993 / 1,023
後日譚
後日譚181.事なかれ主義者は目を逸らした
しおりを挟む
あっという間に一週間が過ぎて言ったけれど、見回りをしている限りでは大きなトラブルは起きていなかった。たくさんやってくる来訪者たち用に住処を一時的に明け渡してくれた町の子たちのおかげだ。
自分たちの部屋に見知らぬ人が泊まるから心配だろうけど、泊まった後は元通りにするようにお願いしておいたのできっと大丈夫だろう。……大丈夫じゃなかったらその時考えよう。
前回の生誕祭と同じく、真っ白な布地に金色の糸で裾から胸元よりも上まで蔦のような刺繍がされているエルフたちの正装を着て、でっかい神輿のような物に乗っている。
前回と違うのは神輿がパワーアップしている事だろうか?
別館でひたすら『回転』の魔道具を試行錯誤しながら改良していたジューロちゃのおかげか、そこそこのスピードで進む事ができるようになっていた。ただ、パレードなのでそんなに速く移動しないみたいだけど。
「これも慣れるものなのかなぁ」
一人ぼっちで神輿に乗り、愛想よく町の子たちに向けて手を振る。
去年はぎこちなかっただろうけど、パールさんに姿勢やら表情やらをご指導いただいたので、ある程度気持ちに余裕をもって行う事ができた。
前回と同じく、普段魔動トロッコが走っている所をぐるりと一周した後は、円形闘技場へと神輿が進む。
神輿のすぐ近くにはこの魔道具の制作者であるジューロちゃんがいた。万が一の時に備えている、というのは建前で、彼女が作っているという事をアピールしてもいいんじゃないか、という意見があったから護衛に混じって同行してもらっている。
アンジェラと違って彼女は既にもう成長期が終わってしまっているけれど、子どものエルフと見間違えるくらいには背が低い。ジューンさんとはだいぶ違うけど、平均から逸脱しているという点に関しては同じだ。
ただ、ジューンさんとは違って差別を受けていたのはほんの十数年くらいだそうだ。それまではちょっと成長が遅いな、くらいにしか思われていなかったし、本人も思っていなかったそうだ。
僕の視線に気づいたのか、僕を見上げた彼女は遠慮がちに手を振ったので手を振り返した。
神輿のような物から降りたら当たり前のように肩の上に陣取ったレモンちゃんを乗っけたまま円形闘技場に入った。
案内されたのは一番見晴らしのいい席だ。舞台だけではなく、観客席も一望できるけれど正直遠くて見辛い。加護を失う前に作っておいた『魔動カメラ』と『魔動投影機』のおかげでスクリーンに写されている部分はよく見えるけど……うん。どうせ見るなら近い方が良かったかも。
なんて事を考えていると、僕の隣の席に煌びやかなドレスを着た女性が座った。金色に輝くツインドリルと、規格外の大きさに育った胸が目立つその女性の名はレヴィア・フォン・ドラゴニア。僕の正妻である彼女が今日は隣に座るようだ。
「楽しみなのですわ~」
「れもれも~」
言動は普段と変わらないのでちょっと安心する。
今日行われるのは死人さえ出さなければ何でもありの国際大会だ。各国からそれぞれエントリーを募ったけれど、優勝賞品が世界樹関係の物だったからか応募が殺到した。
予選を各大陸でしてもらったので今ここにいるのは十六人だけだ。
「あ、陽太もいる」
「加護で鍛えまくったみたいですわ~」
魔動カメラを搭載したドローンゴーレムが今回出場する人たちを順番に撮っていく中で、顔見知りについ反応してしまった。
『シグニール大陸の最後の出場者は、シグニール大陸の今代の勇者ヨータ! 予選では多くの精霊魔法使いを倒して回ったのは記憶に新しい期待の新人だ! えー、ヨータ選手からのメッセージは、好条件だったら雇われてもいいぞ、だそうです。大会でしっかりと記録を残したいところだ』
選手紹介をしているのは『お喋りタンク』という異名を持つボビーさんだ。
以前、ラオさんたちと冒険者をしていたらしいけど、今は他のパーティーに混ぜて貰ったり、ソロで活動したりしているらしい。
「シズト、ヨータがこっちを見ているのですわ」
「目を合わせちゃだめだよ。雇えってうるさいから」
それよりも開会の挨拶の言葉をこっちに回す、とボビーさんが言っていたからなにを言うべきか考えないとな。
なんて事を考えているとドローンゴーレムが別の大陸の人たちを映した。
シグニール大陸もそうだったけど、他の大陸も個人で出場しているであろう人はほとんどいなくて、王侯貴族の関係者が多かった。何かしら不正のにおいがしてきそうだけれど、世界樹の番人たちが目を光らせていたのでそういうのはないらしい。
ただ、神様たちから授かる『加護』は加護がない人と比べると最初のスタート地点が違うとの事でやっぱりこういう大会形式にすると加護持ちが多くなるそうだ。
そして、その加護は貴族関係者にい授けられるか、加護持ちが貴族に囲われるかのどちらかが多いからこうなるのは当然との事だった。
「……それよりレヴィさん、見覚えがある人がいるんだけど声を掛けなくて大丈夫?」
「もう赤の他人だから私から声をかける必要はないのですわ」
「めっちゃ見てるけど?」
「れもー」
「他の人の紹介だからそっちを見るべきですわー」
まあ、それもそうか。選手からの一言も当たり障りのない事だったし、あんまり気にしすぎても駄目だよね。
そんな事を思いながら黒髪の人物から視線を逸らすのだった。
自分たちの部屋に見知らぬ人が泊まるから心配だろうけど、泊まった後は元通りにするようにお願いしておいたのできっと大丈夫だろう。……大丈夫じゃなかったらその時考えよう。
前回の生誕祭と同じく、真っ白な布地に金色の糸で裾から胸元よりも上まで蔦のような刺繍がされているエルフたちの正装を着て、でっかい神輿のような物に乗っている。
前回と違うのは神輿がパワーアップしている事だろうか?
