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後日譚
後日譚167.事なかれ主義者は慌てて追いかけた
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結婚後のパーティーはドライアドたちの入場によって一気に緊張感がなくなった。なくなったというより、ドライアドたちが破壊したという方が正しいのかもしれない。
ギュスタンさんは堅苦しいのに慣れていないからドライアドたちも参加したらそうなるんじゃないか? と予想してドライアドたちに話を通しておいたらしい。
「それならそうと事前に教えておいてくれても良かったんじゃない?」
「いやぁ、話すタイミングがなくってね」
パーティーが終わった翌日、ギュスタンさんに文句を言ったけれど彼は苦笑いを浮かべるだけだった。
そんな彼の体には褐色肌の子が張り付いている。どうやらギュスタンさんは褐色肌の子の縄張り認定されたようだ。
「屋敷に入れないように気を付けてね」
「なんでだい?」
「気が付いたら植木鉢が増えてるんだよ」
「あぁ~~~…………」
どうやら時既に遅し、という感じだったようだ。思い当たる節がある様子でギュスタンさんが眉を下げた。
そんなギュスタンさんは、今日もエルフの正装っぽい服を着ていた。
今回はその中でもカジュアルなタイプなので服もゆったりとした作りとなっている。
「そろそろ日が暮れるし、ドライアドたちはとりあえず置いていこ」
「そうだね。それじゃあ皆、降りてくれるかな?」
「…………」
「寝てるね。ジュリウス」
「ハッ」
側に控えていたジュリウスがひょひょいっと手早くギュスタンさんの体に引っ付いていたドライアドたちを剥がすと、そっと地面に置いた。その後、僕の体にも引っ付いていた子たちも下ろしていったんだけど、レモンちゃんだけ巻きついて離れなかったので諦めた。
相当眠いはずなのに……やはりクーがいるからだろうか?
「なに? お兄ちゃん」
「いや、なんでもないよ」
「何でもないんだったら頭撫でて!」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「はい」
ご機嫌斜めなクーの手を握っていた手を離して、青空のような色の髪の毛をわしゃわしゃと撫でる。彼女にもついて来てもらうのは、これから向かう先はジュリウスがついてくる事が許されない可能性が高いからだ。
ギュスタンさんを待っている間、レモンちゃんと縄張りバトルしていたけど、先に陣取っていたレモンちゃんが僕の首回りに髪の毛を巻き付けて絶対離れない意志を示したので、クーにはとりあえず『暇なときは頭を撫でる』という所で妥協してもらった。流石に肩車しながらおんぶや抱っこは無理だからね。
「さて、それじゃ行ってくるね」
「気を付けて行ってくるのですわ~」
「クーちゃん、シズトくんの事よろしくね?」
「別にルウルウに言われなくてお兄ちゃんだけは守るし? レモレモやタンタンの事は知らないけど~」
まあ、ギュスタンさんは向こうのドライアドが守ってくれるから大丈夫だろう。
そんな事を思いながらレヴィさんやルウさん、ラオさんに見送られつつ都市国家カラバへと転移した。
転移先は以前青バラちゃんが青バラを植えた場所だ。その周辺は都市国家カラバの方々は進入禁止区画にしていて、世界樹の番人やよく知っているドライアドたちが手分けして警備をしている。
ただ、ドライアドたちは夕暮れになると『精霊の道』を通ってファマリーに帰るから今はいない。その代わりに、目がぱっちりと開いている真っ黒なドライアドたちが森の中からこちらをジッと監視していた。森の中の暗闇に真っ黒な肌が同化しているけど、爛々と輝く金色の瞳と頭の上に咲いている花は隠せていない。
「ヨルガオちゃんはいる?」
割と大きな声で問いかけると、森の中から「いるよー」と返ってきた。
ガサガサと鬱蒼と茂っている植物をかき分けて外に出てきたのは、やはり見覚えのあるような気がする真っ白な花を頭の上に咲かせたドライアドだ。
ジュリウスを警戒しているようだけど、転移陣から出てきた『エルフは大丈夫』と伝えてあるのでいきなり攻撃はしないだろう。
ヨルガオちゃんは何かを感じた様でジュリウスから視線を外し、ギュスタンさんをじろっと見た。
「…………ほんとに人間さんがカラちゃんのお世話ができる神様の力を持ってるんだねー」
「あ、分かるんだ?」
「神様の力の気配はそれぞれ違うから分かるでしょ?」
「いや、人間は分かんないよ。魔道具を使えば別だけど」
「ふーん……。それじゃあカラちゃんのお世話お願いします」
ヨルガオちゃんは深々とギュスタンさんに頭を下げた。ギュスタンさんもそれをするつもりで来たから「任せてください」と答えた。答えた瞬間、わらわらと森の中から真っ黒な何か……じゃなくてドライアドたちが溢れた。
「カラちゃんの所まで連れてくぞー!」
「お~!」
「え、わっ、ちょっと!?」
ギュスタンさんは抵抗も虚しく、たくさんのドライアドたちの髪の毛に捕まると、「えっほ! えっほ!」と運ばれて行ってしまった。
「……って、ボーッとしてる場合じゃないじゃん!」
幸いな事に、『精霊の道』を使う様子もないし、速度もそこまで早くないから後を追いかけるのは可能だろう。
そう思って駆けだしたら、ヨルガオちゃんが目の前に立ちはだかった。
「エルフはダメだよ」
「ジュリウス」
「分かりました。お待ちしております。クー様、よろしくお願いします」
「わかってる!」
ご機嫌斜めなクーだけど、追いかけるのには協力してくれるようだ。
運ばれていくギュスタンさんの後を僕たちは小走りで追いかけるのだった。
ギュスタンさんは堅苦しいのに慣れていないからドライアドたちも参加したらそうなるんじゃないか? と予想してドライアドたちに話を通しておいたらしい。
「それならそうと事前に教えておいてくれても良かったんじゃない?」
「いやぁ、話すタイミングがなくってね」
パーティーが終わった翌日、ギュスタンさんに文句を言ったけれど彼は苦笑いを浮かべるだけだった。
そんな彼の体には褐色肌の子が張り付いている。どうやらギュスタンさんは褐色肌の子の縄張り認定されたようだ。
「屋敷に入れないように気を付けてね」
「なんでだい?」
「気が付いたら植木鉢が増えてるんだよ」
「あぁ~~~…………」
どうやら時既に遅し、という感じだったようだ。思い当たる節がある様子でギュスタンさんが眉を下げた。
そんなギュスタンさんは、今日もエルフの正装っぽい服を着ていた。
今回はその中でもカジュアルなタイプなので服もゆったりとした作りとなっている。
「そろそろ日が暮れるし、ドライアドたちはとりあえず置いていこ」
「そうだね。それじゃあ皆、降りてくれるかな?」
「…………」
「寝てるね。ジュリウス」
「ハッ」
側に控えていたジュリウスがひょひょいっと手早くギュスタンさんの体に引っ付いていたドライアドたちを剥がすと、そっと地面に置いた。その後、僕の体にも引っ付いていた子たちも下ろしていったんだけど、レモンちゃんだけ巻きついて離れなかったので諦めた。
相当眠いはずなのに……やはりクーがいるからだろうか?
「なに? お兄ちゃん」
「いや、なんでもないよ」
「何でもないんだったら頭撫でて!」
「はいはい」
「『はい』は一回!」
「はい」
ご機嫌斜めなクーの手を握っていた手を離して、青空のような色の髪の毛をわしゃわしゃと撫でる。彼女にもついて来てもらうのは、これから向かう先はジュリウスがついてくる事が許されない可能性が高いからだ。
ギュスタンさんを待っている間、レモンちゃんと縄張りバトルしていたけど、先に陣取っていたレモンちゃんが僕の首回りに髪の毛を巻き付けて絶対離れない意志を示したので、クーにはとりあえず『暇なときは頭を撫でる』という所で妥協してもらった。流石に肩車しながらおんぶや抱っこは無理だからね。
「さて、それじゃ行ってくるね」
「気を付けて行ってくるのですわ~」
「クーちゃん、シズトくんの事よろしくね?」
「別にルウルウに言われなくてお兄ちゃんだけは守るし? レモレモやタンタンの事は知らないけど~」
まあ、ギュスタンさんは向こうのドライアドが守ってくれるから大丈夫だろう。
そんな事を思いながらレヴィさんやルウさん、ラオさんに見送られつつ都市国家カラバへと転移した。
転移先は以前青バラちゃんが青バラを植えた場所だ。その周辺は都市国家カラバの方々は進入禁止区画にしていて、世界樹の番人やよく知っているドライアドたちが手分けして警備をしている。
ただ、ドライアドたちは夕暮れになると『精霊の道』を通ってファマリーに帰るから今はいない。その代わりに、目がぱっちりと開いている真っ黒なドライアドたちが森の中からこちらをジッと監視していた。森の中の暗闇に真っ黒な肌が同化しているけど、爛々と輝く金色の瞳と頭の上に咲いている花は隠せていない。
「ヨルガオちゃんはいる?」
割と大きな声で問いかけると、森の中から「いるよー」と返ってきた。
ガサガサと鬱蒼と茂っている植物をかき分けて外に出てきたのは、やはり見覚えのあるような気がする真っ白な花を頭の上に咲かせたドライアドだ。
ジュリウスを警戒しているようだけど、転移陣から出てきた『エルフは大丈夫』と伝えてあるのでいきなり攻撃はしないだろう。
ヨルガオちゃんは何かを感じた様でジュリウスから視線を外し、ギュスタンさんをじろっと見た。
「…………ほんとに人間さんがカラちゃんのお世話ができる神様の力を持ってるんだねー」
「あ、分かるんだ?」
「神様の力の気配はそれぞれ違うから分かるでしょ?」
「いや、人間は分かんないよ。魔道具を使えば別だけど」
「ふーん……。それじゃあカラちゃんのお世話お願いします」
ヨルガオちゃんは深々とギュスタンさんに頭を下げた。ギュスタンさんもそれをするつもりで来たから「任せてください」と答えた。答えた瞬間、わらわらと森の中から真っ黒な何か……じゃなくてドライアドたちが溢れた。
「カラちゃんの所まで連れてくぞー!」
「お~!」
「え、わっ、ちょっと!?」
ギュスタンさんは抵抗も虚しく、たくさんのドライアドたちの髪の毛に捕まると、「えっほ! えっほ!」と運ばれて行ってしまった。
「……って、ボーッとしてる場合じゃないじゃん!」
幸いな事に、『精霊の道』を使う様子もないし、速度もそこまで早くないから後を追いかけるのは可能だろう。
そう思って駆けだしたら、ヨルガオちゃんが目の前に立ちはだかった。
「エルフはダメだよ」
「ジュリウス」
「分かりました。お待ちしております。クー様、よろしくお願いします」
「わかってる!」
ご機嫌斜めなクーだけど、追いかけるのには協力してくれるようだ。
運ばれていくギュスタンさんの後を僕たちは小走りで追いかけるのだった。
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