45 / 46
第45話 (ASの目線)AS咆哮
しおりを挟む
―――ASの目線―――
大きな体育館のような密閉空間にいた。
20mはあろうかという天井で回っている換気用のプロペラファンの音が響いている。
私の体は壁にめり込み動けないでいた。
悪魔の力により、義父を媒介にし召喚されてきた二刀流の侍に斬りかかったところ、軽く手で振り払われ、遠くの壁まで振り飛ばされたのだ。
一応まだ意識ははっきりしているものの、肺が潰され吐血し、痛覚が麻痺しており、自身の死を予感させていた。
二刀流の侍には相手にされるどころか、その視界にも入っていなかったのではないだろうか。
義父の弔いをするどころか、戦う土俵にも乗ることが出来ず、死んでしまおうとしている弱すぎる自分が、悔しくて情けない。
室内の中央には二刀流の侍が19種族の剣聖に対し、敵意を剥き出しにしていた。
強靭に鍛えられたがっしりした体格は2m以上の身長がある。
向こうにいる真っ白なスーツを着た悪魔から力を分け与えられているためか、全身を覆っている暗黒色の甲冑から、真っ黒な炎が上がっていた。
実姉のテスタが、私の名前を叫びながらこちらへ駆け寄ってくる姿が見える。
これから起きる展開は容易に想像できる。
二刀流の侍は11種族史上最強の剣豪に数えられるものの、それでも圧倒的な技量を持っている安杏ちゃんの前には、なすすべもなく切り捨てられるのだろう。
義父の魂を食らった存在だけは、私の手で討ちとりたいと願っていた。
弱い自分が、これほどまでに悔しいと思ったことはない。
――――――――――――力が欲し。
安杏ちゃんが二刀流の侍に何かを言っている姿が見える。
どうやら、戦闘を少し待つように告げているようだ。
向こうに立っていた悪魔が同意したようで、19種族の剣聖がこちらへ歩いてくる。
意識が朦朧としてきた。
血液が流れ過ぎている。
実姉が私の手を握り、大きな声で名前を呼んでいた。
歩いてきていた安杏ちゃんが近づいてくると、手に握っていた刀身の砕かれた刀を差し出してきた。
剣聖から繰り出された燕返しにより、粉砕された義父の愛刀を私へ渡そうとしているようだ。
安杏ちゃんが気まずそうな表情をし、話しかけてきた。
「おかしな事を言う不思議ちゃんと思わられかもしれませんが、少し話しを聞いて下さい。」
「…。」
「この持っている刀が、私にお願いをしてきたわけでありまして…」
何を言っているんだ。
私の効き間違いでなければ、まるで刀が言葉を喋っているような言い方に聞こえてくる。
死にかけている時に、何を言ってくるかと思えば…。
全身の力が抜けていく。
安杏ちゃんは私の様子を伺いながら、更に言葉を続けてきた。
「ものに魂が宿るという都市伝説があるのは有名な話しじゃないですか。要するにこの刀が、ASの手助けをしたいと私に話しかけてきたわけでして。」
「…。」
「えー。つまり、この刀を受け取ってもらえないでしょうか。」
私の手を握っていた実姉も不思議そうな顔をし、話しを聞いていた。
やはり、刀が喋っているような言い方をしているように聞こえる。
意識が薄れつつある中、私の本能が『差し出された刀を受け取れ』と告げている気がした。
その本能に突き動かされ、自然な感じで手を伸ばしていく。
不思議な感覚がする。
まるで重力に吸い寄せられる感じだ。
刀身が無くなってしまった義父の愛刀を握った瞬間。
よく知っている声が聞こえてきた。
義父が私の名を呼んでいる。
———————突然、安杏ちゃんの体から紅蓮の炎が舞い上がった。
何だ。何が起こっているんだ。
安杏ちゃんから発せられた炎が、義父の愛刀に伝わり、私の体を焼き尽くそうと伸びてきた。
再び義父の声が聞こえ、想いが伝わってくる。
おとうさん……。
徐々に意識がクリアになっていく。
消えかけていた闘志が蘇ってきた。
全身に爆発的な炎が果てしなく舞いあがってくるような感覚がする。
この紅蓮の炎は、太陽の力であると直感した。
底抜けに可愛い女の子が私の願いに応え、力を分け与えてくれたのだろうか。
気が付くと、太陽の炎により義父の愛刀が完全蘇っていた。
—————————砕けたはずの刀身が、蘇生されていたのだ。
私は本能のままに信じられないくらいの咆哮を上げていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
二刀流の侍と視線が重なった。
初めてこちらを見たな。
ようやく私を敵であると認識したか!