別館でひたすら『回転』の魔道具を試行錯誤しながら改良していたジューロちゃのおかげか、そこそこのスピードで進む事ができるようになっていた。ただ、パレードなのでそんなに速く移動しないみたいだけど。
「これも慣れるものなのかなぁ」
一人ぼっちで神輿に乗り、愛想よく町の子たちに向けて手を振る。
去年はぎこちなかっただろうけど、パールさんに姿勢やら表情やらをご指導いただいたので、ある程度気持ちに余裕をもって行う事ができた。
前回と同じく、普段魔動トロッコが走っている所をぐるりと一周した後は、円形闘技場へと神輿が進む。
神輿のすぐ近くにはこの魔道具の制作者であるジューロちゃんがいた。万が一の時に備えている、というのは建前で、彼女が作っているという事をアピールしてもいいんじゃないか、という意見があったから護衛に混じって同行してもらっている。
アンジェラと違って彼女は既にもう成長期が終わってしまっているけれど、子どものエルフと見間違えるくらいには背が低い。ジューンさんとはだいぶ違うけど、平均から逸脱しているという点に関しては同じだ。
ただ、ジューンさんとは違って差別を受けていたのはほんの十数年くらいだそうだ。それまではちょっと成長が遅いな、くらいにしか思われていなかったし、本人も思っていなかったそうだ。
僕の視線に気づいたのか、僕を見上げた彼女は遠慮がちに手を振ったので手を振り返した。
神輿のような物から降りたら当たり前のように肩の上に陣取ったレモンちゃんを乗っけたまま円形闘技場に入った。
案内されたのは一番見晴らしのいい席だ。舞台だけではなく、観客席も一望できるけれど正直遠くて見辛い。加護を失う前に作っておいた『魔動カメラ』と『魔動投影機』のおかげでスクリーンに写されている部分はよく見えるけど……うん。どうせ見るなら近い方が良かったかも。
なんて事を考えていると、僕の隣の席に煌びやかなドレスを着た女性が座った。金色に輝くツインドリルと、規格外の大きさに育った胸が目立つその女性の名はレヴィア・フォン・ドラゴニア。僕の正妻である彼女が今日は隣に座るようだ。
「楽しみなのですわ~」
「れもれも~」
言動は普段と変わらないのでちょっと安心する。
今日行われるのは死人さえ出さなければ何でもありの国際大会だ。各国からそれぞれエントリーを募ったけれど、優勝賞品が世界樹関係の物だったからか応募が殺到した。
予選を各大陸でしてもらったので今ここにいるのは十六人だけだ。
「あ、陽太もいる」
「加護で鍛えまくったみたいですわ~」
魔動カメラを搭載したドローンゴーレムが今回出場する人たちを順番に撮っていく中で、顔見知りについ反応してしまった。
『シグニール大陸の最後の出場者は、シグニール大陸の今代の勇者ヨータ! 予選では多くの精霊魔法使いを倒して回ったのは記憶に新しい期待の新人だ! えー、ヨータ選手からのメッセージは、好条件だったら雇われてもいいぞ、だそうです。大会でしっかりと記録を残したいところだ』
選手紹介をしているのは『お喋りタンク』という異名を持つボビーさんだ。
以前、ラオさんたちと冒険者をしていたらしいけど、今は他のパーティーに混ぜて貰ったり、ソロで活動したりしているらしい。
「シズト、ヨータがこっちを見ているのですわ」
「目を合わせちゃだめだよ。雇えってうるさいから」
それよりも開会の挨拶の言葉をこっちに回す、とボビーさんが言っていたからなにを言うべきか考えないとな。
なんて事を考えているとドローンゴーレムが別の大陸の人たちを映した。
シグニール大陸もそうだったけど、他の大陸も個人で出場しているであろう人はほとんどいなくて、王侯貴族の関係者が多かった。何かしら不正のにおいがしてきそうだけれど、世界樹の番人たちが目を光らせていたのでそういうのはないらしい。
ただ、神様たちから授かる『加護』は加護がない人と比べると最初のスタート地点が違うとの事でやっぱりこういう大会形式にすると加護持ちが多くなるそうだ。
そして、その加護は貴族関係者にい授けられるか、加護持ちが貴族に囲われるかのどちらかが多いからこうなるのは当然との事だった。
「……それよりレヴィさん、見覚えがある人がいるんだけど声を掛けなくて大丈夫?」
「もう赤の他人だから私から声をかける必要はないのですわ」
「めっちゃ見てるけど?」
「れもー」
「他の人の紹介だからそっちを見るべきですわー」
まあ、それもそうか。選手からの一言も当たり障りのない事だったし、あんまり気にしすぎても駄目だよね。
そんな事を思いながら黒髪の人物から視線を逸らすのだった。
23
お気に入りに追加
417
あなたにおすすめの小説
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
異世界のんびりワークライフ ~生産チートを貰ったので好き勝手生きることにします~
樋川カイト
ファンタジー
友人の借金を押し付けられて馬車馬のように働いていた青年、三上彰。
無理がたたって過労死してしまった彼は、神を自称する男から自分の不幸の理由を知らされる。
そのお詫びにとチートスキルとともに異世界へと転生させられた彰は、そこで出会った人々と交流しながら日々を過ごすこととなる。
そんな彼に訪れるのは平和な未来か、はたまた更なる困難か。
色々と吹っ切れてしまった彼にとってその全てはただ人生の彩りになる、のかも知れない……。
※この作品はカクヨム様でも掲載しています。
異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる