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後日譚

後日譚203.道楽貴族は憂いがなくなった

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 農業が盛んな国ファルニルの辺境伯ギュスタン・ド・ルモニエは、『魔の山』の近くに領地を授かった領地貴族だ。だが、彼の体型からも分かる通り、軍事に関する事は門外漢だった。
 また、最低限必要な教養は習っていたが、長い間社交界などに参加してこなかった事から社交スキルも壊滅的だった。
 それに加えて内政に関しては早い内から次男に家督を譲る事を決めていたので教育を受けていなかった。
 そんな彼が一代限りとはいえ辺境伯になる事になった原因は、彼が後天的に授かった加護『生育』だった。
 その加護は世界樹を育てる唯一の方法と言われており、その力を手に入れるだけで世界樹を擁するエルフの国々に対して大きな交渉材料となり得るものだった。また、一定の魔力を消費するとはいえ、植物の成長を早める事ができるだけではなく、見た事も聞いた事もない植物だったとしてもある程度の育て方を理解する事ができたので、世界樹の事が無くてもファルニルでは重宝される加護だった。
 だが、いくら強力な加護を授かろうと、戦闘系の加護ではない。軍事など先頭に関する事はからっきしなのには変わらない。また、社交スキルもすぐに身に着くわけもなく、内政に関しても農業に関してのみ任せてもらえる程度だった。
 そんな状況ではとてもではないが魔物たちの領域である『魔の山』の麓の領地を治める事はできない。という事で、彼は妻を娶った。生真面目な性格で内政を任されているサブリナと、他の二人と比べると幼いが社交的で外交関係を一手に担っているルシール、二メートルほどある大柄な体躯の持ち主で軍事関係を任されているエーファの三人だ。
 三人の女性は互いが互いを認め、自分の専門外の事は任せて自分がすべき事に専念していた。
 だが、貴族の家に嫁入りした女性には何よりも大事な仕事があった。当主の子を身籠る事である。
 ギュスタンは貴族の常識で考えると醜悪と言われても仕方がない体型をしていたのだが、三人はそんな彼を見ても特に気にせずに結婚を決めた三人である。夜の営みも当然毎晩のように行われた。
 それでも三人がほぼ同時に妊娠したのは何かしらの干渉があったのではないかと思わなくもなかったが、ギュスタンはとりあえず感謝をファマ神に捧げ、出産を司る大地の神の教会にも足繁く通うのだった。
 また、少しでも良い出産の環境を作ろうと奔走もした。社交界にも出るためにダイエットを始めたし、妻の実家を頼る事もしたのだが、なによりも頼りになったのはやはり先代の『生育』の加護持ちであるシズトだった。

「同時に妊娠すると大変だよね~。聖女とエリクサーは必要な分だけ用意できるから安心してね」
「助かるけど、あんまり準備されてもお金が用意できないよ」
「そこら辺は心配しなくていいよ~。もしかしたら『生育』の加護を授かっている子がいるかもしれない、ってジュリウスに言ったら費用はエルフの国で折半して負担するって事になったから」
「いや、流石にそれは申し訳ないよ」
「あんまり気にしなくてもいいんじゃない? エルフの国々もギュスタンさんへの影響力をちょっとでも増やしておきたいんじゃないかな?」
「ん~~~……あんまり借りは作らない方が良いってルシールに言われてるんだけど…………」
「命と比べたら借りの一つや二つ、気にする事ないと思うけどなぁ」
「僕もそう思うけど……そうだね。使えるものは使った方が良いよね」

 世界樹の世話をするために訪れたファマリーの根元で、黒髪の男性シズトと話をしていたギュスタンは、考えた末に申し出を受け入れる事にした。
 実質的なトップが目の前のシズトである以上、理不尽な要求をされたら彼に相談すれば何とかなるんじゃないか、という打算もあったが、三人同時に出産になる可能性もあるとシズトに言われた事も影響していた。優れた産婆と聖女はいればいるほどいい、というのがシズトの経験則であり、ギュスタンも共感した事だった。

「とりあえず出産当日に関しては心配事はなくなったと思うんだけど…………ギュスタンさんってお嫁さんたちに色々任せてるんだよね?」
「そうだね。貴族家当主としては情けない事だけど、シズトくんを見習ってその方が効率的だと思ってね」
「役割分担できるならそれでいいと思うよ。ただ、任せているお嫁さんたちの出産時期が近づいて来るとできる事が限られるからギュスタンさんもできるようになった方が良いかもしれない。第一子だけで終わりってわけでもなさそうでしょ?」
「まあね。ただ、その点に関しては既にサブリナたちが対応しているから大丈夫だよ。サブリナたちが動けない間、代わりに対応してくれる人物は既に手配済みみたいだし、出産後は子どもを任せる事ができるように乳母の手配も既に済んでるみたいだし」
「子育ては全部乳母に任せるの?」
「そうだけど……ああ、シズトくんの所はできる範囲でシズトくんと奥さんたちでやってるんだったっけ? でも、今後の事を考えるとそれも限界があるんじゃない?」
「…………まあ、そうだけどできる範囲で参加したいし」
「できる人に任せるのも貴族家当主として大事な考え方だよ」
「はい」

 音無家とルモニエ家の決定的な違いを挙げるとしたら屋敷に他人を入れる事に抵抗があるかないかだろう。
 シズトは抵抗があったため屋敷で働く侍女は限りなく少なく、警備や政務などを任せられる人材もシズトが身内と判断している者に限られている。
 だが、ギュスタンは根っからの貴族令息なので屋敷に家族以外がいるのは当然の事だった。だから妻の代わりとなる人材が屋敷を出入りしていても気にも留めない。
 そのため、シズトとは異なり事前に分かっている穴を埋める事は容易だったようだ。

「また何かあったら相談させてもらうよ」

 そう言ってギュスタンは真っ白な服に数人のドライアドを引っ付けながら転移陣を使って自分の家へと帰るのだった。
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