無敵のツルペタ剣聖

samishii kame

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第45話 (ASの目線)AS咆哮

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―――ASの目線―――

大きな体育館のような密閉空間にいた。
20mはあろうかという天井で回っている換気用のプロペラファンの音が響いている。
私の体は壁にめり込み動けないでいた。
悪魔の力により、義父を媒介にし召喚されてきた二刀流の侍に斬りかかったところ、軽く手で振り払われ、遠くの壁まで振り飛ばされたのだ。
一応まだ意識ははっきりしているものの、肺が潰され吐血し、痛覚が麻痺しており、自身の死を予感させていた。
二刀流の侍には相手にされるどころか、その視界にも入っていなかったのではないだろうか。
義父の弔いをするどころか、戦う土俵にも乗ることが出来ず、死んでしまおうとしている弱すぎる自分が、悔しくて情けない。

室内の中央には二刀流の侍が19種族の剣聖に対し、敵意を剥き出しにしていた。
強靭に鍛えられたがっしりした体格は2m以上の身長がある。
向こうにいる真っ白なスーツを着た悪魔から力を分け与えられているためか、全身を覆っている暗黒色の甲冑から、真っ黒な炎が上がっていた。
実姉のテスタが、私の名前を叫びながらこちらへ駆け寄ってくる姿が見える。

これから起きる展開は容易に想像できる。
二刀流の侍は11種族史上最強の剣豪に数えられるものの、それでも圧倒的な技量を持っている安杏ちゃんの前には、なすすべもなく切り捨てられるのだろう。
義父の魂を食らった存在だけは、私の手で討ちとりたいと願っていた。
弱い自分が、これほどまでに悔しいと思ったことはない。
――――――――――――力が欲し。

安杏ちゃんが二刀流の侍に何かを言っている姿が見える。
どうやら、戦闘を少し待つように告げているようだ。
向こうに立っていた悪魔が同意したようで、19種族の剣聖がこちらへ歩いてくる。
意識が朦朧としてきた。
血液が流れ過ぎている。
実姉テスタが私の手を握り、大きな声で名前を呼んでいた。
歩いてきていた安杏ちゃんが近づいてくると、手に握っていた刀身の砕かれた刀を差し出してきた。
剣聖から繰り出された燕返しにより、粉砕された義父の愛刀を私へ渡そうとしているようだ。
安杏ちゃんが気まずそうな表情をし、話しかけてきた。


「おかしな事を言う不思議ちゃんと思わられかもしれませんが、少し話しを聞いて下さい。」
「…。」
「この持っている刀が、私にお願いをしてきたわけでありまして…」


何を言っているんだ。
私の効き間違いでなければ、まるで刀が言葉を喋っているような言い方に聞こえてくる。
死にかけている時に、何を言ってくるかと思えば…。
全身の力が抜けていく。
安杏ちゃんは私の様子を伺いながら、更に言葉を続けてきた。


「ものに魂が宿るという都市伝説があるのは有名な話しじゃないですか。要するにこの刀が、ASの手助けをしたいと私に話しかけてきたわけでして。」
「…。」
「えー。つまり、この刀を受け取ってもらえないでしょうか。」


私の手を握っていた実姉テスタも不思議そうな顔をし、話しを聞いていた。
やはり、刀が喋っているような言い方をしているように聞こえる。
意識が薄れつつある中、私の本能が『差し出された刀を受け取れ』と告げている気がした。
その本能に突き動かされ、自然な感じで手を伸ばしていく。
不思議な感覚がする。
まるで重力に吸い寄せられる感じだ。
刀身が無くなってしまった義父の愛刀を握った瞬間。
よく知っている声が聞こえてきた。
義父が私の名を呼んでいる。


———————突然、安杏ちゃんの体から紅蓮の炎が舞い上がった。


何だ。何が起こっているんだ。
安杏ちゃんから発せられた炎が、義父の愛刀に伝わり、私の体を焼き尽くそうと伸びてきた。
再び義父の声が聞こえ、想いが伝わってくる。
おとうさん……。
徐々に意識がクリアになっていく。
消えかけていた闘志が蘇ってきた。
全身に爆発的な炎が果てしなく舞いあがってくるような感覚がする。
この紅蓮の炎は、太陽の力であると直感した。
底抜けに可愛い女の子が私の願いに応え、力を分け与えてくれたのだろうか。

気が付くと、太陽の炎により義父の愛刀が完全蘇っていた。
—————————砕けたはずの刀身が、蘇生されていたのだ。
私は本能のままに信じられないくらいの咆哮を上げていた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


二刀流の侍と視線が重なった。
初めてこちらを見たな。
ようやく私を敵であると認識したか!
動かなかった体が、ありえないほど軽く感じる。
今の私は、許容を遥かに超えるエンジンを積んだ状態になっているのだろう。
体中を駆け巡る太陽の炎は、まもなく自身を焼き尽くすのだろうと想像がつく。
動かなくなる前に、決着をつけてやる。
義父の仇だけは命にかえても私が討つ!
私の闘気に反応した二刀流の侍が、間合いを詰めてくる姿が見える。
命が燃え尽きる前に義父の仇を討つチャンスをくれた安杏ちゃんには感謝せずにいられない。
そろそろ正気が保てなくきている。
本能に身を任せ、再び吠えた。


「小細工無しだ。真っ向からねじ伏せてやる!」


太陽の炎に支配された体が弾丸にように跳ねていく。
安杏ちゃんを置き去りにして、向かってくる二刀流の侍に斬り込んだ。
私の方が速い。
先手を奪ったぞ。
義父と一緒にただひたすら剣の振っていた記憶が蘇ってくる。
ただひたすら無心になって振り続けていたその一刀で仕留めてやる。


渾身の一刀が、二刀流の侍の2本の刀をへし折り、頭上から真っ二つにその体を斬り裂いた。
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