16 / 50
束の間の休息
しおりを挟む
「だはぁ……」
昼休みを告げるチャイムが鳴るや否や、俺はどでかいため息をついていた。
疲れ切った表情の原因は四時間目の数学が難しかったというわけではなく、昨日から悩みの種として心にのしかかっている白峰の件だ。
――それに私、誰かと親しくなりたいなんて一度も思ったことがないから。
真意のわからない無表情な顔で言っていた白峰の言葉が耳の奥で蘇る。
そしてチラリと窓際を見てみると、その宣言通り今日も彼女は誰とも関わらず一人静かに席に座っていた。
「なんや翔太、ゾンビみたいに死んだ顔しとるぞ」
「ゾンビは言い過ぎだろ」
失礼なやつだな、と俺は目の前にやってきた快人に対して眉根を寄せた。すると相手は「冗談やって」と愉快げに喉を鳴らし始めた。
「でも死にそうな顔してるのはほんまやけどなんか悩むことでもあったんか?」
「いやべつに悩みってほどじゃないけど……」
今度は呑気な口調でそんなことを尋ねてくる相手に向かって俺は歯切れの悪い口調で言葉を返す。……いやほんとはめっちゃ悩んでますけどね。
しかしそれを正直に伝えてしまうとなんだか面倒な展開になりそうなのでここはどう答えたものかと悩んでいると、快人がまたしてもニカっと白い歯を見せてきた。
「それやったら悩みも吹き飛ぶグッドニュース教えたるわ。今から姫奈ちゃんたちと食堂で昼飯食べることになったんやけど翔太も来るやろ?」
「え、水無瀬さんたちと?」
予想もしなかった快人からのお誘いに俺は思わず驚いてしまう。
「そうや。姫奈ちゃんのグループやからそりゃもう可愛い子がわんさかおるで」
そう言って快人は両手の指先を怪しい動きででくねくねと動かす。俺はそんな下心丸出しの友人を無視しつつ、今まさに教室を出て行こうとしている賑やかなグループへと視線を移した。
水無瀬さんたちと昼飯を食べるとか、オタクのくせにコイツの交友関係ってほんとすごいよな。
半ば呆れながらもそんなことを思うと、俺は鞄から弁当箱を取り出して目の前にいる快人に向かって言う。
「あーでも悪い。俺今日弁当持ってきてるからやっぱパスで」
「えっ! お前せっかく姫奈ちゃんたちと昼飯食べれるチャンスやのに幼なじみが作った弁当の方を選ぶんかいな」
「なんだよその誤解されそうな言い方は。だいたい今日の弁当は茜じゃなくて俺が作ったやつだからな」
いきなり幼なじみネタでいじってくる相手に俺はすかさずツッコミを返す。
今の発言からお察しの通り、茜のことは快人も知っているのだが時おりこうやっておちょくってくるので面倒なのだ。
「ええか翔太、友人の誘いを断って幼なじみが作った弁当食えるのはラブコメの主人公だけやからな」
「いや、だからこれは俺が作ったって言ってるだろ」
話しを聞けよバカ、と俺が呆れた口調で言い返せば、相手は「あーはいはい」と適当な感じで相槌を打つ。
「ほんなら俺だけ姫奈ちゃんたちとのランチ楽しんでくるわ」
「あ、ちょっと待てよ快人」
そそくさと背を向けて教室の出口へと向かおうとする相手を呼び止めると、俺は頭の中でずっと気になっていることを快人にも聞いてみることにした。
「誰とも仲良くなりたくない、って本気で思う人間っていると思うか?」
先ほどとは違う真面目な口調で俺はそんなことを尋ねた。
すると快人は「何やねん急に」と少しきょとんとした表情を浮かべる。
「いや、最近そんなことを言われることがあったからちょっと気になってな」
「ふーん」
こちらの返答に何やら含みのあるような声を漏らしてくる相手。
けれども快人はそれ以上何も追求してくることはなく、少し考え込むような表情を見せると再び言った。
「まあ色んな人間おるからそんなやつもおるんとちゃうか。たとえば過去にそう思わざるおえんような経験があったとか」
「経験か……」
快人の言葉を聞いて、今度は俺の方が考え込む。まあ確かにあんな家に一人で住んでいるような白峰だ。他の人とは違う経験の一つや二つあってもおかしくないだろうな。
そんなことを考えながら眉間に皺を寄せていると、目の前にいる快人が何故かニヤリと笑う。
「でもまあ俺やったら可愛い子とは片っ端から仲良くなりたいけどな!」
「うるさいって」
真剣な話をしていたかと思いきや、いつもの調子でおちゃらけてきた快人に対して俺は右手を出してツッコミを入れる。
しかし相手は飄々としたその態度のごとくひょいとそれを避けると、「ほなまた」と再び陽気な声を発してそのまますたこらさっさと教室の扉の方へと向かって行ってしまった。
そして残された俺はというと、そんな呑気な友人の後ろ姿を見て、ただため息をつくことしかできなかった。