動かなかった体が、ありえないほど軽く感じる。
今の私は、許容を遥かに超えるエンジンを積んだ状態になっているのだろう。
体中を駆け巡る太陽の炎は、まもなく自身を焼き尽くすのだろうと想像がつく。
動かなくなる前に、決着をつけてやる。
義父の仇だけは命にかえても私が討つ!
私の闘気に反応した二刀流の侍が、間合いを詰めてくる姿が見える。
命が燃え尽きる前に義父の仇を討つチャンスをくれた安杏ちゃんには感謝せずにいられない。
そろそろ正気が保てなくきている。
本能に身を任せ、再び吠えた。
「小細工無しだ。真っ向からねじ伏せてやる!」
太陽の炎に支配された体が弾丸にように跳ねていく。
安杏ちゃんを置き去りにして、向かってくる二刀流の侍に斬り込んだ。
私の方が速い。
先手を奪ったぞ。
義父と一緒にただひたすら剣の振っていた記憶が蘇ってくる。
ただひたすら無心になって振り続けていたその一刀で仕留めてやる。
渾身の一刀が、二刀流の侍の2本の刀をへし折り、頭上から真っ二つにその体を斬り裂いた。
大きな体育館のような密閉空間にいた。
20mはあろうかという天井で回っている換気用のプロペラファンの音が響いている。
私の体は壁にめり込み動けないでいた。
悪魔の力により、義父を媒介にし召喚されてきた二刀流の侍に斬りかかったところ、軽く手で振り払われ、遠くの壁まで振り飛ばされたのだ。
一応まだ意識ははっきりしているものの、肺が潰され吐血し、痛覚が麻痺しており、自身の死を予感させていた。
二刀流の侍には相手にされるどころか、その視界にも入っていなかったのではないだろうか。
義父の弔いをするどころか、戦う土俵にも乗ることが出来ず、死んでしまおうとしている弱すぎる自分が、悔しくて情けない。
室内の中央には二刀流の侍が19種族の剣聖に対し、敵意を剥き出しにしていた。
強靭に鍛えられたがっしりした体格は2m以上の身長がある。
向こうにいる真っ白なスーツを着た悪魔から力を分け与えられているためか、全身を覆っている暗黒色の甲冑から、真っ黒な炎が上がっていた。
実姉のテスタが、私の名前を叫びながらこちらへ駆け寄ってくる姿が見える。
これから起きる展開は容易に想像できる。
二刀流の侍は11種族史上最強の剣豪に数えられるものの、それでも圧倒的な技量を持っている安杏ちゃんの前には、なすすべもなく切り捨てられるのだろう。
義父の魂を食らった存在だけは、私の手で討ちとりたいと願っていた。
弱い自分が、これほどまでに悔しいと思ったことはない。
――――――――――――力が欲し。
安杏ちゃんが二刀流の侍に何かを言っている姿が見える。
どうやら、戦闘を少し待つように告げているようだ。
向こうに立っていた悪魔が同意したようで、19種族の剣聖がこちらへ歩いてくる。
意識が朦朧としてきた。
血液が流れ過ぎている。
実姉が私の手を握り、大きな声で名前を呼んでいた。
歩いてきていた安杏ちゃんが近づいてくると、手に握っていた刀身の砕かれた刀を差し出してきた。
剣聖から繰り出された燕返しにより、粉砕された義父の愛刀を私へ渡そうとしているようだ。
安杏ちゃんが気まずそうな表情をし、話しかけてきた。
「おかしな事を言う不思議ちゃんと思わられかもしれませんが、少し話しを聞いて下さい。」
「…。」
「この持っている刀が、私にお願いをしてきたわけでありまして…」
何を言っているんだ。
私の効き間違いでなければ、まるで刀が言葉を喋っているような言い方に聞こえてくる。
死にかけている時に、何を言ってくるかと思えば…。
全身の力が抜けていく。
安杏ちゃんは私の様子を伺いながら、更に言葉を続けてきた。
