、すでに白峰に対して勧誘の話しをしていたようだ。
「もちろん最初は断ったわ。どうして自分が誘われたのか意味がわからなかったし、それに接客業なんて私にとって一番相性が悪い仕事だと思ったから」
でも……。と白峰はそこで一呼吸置く。
「お店に戻ってあなたや夏木さんのやり取りを見ていたり、みんなで一緒にご飯を食べている時にほんの少しだけ不思議な気持ちになったの。赤の他人とはいえ、今までの私にはあんな風に誰かと関わることなんてなかったから」
そう言ってから白峰はふっと小さく息を吐き出すと、その瞳を僅かに細めた。
「だから、確かめてみたかったの」
「え?」
白峰の呟いた言葉に、俺は無意識に声を漏らした。すると視線の先で、彼女の唇が再び静かに開く。
「あの時の気持ちが何だったのか。それにあなたや、あなたのお母さんが言っていたことがどういうことなのか」
「白峰……」
俺は話しを聞きながら、白峰の名前を呟いた。
きっと白峰は今、自分の気持ちと向き合おうとしているのだろう。
コンシェルジュのお店で働くことを通して、そしてインテリアに触れることで。
そんなことを思った俺が、「あのさ白峰……」と再び口を開こうとした瞬間だった。
自分の言葉を遮るかのように、ブルルルとどこからかスマホのバイブ音が鳴る。
「……」
「白峰?」
ポケットから取り出したスマホを見た瞬間、何故か険しい表情を浮かべた白峰。
そんな彼女に疑問を感じて声を掛けるも、白峰からの返答はない。
もしかしてイタズラ電話でもかかってきたのか、なんて呑気なことを考えていたら白峰がぼそりと言う。
「……お父さんからだわ」
小さく呟かれたその予想外の言葉に、俺は思わず目を丸くする。
そしてすぐに「出ないのか?」と言葉を投げかけたのだが、相手はスマホの画面を何度かタップした後、それをポケットへとしまう。
「もう気にする必要はないわ。電源は切ったし」
「いや気にするだろそれっ!」
実の父親に対してのあまりに冷たい対応に、俺はつい声を上げてツッコミを入れてしまう。
「お前な、いくら仲が良くないからって言っても連絡ぐらいは取っておいたほうがいいぞ」
「きっとお父さんも心配してるだろうし」と白峰のことを思って、ついそんな言葉を口にした直後だった。
俺の言葉を聞いた白峰がキッと鋭い目つきでこちらを睨んできた。
「べつにそんなことあなたに気にされる必要なんてないでしょ!」
先ほどまでの空気が一変。白峰の切り裂くような声音が辺りに響いた。
そのあまりの気迫に押されてしまい、俺はつい何も言えなくなってしまう。
これはマズイな……。
普段の十倍は怖い顔をしてこちらを睨みつけてくる白峰の姿を見て、ここはすぐに謝ったほうが良さそうだなと直感的に思った。
けれども残念ながら時すでに遅しで、白峰は静かに立ち上がるとこちらを見ることもなくこの場から離れていってしまったのだった。
「ちゃんと楽しんでるのか?」
「……」
チェアに座りながら一人読書に勤しんでいた白峰に近づいてそんなことを尋ねると、相手がチラリとこちらを見上げる。
「まあ、ぼちぼちといったところね」
再び文庫本へと視線を戻して、そんな言葉を返してくる白峰。
その顔は相変わらずの無表情だったが、白峰の口からぼちぼちといった言葉が出てきたので、彼女なりにけっこう楽しんでくれているのだろう。
俺はそんなことを確認できてほっと息を吐き出すと、再び言葉を続ける。
「それなら白峰も川遊びに参加すれば良かったのに」
「参加するわけないでしょ」
どうして私があなたの前で水着にならなきゃいけないのよ、と今度はキリッとした目つきで白峰がこちらを睨みつけてくる。って、そんなこと言いながらちょっと恥ずかしそうに顔を赤くするのはやめてくれます? なんか余計なことを想像しちゃいそうなので。
などと煩悩を刺激されて危うく白峰の水着姿を想像しそうになった俺は、慌てて首を振り正気を取り戻す。
そしてわざとらしくゴホンと咳払いをして誤魔化していると、「まあでも……」と再び白峰が口を開いた。
「同世代の人たちとこんな風に出かけるのもたまには悪くないのかもね」
