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その記憶力、まさに本物。
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【七月二十三日(木) 天気・晴れ、気分・憂鬱】
いきなりどうしたかったって? これは日記だ。
この不可解かつ奇想天外で地獄のような日々を、まともな人間に戻った時に少しでも多くの人に知ってもらおうと、日記形式に記録を始めたのだ。
が、先に言っておくが、まだ字を書く事はできない。それどころか、二足歩行も今のところできる気配はない。
つまりこれは、俺の頭の中に記した日記ということだ。そんなに記憶力が良いのかって? なめてもらっては困る。
だてにトイレットペッパーの営業を二十七年間続けてきたわけではない。あの巻物のようなロール紙を何千メートルと扱ってきたのだがら、記憶の巻物の方もちょちょいのちょいだ。
事実、九九の二の段だってまだ余裕で言える。五の段だっておてのもの。七の段だけは、ちょっと怪しい。
が、それが何だと言うのだ? とりあえず記憶だ。記録するんだこの日々を。
とりあえず、今現時点でわかっているポイントだけでも整理しよう。
なぜならポイントを整理することによって、答えを導きだすことができるからだ。今分かっていることは……。
『二足歩行ができない』
『全身けむくじゃら』
『名前はきゅんきゅん』
ここから導きだされる答え、それは『カオス』だ。
同じ部署の長谷川さんが先月、「そうだ今年こそはラオスに行こう!」と張り切って言っていたが、俺の方が先にカオスに来た。しかも、飛行機のチケットも取らずに来た。
はっきり言おう。わかっていることが少なすぎる。
ここから今の状況を整理しろと言われても、ほぼ不可能。ルービックキューブでさえまともに出来たことのない俺に、それよりもはるかにヒントが少ないこの状況で、一体どんな図柄を完成させろと言うのか?
だが坂田、ここで負けるな。
お前はきっと、ポジティブ人間に生まれ変わるために、この試練が与えられたのだ。
心の中でもう一人の自分が叫ぶ。そうだ、俺は前向きに生まれ変わるのだ。うぇえへへへ。
だからもう一度ポイントを整理しよう。今度はもう少し具体的に整理しよう。
『両足で立って歩くことができません』
『頭部から足先にかけて、見たことがないほど毛が生えています』
『不特定多数の人間から、きゅんきゅんと呼ばれています』
なるほど。確かにさっきよりかは少しだけ具体的に何かが見えてきた。
つまりそうこれは、『一つひとつは起こる可能性はまだあるが、三つまとめて降り注いでくる可能性は非常に低いカオス』、ということだ。
どちらにしてもやはりカオス。きっと長谷川さんもこんな状況を見れば、「やっぱり私はカオスじゃなくてラオスに行こう」と断言するだろう。
一体なぜ俺はカオスに来たのか?
先ほども言ったが、記憶力にはかなりの自信がある。だがそんな俺でも、気になる不可解なことがある。
ここに来るまでの記憶が一切ないのだ。
拉致られた。サプライズで連れてこられた。宅配された。郵送された。
わずかでも頭の片隅に手がかりの記憶が残っていればいいのだが、これが残念ながらまったくと言っていいほどない。
普通で変わり映えもしない人生を四十九年間歩んできた男に、こんな展開が生きていてありえるだろうか?
が、俺は考えた。出口を見つけるために、ここまで連れてこられた仮説を必死になって考えて、忘れないように記憶した。思い当たるポイントは主に四つだ。
一、 上司に無理やり連れて行かれた三軒目の帰りに、走ってくる乗用車にぶつかり意識不明の重体。そして今も夢の中。
二、 ベランダで洗濯物を干している時に突然周囲が白く光って、宇宙人に連れられた。
三、 実は俺はもともとこちら側の住人で、これまでの記憶の方が全部噓。
ざっと挙げればこんなものだ。どうだ、メモも取らずにこの記憶力。完璧だろう。
この不可解な状況を説明するうえでは、どの仮説にも光るものがある。特に三つ目に関してはまるで自分がミステリー映画の主人公になったような気分になれるが、人間になれるような気分はしないので出来れば却下したい。
さて、以上の仮説、ポイントを整理してそろそろ具体的に答えを見つけなければいけない。いつまでもこんな不可解な檻の中で、全身けむくじゃらになっている場合ではないのだ。
カオスから飛び出して元の世界へと戻り、飛行機で飛び出して長谷川さんとラオスに行く。
これをBプランと名付けよう。
そんなプランを実現するためにも、ここからの脱出方法を見つける為にも、俺は今起こっていることの全てを記憶し、そこから答えを導き出さなくてはいけない。
トイレットペーパーのような記憶のロール紙を持った化物、坂田。そんな俺なら必ずできる。
そう自分を鼓舞して大きく深呼吸した。心が少し穏やかになり、何かが見えてきそうな気がする。
だが直後、俺はある重要な事が記憶から抜け落ちていることに気付いた。これに関してはご存知の方、ぜひとも教えてほしい。
今日は何月何日だ?