「ものに魂が宿るという都市伝説があるのは有名な話しじゃないですか。要するにこの刀が、ASの手助けをしたいと私に話しかけてきたわけでして。」
「…。」
「えー。つまり、この刀を受け取ってもらえないでしょうか。」
私の手を握っていた実姉も不思議そうな顔をし、話しを聞いていた。
やはり、刀が喋っているような言い方をしているように聞こえる。
意識が薄れつつある中、私の本能が『差し出された刀を受け取れ』と告げている気がした。
その本能に突き動かされ、自然な感じで手を伸ばしていく。
不思議な感覚がする。
まるで重力に吸い寄せられる感じだ。
刀身が無くなってしまった義父の愛刀を握った瞬間。
よく知っている声が聞こえてきた。
義父が私の名を呼んでいる。
———————突然、安杏ちゃんの体から紅蓮の炎が舞い上がった。
何だ。何が起こっているんだ。
安杏ちゃんから発せられた炎が、義父の愛刀に伝わり、私の体を焼き尽くそうと伸びてきた。
再び義父の声が聞こえ、想いが伝わってくる。
おとうさん……。
徐々に意識がクリアになっていく。
消えかけていた闘志が蘇ってきた。
全身に爆発的な炎が果てしなく舞いあがってくるような感覚がする。
この紅蓮の炎は、太陽の力であると直感した。
底抜けに可愛い女の子が私の願いに応え、力を分け与えてくれたのだろうか。
気が付くと、太陽の炎により義父の愛刀が完全蘇っていた。
—————————砕けたはずの刀身が、蘇生されていたのだ。
私は本能のままに信じられないくらいの咆哮を上げていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
二刀流の侍と視線が重なった。
初めてこちらを見たな。
ようやく私を敵であると認識したか!
動かなかった体が、ありえないほど軽く感じる。
今の私は、許容を遥かに超えるエンジンを積んだ状態になっているのだろう。
体中を駆け巡る太陽の炎は、まもなく自身を焼き尽くすのだろうと想像がつく。
動かなくなる前に、決着をつけてやる。
義父の仇だけは命にかえても私が討つ!
私の闘気に反応した二刀流の侍が、間合いを詰めてくる姿が見える。
命が燃え尽きる前に義父の仇を討つチャンスをくれた安杏ちゃんには感謝せずにいられない。
そろそろ正気が保てなくきている。
本能に身を任せ、再び吠えた。
「小細工無しだ。真っ向からねじ伏せてやる!」
太陽の炎に支配された体が弾丸にように跳ねていく。
安杏ちゃんを置き去りにして、向かってくる二刀流の侍に斬り込んだ。
私の方が速い。
先手を奪ったぞ。
義父と一緒にただひたすら剣の振っていた記憶が蘇ってくる。
ただひたすら無心になって振り続けていたその一刀で仕留めてやる。
渾身の一刀が、二刀流の侍の2本の刀をへし折り、頭上から真っ二つにその体を斬り裂いた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
戦国陰陽師〜自称・安倍晴明の子孫は、第六天魔王のお家の食客になることにしました〜
水城真以
ファンタジー
自称・安倍晴明の子孫、明晴。ある日美濃に立ち寄った明晴がいつもの通りに陰陽術で荒稼ぎしていたら、岐阜城主・織田信長に目を付けられてしまう。城に連れて行かれた明晴は、ある予言を当ててしまったことから織田家の食客になることに!?
「俺はただ、緩くのんびり生きられたらいいだけなのにーー!!」
果たして自称・安倍晴明の子孫の運命やいかに?!
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる