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後日譚
後日譚173.事なかれ主義者は美味しい?
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オクタビアさんは僕の婚約者だ。婚約者だけど、彼女の後ろ盾ですよ、という事を証明するためになっただけの関係だ。それは彼女も分かっているはずなんだけど…………。
「オクタビアさん、オクタビアさん」
「はい、なんでしょうか」
「これはちょっと近すぎないですか?」
「そうでしょうか? 恋人同士はこの様にして街を歩くと本で読んだのですが……」
「どんな本なんですかそれ……」
とある小国家群の内の一国を訪れた僕たちは、馬車を下りて街の通りを歩いていた。
しかも、オクタビアさんが僕の腕を抱きしめるかのようにしてくっつきながら、だ。
確かにこれなら親密さも見せる事ができて、僕に対する縁談は来ないけれど、二の腕に感じる柔らかな感触と温かさは僕の羞恥心を刺激する。
慣れてるレヴィさんたちならこの程度何とも感じないかもしれないのに……なんて事を考えながら、右に視線を向けると、オクタビアさんの頭が見えた。紺色の髪の毛はしっかりと手入れされているからか、艶やかでいい香りが漂ってくる。
小柄な女の子だ。僕の世界の価値観で言うと、まだ彼女は成人しておらず、守られるべき子どもである。そんな子に欲情するのは大人として良くない、と言い聞かせて、心を無にして歩く。
……ただ、こっちの世界の人たちはその多くが早熟で、十五歳にもなると体は立派な大人だ。女性らしい体つきになるし、目鼻立ちも大人っぽく感じる。変な気が湧いて来てもおかしくない。レモンちゃんには常に一緒にいてもらって二人っきりにならないように見張ってもらわなければ……。
なんて事を考えていると噴水の広場に着いた。ベンチがいくつか置かれているけれど、街の人たちの姿はない。どこにいるか分からないけど、僕の身辺警護をしているジュリウスが先回りをして人払いをしてくれているからだろう。
「ここでお弁当を食べましょう」
「分かった」
やる事はやったんだし、さっさと戻ってエミリーが作ってくれたご飯を食べた方が楽なんじゃないかな? とは思ったけれど、口を噤んだ。
オクタビアさんはベンチに座ると僕を見上げて、隣をポンポンと叩いた。どうやらそこに座れ、という事らしい。
「レモンちゃん、降りてもらっていい?」
「れもも?」
「隣に座ればいいでしょ」
「…………れも!」
するすると下りて行ったレモンちゃんは、僕が腰かけると膝の上にちょこんと座った。隣って言ったんだけどなぁ……。
「それでは、お弁当を食べましょう」
オクタビアさんがいそいそとアイテムバッグから取り出したのはそこそこ大きなバスケットだった。中にはサンドイッチがたくさん詰まっていた。色々な具を挟んでいるようで、「これは取れたてのレタスとキュウリなどの野菜をたくさん挟んだもので、こちらはハムも入れて――」と一生懸命説明してくれている。
どうやらオクタビアさんが作った物のようだ。アイテムバッグの中は時間停止機能はないけれど、揺れとかで形が崩れるのを防ぐために入れていたのかな?
一通り説明をし終えたオクタビアさんは一仕事やり終えた感じで「どれにしますか?」と聞いてきた。
「とりあえずハムサンドで。レモンちゃんも食べる?」
「レモン!」
手を伸ばしているので食べるのだろう。レモンちゃんには野菜たっぷりなサンドイッチでも食べてもらおう。
「飲み物の準備もばっちりです」
「流石にベンチでティーカップを使うのはちょっと……」
「…………そうですね。テーブルもありませんもんね」
プロス様から授かった『加工』の加護があった頃は気軽にテーブルを作っていたけど、今はもうそれもできない。今度からは水筒も持ってこようか、なんて事を話しながらのんびりとサンドイッチを食べた。
「……ちょっと食べ過ぎたかも。休憩して良い?」
「はい。大丈夫です。…………作りすぎてしまって申し訳ありません」
「いやいや、それは気にしなくてもいいよ。色々なモノ食べる事できて楽しかったし。個人的にはやっぱお肉が入っている物が好きだったかなぁ」
「ハムですか? カツですか?」
「んー……出来立てだったらカツだったかもしれないけど、やっぱりハムかな。なんのハムか知らないけど……」
「オークの上位種か、コカトリスあたりじゃないですかね」
「うん、知らなくても良かったかな」
魔物のお肉は美味しい、とは思っていてもオークを想像すると食欲がなくなるかもしれない。……いや、この世界に染まってきているのかそれほどでもないな?
バスケットをしまって、ティーカップに魔道具で紅茶を淹れてもらい、のんびりと紅茶を飲んだ。せっかく用意してもらったからね。
「シズト様は魔物の肉に忌避感がおありなんですか?」
「いやぁ、どうだろう? 実際に捌いている所を見るのは絶対無理だけど、何も言われずに出されたら普通に食べるし、物によっては何のお肉か言われた方が食欲湧くかも? ほら、ドラゴンとか」
「ドラゴンの肉は美味しいですからね」
「オクタビアさんも食べたことあるんだ?」
「はい。ドラゴンの中ではランクが低い物の肉だったようですけど、それでも美味しかったのは覚えています」
「魔力かなんかが影響しているんだよね、確か」
……魔力が豊富な肉だったら美味しいんだったら、僕の肉も美味しいのか? なんて事をふと思ったけれど、食べられたいとは思わないので考えるのを止めた。
「オクタビアさん、オクタビアさん」
「はい、なんでしょうか」
「これはちょっと近すぎないですか?」
「そうでしょうか? 恋人同士はこの様にして街を歩くと本で読んだのですが……」
「どんな本なんですかそれ……」
とある小国家群の内の一国を訪れた僕たちは、馬車を下りて街の通りを歩いていた。
しかも、オクタビアさんが僕の腕を抱きしめるかのようにしてくっつきながら、だ。
確かにこれなら親密さも見せる事ができて、僕に対する縁談は来ないけれど、二の腕に感じる柔らかな感触と温かさは僕の羞恥心を刺激する。
慣れてるレヴィさんたちならこの程度何とも感じないかもしれないのに……なんて事を考えながら、右に視線を向けると、オクタビアさんの頭が見えた。紺色の髪の毛はしっかりと手入れされているからか、艶やかでいい香りが漂ってくる。
小柄な女の子だ。僕の世界の価値観で言うと、まだ彼女は成人しておらず、守られるべき子どもである。そんな子に欲情するのは大人として良くない、と言い聞かせて、心を無にして歩く。
……ただ、こっちの世界の人たちはその多くが早熟で、十五歳にもなると体は立派な大人だ。女性らしい体つきになるし、目鼻立ちも大人っぽく感じる。変な気が湧いて来てもおかしくない。レモンちゃんには常に一緒にいてもらって二人っきりにならないように見張ってもらわなければ……。
なんて事を考えていると噴水の広場に着いた。ベンチがいくつか置かれているけれど、街の人たちの姿はない。どこにいるか分からないけど、僕の身辺警護をしているジュリウスが先回りをして人払いをしてくれているからだろう。
「ここでお弁当を食べましょう」
「分かった」
やる事はやったんだし、さっさと戻ってエミリーが作ってくれたご飯を食べた方が楽なんじゃないかな? とは思ったけれど、口を噤んだ。
オクタビアさんはベンチに座ると僕を見上げて、隣をポンポンと叩いた。どうやらそこに座れ、という事らしい。
「レモンちゃん、降りてもらっていい?」
「れもも?」
「隣に座ればいいでしょ」
「…………れも!」
するすると下りて行ったレモンちゃんは、僕が腰かけると膝の上にちょこんと座った。隣って言ったんだけどなぁ……。
「それでは、お弁当を食べましょう」
オクタビアさんがいそいそとアイテムバッグから取り出したのはそこそこ大きなバスケットだった。中にはサンドイッチがたくさん詰まっていた。色々な具を挟んでいるようで、「これは取れたてのレタスとキュウリなどの野菜をたくさん挟んだもので、こちらはハムも入れて――」と一生懸命説明してくれている。
どうやらオクタビアさんが作った物のようだ。アイテムバッグの中は時間停止機能はないけれど、揺れとかで形が崩れるのを防ぐために入れていたのかな?
一通り説明をし終えたオクタビアさんは一仕事やり終えた感じで「どれにしますか?」と聞いてきた。
「とりあえずハムサンドで。レモンちゃんも食べる?」
「レモン!」
手を伸ばしているので食べるのだろう。レモンちゃんには野菜たっぷりなサンドイッチでも食べてもらおう。
「飲み物の準備もばっちりです」
「流石にベンチでティーカップを使うのはちょっと……」
「…………そうですね。テーブルもありませんもんね」
プロス様から授かった『加工』の加護があった頃は気軽にテーブルを作っていたけど、今はもうそれもできない。今度からは水筒も持ってこようか、なんて事を話しながらのんびりとサンドイッチを食べた。
「……ちょっと食べ過ぎたかも。休憩して良い?」
「はい。大丈夫です。…………作りすぎてしまって申し訳ありません」
「いやいや、それは気にしなくてもいいよ。色々なモノ食べる事できて楽しかったし。個人的にはやっぱお肉が入っている物が好きだったかなぁ」
「ハムですか? カツですか?」
「んー……出来立てだったらカツだったかもしれないけど、やっぱりハムかな。なんのハムか知らないけど……」
「オークの上位種か、コカトリスあたりじゃないですかね」
「うん、知らなくても良かったかな」
魔物のお肉は美味しい、とは思っていてもオークを想像すると食欲がなくなるかもしれない。……いや、この世界に染まってきているのかそれほどでもないな?
バスケットをしまって、ティーカップに魔道具で紅茶を淹れてもらい、のんびりと紅茶を飲んだ。せっかく用意してもらったからね。
「シズト様は魔物の肉に忌避感がおありなんですか?」
「いやぁ、どうだろう? 実際に捌いている所を見るのは絶対無理だけど、何も言われずに出されたら普通に食べるし、物によっては何のお肉か言われた方が食欲湧くかも? ほら、ドラゴンとか」
「ドラゴンの肉は美味しいですからね」
「オクタビアさんも食べたことあるんだ?」
「はい。ドラゴンの中ではランクが低い物の肉だったようですけど、それでも美味しかったのは覚えています」
「魔力かなんかが影響しているんだよね、確か」
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