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いつもの日常とは
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結局白峰のテーブルはすんなりと決まってしまい、親父は張り切ってテーブルを解体するとそれをあっという間に綺麗に梱包してしまった。
そして同じシリーズのチェア2脚と合わせて黒のハイエースに積み込むと、ついでに助手席に白峰も積み込んで早々と店を出発したのだった。
……そういや親父、お会計してなかったけど忘れてるわけじゃないよね?
ブロロンとエンジン音を轟かせて遠ざかっていく車を窓越しに見つめながらついそんなことを思ってしまったが、まあ親父のことだ。
いくらサービス精神が旺盛とはいえその辺はしっかりしてるから大丈夫だろう……たぶん。
とりあえず嵐のような一件は過ぎ去ってくれたのでホッと胸を撫で下ろしていると、隣に立つ茜がぼそりと口を開く。
「それで、あの子はほんまにただのクラスメイトなん?」
細めた目でチラリとこちらを見上げてそんなことを尋ねてくる相手。俺はその言葉を聞いて呆れた口調で答えた。
「だからそうだってさっきも言っただろ。アイツはただのクラスメイトだ」
「ふーん……」
何だか不服そうな声を返されてしまったが、茜の様子には先ほどのようなカリカリとした感じはない。どうやら白峰がいなくなり彼女も少しは落ち着いたのだろう。
「そういや茜、今日は学校終わるの早かったんだな」
「そやねん。だから早めに帰ってきたし、おじさんの手伝いでもしとこかなーって思って」
さすがウチやろ、っと今度は白い歯を見せてニッと笑う茜。その自画自賛な態度はどうなのかと思うが、それでも普段から彼女がよくお店の手伝いをしてくれているのは事実なので俺は何も言い返せない。
そしてそんな茜とは振り返ってみると、もう随分と長い付き合いになる。
もともと俺の母親と茜の母親が幼なじみ同士のお隣さんで、その延長で俺たちも同じような間柄で育ってきた。
とは言っても俺が茜と出会ったのは小学校に上がって大阪に転校してきた時なのでさすがに生まれた時から一緒というわけではないのだが、それでも自分の思い出を振り返った時、そこに必ずと言っていいほど一緒に映っているのがコイツだ。
根っからの浪花育ちで男子にも負けないほど強気で勝ち気、そのくせ世話好きなところもあり困っている人がいると放ってはおけない姉御肌タイプ。
そんな性格だからか茜は昔から友達も多く、小学校と中学校は俺も同じ学校に通っていたのだが、コイツはいつもみんなの輪の中心にいるイメージがあった。
実際、転校してきたばかりの俺を無理やりみんなの輪に加えてきたのも茜だし、それどころかいまだに俺がやることなすことに茶々を入れたり世話を焼いてこようとしてくるので困った話しだ。
ただまあ今のこのお店があるのも、そして俺自身がいるのも、間違いなく茜のおかげだろう。
そう。特にあの頃の俺は、茜がいなければ今頃きっと……。
ふとそんな感傷に一人浸っていると、「あっ」と茜は何か思い出したのかレジの方へと近づいていく。
「そうや翔太。レジの棚に飾ってるこの多肉植物にまたお水やってなかったやろ」
「あれ、その植物ってまだ水やりしなくても大丈夫じゃなかったっけ?」
「ちゃうわアホ、葉にシワが寄ってたら水やりしなあかんって前に言ったやん」
ほんまアンタはそういうとこすぐ抜けるんやから、とわざとらしく唇を尖らせてくる茜。……オカンかこいつは。
せっかく心の中で評価を上げていたところなのに余計な水を差されてしまい、俺は黙ったまま茜に対してついジト目を向ける。
けれども言い返せば多肉植物の水やりの仕方についてあーだこーだと口うるさく言われるのはわかっているので「へいへいすんませんなー」と適当な返事をしていたら、カランと鈴の音が鳴ってお客さんが入ってきた。
「あっ、紗季さんこんにちは!」
「茜ちゃんこんにちは。今日もお勧めの香り教えてくれる?」
そう言って店に入ってきたのは、白のスラウチハットがよく似合う上品な女性。ゆるやかに巻いたロングヘアーが大人の魅力をたっぷりと醸し出すこのお姉さんは、最近よく店に来てくれるようになった安藤さんだ。
「翔太くんもこんにちは」とわざわざ自分にまで挨拶をしてくれる安藤さんに俺も満面のスタッフスマイルで応えていると、茜が嬉しそうにレジから出てくる。
「ちょうど昨日新しい香りが入ってきたところなんですよ!」
茜はテンション高くそう言うとルームフレグランスが並んでいる壁側の棚の方へと安藤さんを連れて行く。
「このビターオレンジの香りとかオススメで紗季さんも好きだと思います!」
「あっほんとだ。それにムスクの香りもちょっぴりするんだね」
「そうなんです! ウチもムスクの香りがめっちゃ好きで――」
きゃっきゃと何やら楽しそうに安藤さんと会話を始めた茜。その様子は相手がお客さんといえまるで姉妹のようにも見えるほど。たしか安藤さんは自分たちの5つ上だと言っていたので、きっと茜からすれば憧れだったお姉ちゃんができたような感じなのだろう。
俺はそんなことを思いながら、楽しげにお客さんと話しをしている茜の姿を見てふっと口元を緩める。
こんな風にお客さんとスタッフが仲良くなり、笑顔で好きなインテリアについて互いに語り合う。
それがこのお店、コンシェルジュの日常。
白峰の来店は晴天の霹靂ではあったが、その件も無事に終わりを迎えることができたので、まあ今回のこともいずれ懐かしい思い出に変わっていくのだろう。
そしてまた今日から始まるのは、俺にとって穏やかで平和的ないつもの日常なのだ。
そして同じシリーズのチェア2脚と合わせて黒のハイエースに積み込むと、ついでに助手席に白峰も積み込んで早々と店を出発したのだった。
……そういや親父、お会計してなかったけど忘れてるわけじゃないよね?
ブロロンとエンジン音を轟かせて遠ざかっていく車を窓越しに見つめながらついそんなことを思ってしまったが、まあ親父のことだ。
いくらサービス精神が旺盛とはいえその辺はしっかりしてるから大丈夫だろう……たぶん。
とりあえず嵐のような一件は過ぎ去ってくれたのでホッと胸を撫で下ろしていると、隣に立つ茜がぼそりと口を開く。
「それで、あの子はほんまにただのクラスメイトなん?」
細めた目でチラリとこちらを見上げてそんなことを尋ねてくる相手。俺はその言葉を聞いて呆れた口調で答えた。
「だからそうだってさっきも言っただろ。アイツはただのクラスメイトだ」
「ふーん……」
何だか不服そうな声を返されてしまったが、茜の様子には先ほどのようなカリカリとした感じはない。どうやら白峰がいなくなり彼女も少しは落ち着いたのだろう。
「そういや茜、今日は学校終わるの早かったんだな」
「そやねん。だから早めに帰ってきたし、おじさんの手伝いでもしとこかなーって思って」
さすがウチやろ、っと今度は白い歯を見せてニッと笑う茜。その自画自賛な態度はどうなのかと思うが、それでも普段から彼女がよくお店の手伝いをしてくれているのは事実なので俺は何も言い返せない。
そしてそんな茜とは振り返ってみると、もう随分と長い付き合いになる。
もともと俺の母親と茜の母親が幼なじみ同士のお隣さんで、その延長で俺たちも同じような間柄で育ってきた。
とは言っても俺が茜と出会ったのは小学校に上がって大阪に転校してきた時なのでさすがに生まれた時から一緒というわけではないのだが、それでも自分の思い出を振り返った時、そこに必ずと言っていいほど一緒に映っているのがコイツだ。
根っからの浪花育ちで男子にも負けないほど強気で勝ち気、そのくせ世話好きなところもあり困っている人がいると放ってはおけない姉御肌タイプ。
そんな性格だからか茜は昔から友達も多く、小学校と中学校は俺も同じ学校に通っていたのだが、コイツはいつもみんなの輪の中心にいるイメージがあった。
実際、転校してきたばかりの俺を無理やりみんなの輪に加えてきたのも茜だし、それどころかいまだに俺がやることなすことに茶々を入れたり世話を焼いてこようとしてくるので困った話しだ。
ただまあ今のこのお店があるのも、そして俺自身がいるのも、間違いなく茜のおかげだろう。
そう。特にあの頃の俺は、茜がいなければ今頃きっと……。
ふとそんな感傷に一人浸っていると、「あっ」と茜は何か思い出したのかレジの方へと近づいていく。
「そうや翔太。レジの棚に飾ってるこの多肉植物にまたお水やってなかったやろ」
「あれ、その植物ってまだ水やりしなくても大丈夫じゃなかったっけ?」
「ちゃうわアホ、葉にシワが寄ってたら水やりしなあかんって前に言ったやん」
ほんまアンタはそういうとこすぐ抜けるんやから、とわざとらしく唇を尖らせてくる茜。……オカンかこいつは。
せっかく心の中で評価を上げていたところなのに余計な水を差されてしまい、俺は黙ったまま茜に対してついジト目を向ける。
けれども言い返せば多肉植物の水やりの仕方についてあーだこーだと口うるさく言われるのはわかっているので「へいへいすんませんなー」と適当な返事をしていたら、カランと鈴の音が鳴ってお客さんが入ってきた。
「あっ、紗季さんこんにちは!」
「茜ちゃんこんにちは。今日もお勧めの香り教えてくれる?」
そう言って店に入ってきたのは、白のスラウチハットがよく似合う上品な女性。ゆるやかに巻いたロングヘアーが大人の魅力をたっぷりと醸し出すこのお姉さんは、最近よく店に来てくれるようになった安藤さんだ。
「翔太くんもこんにちは」とわざわざ自分にまで挨拶をしてくれる安藤さんに俺も満面のスタッフスマイルで応えていると、茜が嬉しそうにレジから出てくる。
「ちょうど昨日新しい香りが入ってきたところなんですよ!」
茜はテンション高くそう言うとルームフレグランスが並んでいる壁側の棚の方へと安藤さんを連れて行く。
「このビターオレンジの香りとかオススメで紗季さんも好きだと思います!」
「あっほんとだ。それにムスクの香りもちょっぴりするんだね」
「そうなんです! ウチもムスクの香りがめっちゃ好きで――」
きゃっきゃと何やら楽しそうに安藤さんと会話を始めた茜。その様子は相手がお客さんといえまるで姉妹のようにも見えるほど。たしか安藤さんは自分たちの5つ上だと言っていたので、きっと茜からすれば憧れだったお姉ちゃんができたような感じなのだろう。
俺はそんなことを思いながら、楽しげにお客さんと話しをしている茜の姿を見てふっと口元を緩める。
こんな風にお客さんとスタッフが仲良くなり、笑顔で好きなインテリアについて互いに語り合う。
それがこのお店、コンシェルジュの日常。
白峰の来店は晴天の霹靂ではあったが、その件も無事に終わりを迎えることができたので、まあ今回のこともいずれ懐かしい思い出に変わっていくのだろう。
そしてまた今日から始まるのは、俺にとって穏やかで平和的ないつもの日常なのだ。
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