いきなりどうしたかったって? これは日記だ。
この不可解かつ奇想天外で地獄のような日々を、まともな人間に戻った時に少しでも多くの人に知ってもらおうと、日記形式に記録を始めたのだ。
が、先に言っておくが、まだ字を書く事はできない。それどころか、二足歩行も今のところできる気配はない。
つまりこれは、俺の頭の中に記した日記ということだ。そんなに記憶力が良いのかって? なめてもらっては困る。
だてにトイレットペッパーの営業を二十七年間続けてきたわけではない。あの巻物のようなロール紙を何千メートルと扱ってきたのだがら、記憶の巻物の方もちょちょいのちょいだ。
事実、九九の二の段だってまだ余裕で言える。五の段だっておてのもの。七の段だけは、ちょっと怪しい。
が、それが何だと言うのだ? とりあえず記憶だ。記録するんだこの日々を。
とりあえず、今現時点でわかっているポイントだけでも整理しよう。
なぜならポイントを整理することによって、答えを導きだすことができるからだ。今分かっていることは……。
『二足歩行ができない』
『全身けむくじゃら』
『名前はきゅんきゅん』
ここから導きだされる答え、それは『カオス』だ。
同じ部署の長谷川さんが先月、「そうだ今年こそはラオスに行こう!」と張り切って言っていたが、俺の方が先にカオスに来た。しかも、飛行機のチケットも取らずに来た。
はっきり言おう。わかっていることが少なすぎる。
ここから今の状況を整理しろと言われても、ほぼ不可能。ルービックキューブでさえまともに出来たことのない俺に、それよりもはるかにヒントが少ないこの状況で、一体どんな図柄を完成させろと言うのか?
だが坂田、ここで負けるな。
お前はきっと、ポジティブ人間に生まれ変わるために、この試練が与えられたのだ。
心の中でもう一人の自分が叫ぶ。そうだ、俺は前向きに生まれ変わるのだ。うぇえへへへ。
だからもう一度ポイントを整理しよう。今度はもう少し具体的に整理しよう。
『両足で立って歩くことができません』
『頭部から足先にかけて、見たことがないほど毛が生えています』
『不特定多数の人間から、きゅんきゅんと呼ばれています』
なるほど。確かにさっきよりかは少しだけ具体的に何かが見えてきた。
つまりそうこれは、『一つひとつは起こる可能性はまだあるが、三つまとめて降り注いでくる可能性は非常に低いカオス』、ということだ。
どちらにしてもやはりカオス。きっと長谷川さんもこんな状況を見れば、「やっぱり私はカオスじゃなくてラオスに行こう」と断言するだろう。
一体なぜ俺はカオスに来たのか?
先ほども言ったが、記憶力にはかなりの自信がある。だがそんな俺でも、気になる不可解なことがある。
ここに来るまでの記憶が一切ないのだ。
拉致られた。サプライズで連れてこられた。宅配された。郵送された。
わずかでも頭の片隅に手がかりの記憶が残っていればいいのだが、これが残念ながらまったくと言っていいほどない。
普通で変わり映えもしない人生を四十九年間歩んできた男に、こんな展開が生きていてありえるだろうか?
が、俺は考えた。出口を見つけるために、ここまで連れてこられた仮説を必死になって考えて、忘れないように記憶した。思い当たるポイントは主に四つだ。
一、 上司に無理やり連れて行かれた三軒目の帰りに、走ってくる乗用車にぶつかり意識不明の重体。そして今も夢の中。
二、 ベランダで洗濯物を干している時に突然周囲が白く光って、宇宙人に連れられた。
三、 実は俺はもともとこちら側の住人で、これまでの記憶の方が全部噓。
ざっと挙げればこんなものだ。どうだ、メモも取らずにこの記憶力。完璧だろう。
この不可解な状況を説明するうえでは、どの仮説にも光るものがある。特に三つ目に関してはまるで自分がミステリー映画の主人公になったような気分になれるが、人間になれるような気分はしないので出来れば却下したい。
さて、以上の仮説、ポイントを整理してそろそろ具体的に答えを見つけなければいけない。いつまでもこんな不可解な檻の中で、全身けむくじゃらになっている場合ではないのだ。
カオスから飛び出して元の世界へと戻り、飛行機で飛び出して長谷川さんとラオスに行く。
これをBプランと名付けよう。
そんなプランを実現するためにも、ここからの脱出方法を見つける為にも、俺は今起こっていることの全てを記憶し、そこから答えを導き出さなくてはいけない。
トイレットペーパーのような記憶のロール紙を持った化物、坂田。そんな俺なら必ずできる。
そう自分を鼓舞して大きく深呼吸した。心が少し穏やかになり、何かが見えてきそうな気がする。
だが直後、俺はある重要な事が記憶から抜け落ちていることに気付いた。これに関してはご存知の方、ぜひとも教えてほしい。
今日は何月何日だ?
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