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後日譚

後日譚161.事なかれ主義者はお近づきの印に渡した

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 転移した先には、何やら見覚えのある花を頭の上に咲かせたドライアドと、青バラちゃんが待っていた。
 こっちのドライアドはなんというか……真っ黒だ。まず肌が黒い。健康的にこんがり焼けた感じの褐色肌ではなく、限りなく黒に近い黒だった。そして髪の毛も黒い。黒くないのは金色に煌めく目くらいだろうか。

「こーんにーちはー」
「「「「こ~んに~ちは~~~」」」
「れ~もれ~もん~~~~」

 青バラちゃんの影響を受けたのだろうか? 元気よく挨拶をしてくれたドライアドに負けじと、引っ付いていたドライアドたちも挨拶を返した。肩の上の子は全然違う挨拶だったけど伝わっているのだろうか。というか、レモン以外発しないけどいつになったら普通に喋るようになるのだろうか?
 そんなどうでもいい事に思考がシフトしている間に、僕の体に纏わりついていたドライアドたちが離れて行った。真っ黒なドライアドを囲ってぺちゃくちゃとお喋りをしている。

「……ジュリウス、周囲の状況は?」
「ハッ。昨日まで感じていた敵意はなくなっています。が、変わらず森の中に複数の魔力反応を感じるので潜んでいるようです」
「青バラちゃんが話を通してくれたのかな」

 その青バラちゃんはやってきたドライアドたちと真っ黒なドライアドの交流を見守っていたけれど、僕たちの視線に気づいたのかトコトコと近づいてきた。

「人間さん、こんにちは」
「はい、こんにちは。上手くここの子と接触できたんだね」
「うん。ここの古株の子が朝方まで残っててくれたんだ~。どうやらここの子たちは夜に活動する子たちみたい」
「夜行性って事? でも昨日もそこそこの数はいたんでしょ?」
「お昼にエルフさんたちが木を切ろうとしたから警備用で少数残してたんだって。私たちも夜の見回りは少数でするからそういう事なんだと思うよ。人数が少ないから心配したけど、今は大多数の子が寝てるだけなんだってー」

 ああ、だから昨日と違って青バラちゃんはのんびりしているのか。
 青バラちゃんはニコニコしながら話を続けた。

「私たちが知っているエルフさんは人間さんを傷つけようとしない限りは大丈夫だよってもう伝えてあるから、森の中も入れるよー。中に入る?」
「いや、僕は中に入ってもできる事ないから。それよりもここの古株の子と話をしたいんだけど……」

 チラッと真っ黒なドライアドの方を見たら、周囲でマシンガントークをしていた肌が白いドライアドたちがピタッとお話を止めてこっちを見た。真っ黒な子もそれにつられてこちらを見る。

「……とりあえず名前を決めないと話辛いけど、あの花ってアサガオだっけ?」
「んーん、ヨルガオだよ」

 青バラちゃんに花の名前を聞いておいてよかった。……っていうか、アサガオは育てた事があるけど、ヨルガオってあるんだ? じゃあ昼もあるんかな?

「人間さんが話をしたいって~」

 どうでもいい事を考えていたら青バラちゃんがヨルガオの花を頭の上に咲かせた真っ黒なドライアドを呼び寄せた。彼女は特に返事をせずにトコトコとこちらに近づいて来る。その後をぞろぞろと連れてきた……というか引っ付いて勝手についてきたドライアドたちが続く。

「………」
「えっと……こんにちは」

 お辞儀をしながら改めて挨拶をすると、真っ黒なドライアドもぺこりと頭を下げた。敵意はないようなので、とりあえず「名前が無ければヨルガオちゃんって呼んでもいい?」と聞いたら頷かれた。無口なのだろうか? それとも眠いのだろうか?

「エルフ……あ、この街のエルフなんだけどさ。その人たちにお願いされた事があるんだけど……」

 キュッと眉間に皺が寄ったヨルガオちゃん。話に出てくるのも嫌なくらい嫌っているのだろうか。これはなかなか交渉が難しいかもしれない。
 ジュリウスに視線を向けたが、彼は何も反応を示さなかったので、特にこちらに敵意は向けられていないようなので話を続ける。

「エルフたちにも色々なエルフがいるんだよ。今森の外側にいるエルフたちは世界樹の事をとても大事に思っているエルフたちで、仲間のエルフが世界樹の枝を切ろうとした事はとても申し訳なく思っているみたいなんだ。謝罪の品とかは用意させるから、怒りを鎮めて、街を元通りにしてくれないかな? あ、ダメですか、そうですか」

 ブンブンと首を振られてしまった。
 どうしたものか、と考え込んでいると青バラちゃんがクイクイッと僕の袖を引っ張った。

「世界樹の枝を切ったのはきっかけであって、今も森を広げているのは別の理由なんだって」
「そうなの?」
「うん。森の外のエルフたちが森を切り開こうとするから、それ以上の速さで森を広げているだけなんだって。そうだよね?」

 こくこくと頷くヨルガオちゃん。
 ……これはエルフたちにも話を聞くべきだろうか? と思ってジュリウスに視線を向けると「最近は切っていないそうですよ」と僕の疑問を察したようで答えてくれた。

「時間の感覚が種族によって違うので最近、というのがいつからかなのかはっきりさせた方が良いかもしれませんが、仮設住居を作るための必要な資材は十分すぎるほど集まったから、という事で切っていないそうです。森の浸食は止めようがないから切っても無駄だと判断したのもあるかもしれません」
「なるほど。……とりあえず、森の外のエルフに木を切られたら増やすだけに留めてくれないかな……? この街のエルフとドライアドの問題が片付かないと世界樹のお世話の話も進められないし……」

 世界樹に『生育』の加護をずっと使われないのは彼女たちも本意ではないはずだ。
 ギュスタンさんにお願いするにしても問題は色々あるから、せめてエルフの国の問題はなくしておきたい。
 ヨルガオちゃんは考えているのか、何も考えていないのか分からないけどただ黙って金色の瞳で僕をジッと見ている。
 世界樹の事を出して置けば通せるのではないか、と思っていたけれど甘かったようだ。せっせと作り続けたたい肥を献上すればあるいは――。

「できるの?」
「え?」
「人間さん、神様の力を感じる。でも、エルフと違う神様の力。カラちゃんを助けて欲しい気持ちはある。でも、人間さんにそれができるの?」

 眠たそうに半開きだった目がしっかりと開かれて、まっすぐに僕を見てくる。彼女の背後に広がる森の暗闇の中からも、無数の金色の瞳が僕を見ていた。

「僕は確かにもう持ってないけど、新しく加護を授かった人と友達だから、話がまとまったらすぐにでもお願いしに行くよ」
「…………分かった。エルフたちが私たちの木を切らない限り、これ以上外に広げない事を約束する」
「ありがと。助かるよ」
「でも、森の周りにいるエルフは入っちゃダメなのは変わらないから」
「うん。しっかり伝えておくね」

 思ったよりもすんなりと話がついた。それはとてもいい事なんだけど、怒りを鎮めるために用意していたたい肥はどうしようか?
 ……とりあえず、お近づきの印という事で渡しておくか。
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