昼休みを告げるチャイムが鳴るや否や、俺はどでかいため息をついていた。
疲れ切った表情の原因は四時間目の数学が難しかったというわけではなく、昨日から悩みの種として心にのしかかっている白峰の件だ。
――それに私、誰かと親しくなりたいなんて一度も思ったことがないから。
真意のわからない無表情な顔で言っていた白峰の言葉が耳の奥で蘇る。
そしてチラリと窓際を見てみると、その宣言通り今日も彼女は誰とも関わらず一人静かに席に座っていた。
「なんや翔太、ゾンビみたいに死んだ顔しとるぞ」
「ゾンビは言い過ぎだろ」
失礼なやつだな、と俺は目の前にやってきた快人に対して眉根を寄せた。すると相手は「冗談やって」と愉快げに喉を鳴らし始めた。
「でも死にそうな顔してるのはほんまやけどなんか悩むことでもあったんか?」
「いやべつに悩みってほどじゃないけど……」
今度は呑気な口調でそんなことを尋ねてくる相手に向かって俺は歯切れの悪い口調で言葉を返す。……いやほんとはめっちゃ悩んでますけどね。
しかしそれを正直に伝えてしまうとなんだか面倒な展開になりそうなのでここはどう答えたものかと悩んでいると、快人がまたしてもニカっと白い歯を見せてきた。
「それやったら悩みも吹き飛ぶグッドニュース教えたるわ。今から姫奈ちゃんたちと食堂で昼飯食べることになったんやけど翔太も来るやろ?」
「え、水無瀬さんたちと?」
予想もしなかった快人からのお誘いに俺は思わず驚いてしまう。
「そうや。姫奈ちゃんのグループやからそりゃもう可愛い子がわんさかおるで」
そう言って快人は両手の指先を怪しい動きででくねくねと動かす。俺はそんな下心丸出しの友人を無視しつつ、今まさに教室を出て行こうとしている賑やかなグループへと視線を移した。
水無瀬さんたちと昼飯を食べるとか、オタクのくせにコイツの交友関係ってほんとすごいよな。
半ば呆れながらもそんなことを思うと、俺は鞄から弁当箱を取り出して目の前にいる快人に向かって言う。
「あーでも悪い。俺今日弁当持ってきてるからやっぱパスで」
「えっ! お前せっかく姫奈ちゃんたちと昼飯食べれるチャンスやのに幼なじみが作った弁当の方を選ぶんかいな」
「なんだよその誤解されそうな言い方は。だいたい今日の弁当は茜じゃなくて俺が作ったやつだからな」
いきなり幼なじみネタでいじってくる相手に俺はすかさずツッコミを返す。
今の発言からお察しの通り、茜のことは快人も知っているのだが時おりこうやっておちょくってくるので面倒なのだ。
「ええか翔太、友人の誘いを断って幼なじみが作った弁当食えるのはラブコメの主人公だけやからな」
「いや、だからこれは俺が作ったって言ってるだろ」
話しを聞けよバカ、と俺が呆れた口調で言い返せば、相手は「あーはいはい」と適当な感じで相槌を打つ。
「ほんなら俺だけ姫奈ちゃんたちとのランチ楽しんでくるわ」
「あ、ちょっと待てよ快人」
そそくさと背を向けて教室の出口へと向かおうとする相手を呼び止めると、俺は頭の中でずっと気になっていることを快人にも聞いてみることにした。
「誰とも仲良くなりたくない、って本気で思う人間っていると思うか?」
先ほどとは違う真面目な口調で俺はそんなことを尋ねた。
すると快人は「何やねん急に」と少しきょとんとした表情を浮かべる。
「いや、最近そんなことを言われることがあったからちょっと気になってな」
「ふーん」
こちらの返答に何やら含みのあるような声を漏らしてくる相手。
けれども快人はそれ以上何も追求してくることはなく、少し考え込むような表情を見せると再び言った。
「まあ色んな人間おるからそんなやつもおるんとちゃうか。たとえば過去にそう思わざるおえんような経験があったとか」
「経験か……」
快人の言葉を聞いて、今度は俺の方が考え込む。まあ確かにあんな家に一人で住んでいるような白峰だ。他の人とは違う経験の一つや二つあってもおかしくないだろうな。
そんなことを考えながら眉間に皺を寄せていると、目の前にいる快人が何故かニヤリと笑う。
「でもまあ俺やったら可愛い子とは片っ端から仲良くなりたいけどな!」
「うるさいって」
真剣な話をしていたかと思いきや、いつもの調子でおちゃらけてきた快人に対して俺は右手を出してツッコミを入れる。
しかし相手は飄々としたその態度のごとくひょいとそれを避けると、「ほなまた」と再び陽気な声を発してそのまますたこらさっさと教室の扉の方へと向かって行ってしまった。
そして残された俺はというと、そんな呑気な友人の後ろ姿を見て、ただため息をつくことしかできなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる