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後日譚
後日譚171.生真面目な辺境伯夫人も土いじりをした
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サブリナの家名がブロディからルモニエに変わって一週間ほどが過ぎた。
この一週間で変わった事はそれほど多くはない。社交界などは他の婚約者に丸投げしているのでサブリナはただただ内政に専念するだけでよかった。
屋敷の手入れなどは侍女頭が取り仕切ってくれているので自分は報告を聞くだけでいい。
異世界転移者は自分が住む屋敷には家族以外なかなか入れないと聞くので、こっちに嫁ぐ事になってよかったかもしれない、なんて事を思いながら朝日が昇る少し前の時間帯に食事を済ませて外に出た。
ルモニエ家のほとんどの者は朝がとても早い。
当主であるギュスタンは、朝早くから敷地内の一画にある畑を耕している。
彼の近くには小柄な人影が複数いて、一緒に農作業をしていたのだが、そのほとんどが部外者であるドライアドだ。褐色肌の子が多めなのは、どうやらギュスタンに初めて張り付いたのが褐色肌の子だった事が影響しているらしいが、サブリナとしてはどうでもよかった。
それよりも大事な事は、ドライアドたちがルモニエ領で農作業の手伝いをしてくれている事だった。
世界樹を擁するエルフたちは世界樹の素材だけではなく、霊薬の素材となる貴重な薬草なども交易品としてきた。その背景にはドライアドの存在も関係しているのではないか、とサブリナは考えていた。
だからこそ、サブリナはドライアドが転移陣を通じてこちらに来る事に対してとやかく言う事はなかったし、敷地内を闊歩していようと、屋敷の中に何かよく分からない植木鉢を置かれようと我慢してきた。
だが、いざ薬草を育てるようにお願いした時、ドライアドたちの回答は「やだ」だった。
どうやら自分の好きな物を植えたいらしい。
出来れば貴重な薬草を育てて欲しいのだが……彼女たちが育てる植物を見て彼女はすぐに考えを改めてドライアドたちと友好な関係を築こうと努力する事にしたようだ。
「おはようございます。今日も朝から精が出ますね」
「人間さんおはよー」
「おはよ~」
「今日も私もお手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「いいんじゃなーい?」
「いいのかなー」
「人間さんが良いって言ってたよ?」
「じゃあいいのかー」
自分たちのテリトリーではないのだが、畑に入ってきたサブリナを包囲していた褐色肌の子たちがばらばらな方向へと離れて行った。初日は畑に入る前に威嚇された事を思えば、着実に関係を構築出来ているはずだ。たぶん。
自信は持てないサブリナだったが、ギュスタンに一声かけて彼女もまた雑草を抜く作業を手伝う事にした。土いじりができるようにわざわざ着替えも済ませてある。まさか学生時代に実戦用に使っていた服を引っ張り出す事には思っていなかったが。
得意の土系統の魔法を使ってゴーレムに作業をさせても良かったが、こういう細かい作業は自分の手でやった方が早いし、ゴーレムが植物を踏みつけてしまったら大変なのでワンドは懐にしまったままだ。
黙々と雑草っぽいのを抜き始めたサブリナを心配そうな目で見ているのは彼女の夫であるギュスタンだ。
「他の事は大丈夫? こっちは人手が足りてるし、わざわざ手伝わなくてもいいんだよ?」
「大丈夫です。それに、一緒に作業をした方が仲良くなれるのでしょう?」
「確証はないけど……レヴィア様がドライアドたちと仲が良いのはそれが理由じゃないかと思ってね」
「であれば、この時間も無駄ではないでしょう。仮にドライアドたちに望みの植物を育ててもらえずともこうして夫婦で一緒に作業をする事は何かしらいい影響があると思います」
「……確かに、サブリナの言う通りだな」
話に加わったのは元々ギュスタンと一緒に作業をしていたエーファという女性だ。彼女もまたギュスタンとの結婚を認められ、家名がルモニエに変わっていた。
「こうして共同作業をする事で新たな発見があるのは否定できない事実だ。例えばギュスタン様が思いのほか動ける事とか、な」
「このくらいの広さの畑は昔から手入れしてきたからね。まあ、その時も街の子たちに手伝ってもらってはいたけれど」
「領都でもお屋敷を解放されるんですか?」
「いや、流石に屋敷内は警備の面でエーファに断られちゃったからね」
「当たり前だ」
「それに、この子たちが手伝ってくれるからむしろ人手が余るというか、僕もやらなくても別に問題ないというか……」
「呼んだ?」
「な~に~?」
ギュスタンがドライアドの一人に視線を向けると、周りにいたドライアドたちも反応してギュスタンの所にわらわらと集まってくる。
「呼んでないよ。いつもありがとね」
「いいよ~」
「リコちゃんのお世話してくれるからお互い様だよー」
「「リコちゃん?」」
「世界樹トネリコの事だよ。まあ、そういう訳だから屋敷内の畑の手伝いはしてもらう予定はないかな。街の方に農場を作る予定だから、仲良くなった子たちに手伝ってもらおうかなとは思っているけど……以前と比べるとなかなか街に出向くのも気軽にできなくなってきたから難しいかもしれないね」
「辺境伯が護衛をつけずにふらふら歩けるわけないだろ?」
「でも護衛がいると街の子たちがビックリしちゃうんだよ。どうにかならないかなぁ」
「ならん」
しょんぼりとうなだれながらプチプチと雑草を抜くギュスタンを、やっぱり変わった人だな、なんて事を思いながら見るサブリナだった。
この一週間で変わった事はそれほど多くはない。社交界などは他の婚約者に丸投げしているのでサブリナはただただ内政に専念するだけでよかった。
屋敷の手入れなどは侍女頭が取り仕切ってくれているので自分は報告を聞くだけでいい。
異世界転移者は自分が住む屋敷には家族以外なかなか入れないと聞くので、こっちに嫁ぐ事になってよかったかもしれない、なんて事を思いながら朝日が昇る少し前の時間帯に食事を済ませて外に出た。
ルモニエ家のほとんどの者は朝がとても早い。
当主であるギュスタンは、朝早くから敷地内の一画にある畑を耕している。
彼の近くには小柄な人影が複数いて、一緒に農作業をしていたのだが、そのほとんどが部外者であるドライアドだ。褐色肌の子が多めなのは、どうやらギュスタンに初めて張り付いたのが褐色肌の子だった事が影響しているらしいが、サブリナとしてはどうでもよかった。
それよりも大事な事は、ドライアドたちがルモニエ領で農作業の手伝いをしてくれている事だった。
世界樹を擁するエルフたちは世界樹の素材だけではなく、霊薬の素材となる貴重な薬草なども交易品としてきた。その背景にはドライアドの存在も関係しているのではないか、とサブリナは考えていた。
だからこそ、サブリナはドライアドが転移陣を通じてこちらに来る事に対してとやかく言う事はなかったし、敷地内を闊歩していようと、屋敷の中に何かよく分からない植木鉢を置かれようと我慢してきた。
だが、いざ薬草を育てるようにお願いした時、ドライアドたちの回答は「やだ」だった。
どうやら自分の好きな物を植えたいらしい。
出来れば貴重な薬草を育てて欲しいのだが……彼女たちが育てる植物を見て彼女はすぐに考えを改めてドライアドたちと友好な関係を築こうと努力する事にしたようだ。
「おはようございます。今日も朝から精が出ますね」
「人間さんおはよー」
「おはよ~」
「今日も私もお手伝いさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「いいんじゃなーい?」
「いいのかなー」
「人間さんが良いって言ってたよ?」
「じゃあいいのかー」
自分たちのテリトリーではないのだが、畑に入ってきたサブリナを包囲していた褐色肌の子たちがばらばらな方向へと離れて行った。初日は畑に入る前に威嚇された事を思えば、着実に関係を構築出来ているはずだ。たぶん。
自信は持てないサブリナだったが、ギュスタンに一声かけて彼女もまた雑草を抜く作業を手伝う事にした。土いじりができるようにわざわざ着替えも済ませてある。まさか学生時代に実戦用に使っていた服を引っ張り出す事には思っていなかったが。
得意の土系統の魔法を使ってゴーレムに作業をさせても良かったが、こういう細かい作業は自分の手でやった方が早いし、ゴーレムが植物を踏みつけてしまったら大変なのでワンドは懐にしまったままだ。
黙々と雑草っぽいのを抜き始めたサブリナを心配そうな目で見ているのは彼女の夫であるギュスタンだ。
「他の事は大丈夫? こっちは人手が足りてるし、わざわざ手伝わなくてもいいんだよ?」
「大丈夫です。それに、一緒に作業をした方が仲良くなれるのでしょう?」
「確証はないけど……レヴィア様がドライアドたちと仲が良いのはそれが理由じゃないかと思ってね」
「であれば、この時間も無駄ではないでしょう。仮にドライアドたちに望みの植物を育ててもらえずともこうして夫婦で一緒に作業をする事は何かしらいい影響があると思います」
「……確かに、サブリナの言う通りだな」
話に加わったのは元々ギュスタンと一緒に作業をしていたエーファという女性だ。彼女もまたギュスタンとの結婚を認められ、家名がルモニエに変わっていた。
「こうして共同作業をする事で新たな発見があるのは否定できない事実だ。例えばギュスタン様が思いのほか動ける事とか、な」
「このくらいの広さの畑は昔から手入れしてきたからね。まあ、その時も街の子たちに手伝ってもらってはいたけれど」
「領都でもお屋敷を解放されるんですか?」
「いや、流石に屋敷内は警備の面でエーファに断られちゃったからね」
「当たり前だ」
「それに、この子たちが手伝ってくれるからむしろ人手が余るというか、僕もやらなくても別に問題ないというか……」
「呼んだ?」
「な~に~?」
ギュスタンがドライアドの一人に視線を向けると、周りにいたドライアドたちも反応してギュスタンの所にわらわらと集まってくる。
「呼んでないよ。いつもありがとね」
「いいよ~」
「リコちゃんのお世話してくれるからお互い様だよー」
「「リコちゃん?」」
「世界樹トネリコの事だよ。まあ、そういう訳だから屋敷内の畑の手伝いはしてもらう予定はないかな。街の方に農場を作る予定だから、仲良くなった子たちに手伝ってもらおうかなとは思っているけど……以前と比べるとなかなか街に出向くのも気軽にできなくなってきたから難しいかもしれないね」
「辺境伯が護衛をつけずにふらふら歩けるわけないだろ?」
「でも護衛がいると街の子たちがビックリしちゃうんだよ。どうにかならないかなぁ」
「ならん」
しょんぼりとうなだれながらプチプチと雑草を抜くギュスタンを、やっぱり変わった人だな、なんて事を思いながら見るサブリナだった。
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