無敵のツルペタ剣聖

samishii kame

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第15話 MAX、無双

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窓のない密閉された部屋の壁の外からは、野菜を競りにかけている威勢のよい声が聞こえ、エネルギッシュなパワーが伝わってくる。
私達がいる部屋は、外の空気感とは別世界のように張りつめる空気が流れていた。
頭の先からすっぽりとフードをかぶっている真里伊との戦闘が始まろうとしており、更に緊張感が高まっていく。
取り交わしていた契約に従い太陽炉を復活させたところ、隠密の加護を持つ9種族の真里伊から私へ、SKILL『ホーミング爆撃』の的になってもらえないかと申し入れがあったのだ。
真里伊どれほどの戦闘力があるのか不明であるが、SKILL『危険予知』からの警告は無い。
要するに、真里伊の実力ではMAX最強である私に遠くおよばないという事だ。

意識を集中させていくと、感覚が研ぎ澄まされ、室内に停滞している空気中に舞っている埃の一つ一つの動きまでが把握出来る。
私は部屋の中を完全に支配していた。
この空間内にいる者については、行動を数手先まで完全に読みきることが可能であり、それは真里伊においては生き残ることが出来る可能性が無いという事だ。


――――――9種族の真里伊にはここで終わってもらいましょう。

 
「『大黒柱と腕押し』という言葉の意味をご存知ですか?」
「そ、それは『頑張っても遠く及ばない』という意味や。今のうちの状態やろ!」

なぬ!
質問したことわざについて、きっちりと答えられてしまったぞ。
そこは『何、意味不明の事を言っていやがる。』と不思議そうな顔をするのが定型であり、そして私がことわざの意味を格好よく言い、真里伊をぶった斬るのが必勝パターンだったのですが…。
何だか調子が狂ってしまうではないですか。
もう1度ことわざを言うところからやり直したいところではありますが、それをやってしまうと間抜けというか格好悪い。
こうなる事態に陥ることを想定していませんでした。
サクッと真里伊をみじん切りにしてから、この対策について考えてみる事にしましょう。
腰の神剣に手を掛けようとした時、真里伊が両手を上げて慌てた声を張り上げてきた。

「だから、待つんや!待ってくれ!」

ほぉぉ、それは降参のポーズですね。
このパターンは知っていますよ。
分かりました、お任せください。
ここは真里伊にお付き合いして差しあげましょう。

「最後に何か欲しいものはありますか?」
「なんや突然。さっきから言っておるように、うちが欲しいものは命乞いをする時間や!」

「いやいや。そこは『最後に1本吸わせてくれないか。』と言うところですよ。隙をつくって差し上げますので、どうぞ遠慮なく切り掛かってきて下さい。」
「うちは煙草を吸わないし、切り掛かかるようなことはしぃへんで。」

何ですか、この訳の分からない会話は。
話しが噛み合わないというか、真里伊は一体何がしたいのだろう。
そんな事を考えても仕方がないと思いますし、そろそろみじん斬りにして差し上げましょう。
神剣に手を伸ばそうとすると、再び真里伊が叫んできた。

「そやから待つんや。うちの話しを聞いてくれ!」

真里伊の顔がフードから現れている。
目は見開いており、大きく口が開いていた。
機械人形なのに、何ら普通の女の子と変わらない顔をしている。
かなり精巧に造られているようだ。

「うちは安杏里の千年戦争に協力しよう。うちは役にたつぞ!」
「9種族の真里伊が私に協力とは…、それは同盟を結びたいとの申し入れですか?」

「その通りや。うちとの同盟や。考えてくれ!」

千年戦争において、各種族は弱点を補うために同盟を結び千年戦争に勝ち抜こうとしている。
昨日ASより同盟の話しがあってから私の弱点について考えてみたところ、ミランダより教わった先人が残した兵法三十六計の事を思いだしていた。
MAXで可愛い容姿とは異なり、戦術については欠けているものがある私と、9種族は対極の能力を有している。
つまり、19種族と9種族は互いを補う点が多いという事になる。
真里伊との戦闘には興味を示すことなく部屋の隅でゴソゴソとしていたアルマジロに意見を聞くべく、再び拾いあげると嫌そうな顔をされてしまった。
ここでミランダが何故嫌な顔をしたのかはスルーでいいだろう。

『聞いていたとおり真里伊から同盟の申し入れがありました。受けるべきかミランダの意見を聞かせてもらえないでしょうか?』
『同盟か。そうだな。別に受けてもいいんじゃないか。』

適当に返事をしているように見えるが、でもまぁ、ミランダは9種族との同盟には前向きであると捉えておきましょう。
同盟には、メリットもあるが同じようにデメリットもある。
ミランダはそのあたりをどう考えているのだろう。

『強固な同盟を結ぶには強い信頼関係が必要ですが、ミランダの視点から見て、真里伊は信頼が出来る者であると思いますか?』
『強い信頼とは、互いを支え合う行為を積み重ねる事により生まれてくるものだ。初めから強固な信頼関係などあるはずがないだろう。』

信頼関係が無い同盟か。
集団戦において最も恐ろしい状況とは、仲間と疑心暗鬼に陥る事であり、それは情報戦によるものである。
その疑心暗鬼に陥る事態を避けるため、単独で戦う方がより良いものと思考していたのだが…。
やはり、信頼関係の成立しない同盟は危険だなと結論をだそうとしていた時、真里伊が私を裏切らない事を訴えてきた。

「うちは強い者に弱い。つまり、うちが安杏里を裏切る事は無いっちゅう事や!」

なるほど。
強いものには弱いのか。
その言葉は、至極真っ当で納得できるものだ。
ミランダからの教えでは、千年戦争において最大の敵は浮遊都市アトランタを支配している第4種族と聞いている。
その真里伊の理屈だと、決勝ラウンドが行われる浮遊都市アトランタに昇るまでは、無敵である私を真里伊は裏切らないということか。
それで真里伊と同盟を結んだとして、今後の展開はどうなっていくのかしら。

『ミランダに質問です。真里伊と同盟を締結した場合に生じる具体的な利点について、教えてもらえないでしょうか?』
『いずれ安杏里の無双の強さは皆に知られる事になるだろう。そうなると決勝ラウンドまで安杏里は皆から避けられてしまうかもしれないな。』

『なるほど。私の無双の可愛さを知られると私は避けられるちゃうかももしれないって事ですね。これは斜め85度を突かれてしまいましたよ。』
『無双の可愛いさではなくて、無双の強さな。それから斜め85度は、ほぼ90度だ。つまり私が言いたいのは、探索系スキルを持たない安杏里は単独で行動していても、すぐに行き詰まってしまう可能性があるという事だ。』

つまり決勝ラウンドに進むまでは私を裏切る可能性が低いと思われる真里伊の助けが必要であると言う事かしら。
いまだ両手をあげて私の様子を見守っている真里伊へ近づき、両手を伸ばした。

「同盟の件、承知しました。浮遊都市アトランタへ昇るまでの期間までとなりますが、私は真里伊に協力をさせて頂くことにしましょう。」
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