そんなことを言う白峰の視線の先には、相変わらず川遊びを楽しんでいる茜や水無瀬さん、そしていつの間にか一緒に遊んでいる快人の姿が映る。
「でも意外だったな。白峰はみんなでバーベキューとか出かけるのとか嫌いな人間だと思ってたんだけど」
「そうね。そもそも他人と関わること自体が嫌いだったから」
冷めた口調できっぱりとそんなことを言う白峰。
「じゃあなんで接客業なんてやろうと思ったんだよ」
「それは……」
こちらの質問に対して白峰が言葉を濁す。けれども彼女は諦めたようにため息を吐くと、ぼそりと口を開いた。
「あなたのお父さんが私の家に家具を運んでくれた時、『良かったらうちで働いてみないか?』って話しをしてくれたのよ」
川の水面を見つめながら、白峰がそんな言葉を漏らした。
やはりあの時親父は、すでに白峰に対して勧誘の話しをしていたようだ。
「もちろん最初は断ったわ。どうして自分が誘われたのか意味がわからなかったし、それに接客業なんて私にとって一番相性が悪い仕事だと思ったから」
でも……。と白峰はそこで一呼吸置く。
「お店に戻ってあなたや夏木さんのやり取りを見ていたり、みんなで一緒にご飯を食べている時にほんの少しだけ不思議な気持ちになったの。赤の他人とはいえ、今までの私にはあんな風に誰かと関わることなんてなかったから」
そう言ってから白峰はふっと小さく息を吐き出すと、その瞳を僅かに細めた。
「だから、確かめてみたかったの」
「え?」
白峰の呟いた言葉に、俺は無意識に声を漏らした。すると視線の先で、彼女の唇が再び静かに開く。
「あの時の気持ちが何だったのか。それにあなたや、あなたのお母さんが言っていたことがどういうことなのか」
「白峰……」
俺は話しを聞きながら、白峰の名前を呟いた。
きっと白峰は今、自分の気持ちと向き合おうとしているのだろう。
コンシェルジュのお店で働くことを通して、そしてインテリアに触れることで。
そんなことを思った俺が、「あのさ白峰……」と再び口を開こうとした瞬間だった。
自分の言葉を遮るかのように、ブルルルとどこからかスマホのバイブ音が鳴る。
「……」
「白峰?」
ポケットから取り出したスマホを見た瞬間、何故か険しい表情を浮かべた白峰。
そんな彼女に疑問を感じて声を掛けるも、白峰からの返答はない。
もしかしてイタズラ電話でもかかってきたのか、なんて呑気なことを考えていたら白峰がぼそりと言う。
「……お父さんからだわ」
小さく呟かれたその予想外の言葉に、俺は思わず目を丸くする。
そしてすぐに「出ないのか?」と言葉を投げかけたのだが、相手はスマホの画面を何度かタップした後、それをポケットへとしまう。
「もう気にする必要はないわ。電源は切ったし」
「いや気にするだろそれっ!」
実の父親に対してのあまりに冷たい対応に、俺はつい声を上げてツッコミを入れてしまう。
「お前な、いくら仲が良くないからって言っても連絡ぐらいは取っておいたほうがいいぞ」
「きっとお父さんも心配してるだろうし」と白峰のことを思って、ついそんな言葉を口にした直後だった。
俺の言葉を聞いた白峰がキッと鋭い目つきでこちらを睨んできた。
「べつにそんなことあなたに気にされる必要なんてないでしょ!」
先ほどまでの空気が一変。白峰の切り裂くような声音が辺りに響いた。
そのあまりの気迫に押されてしまい、俺はつい何も言えなくなってしまう。
これはマズイな……。
普段の十倍は怖い顔をしてこちらを睨みつけてくる白峰の姿を見て、ここはすぐに謝ったほうが良さそうだなと直感的に思った。
けれども残念ながら時すでに遅しで、白峰は静かに立ち上がるとこちらを見ることもなくこの場から離れていってしまったのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
毎日告白
モト
ライト文芸
高校映画研究部の撮影にかこつけて、憧れの先輩に告白できることになった主人公。
同級生の監督に命じられてあの手この手で告白に挑むのだが、だんだんと監督が気になってきてしまい……
高校青春ラブコメストーリー
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる