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後日譚
後日譚156.事なかれ主義者はちょっとずつ近づいた
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翌日の朝、僕はファマリーの根元にいた。小国家群に加護を使って回りながら布教するのは元々移動時間も常識的に考えていたからもっとかかっているはずだったけど、魔動車のおかげで大幅に短縮できているらしい。
日程に余裕があるのならば、まだ見ぬドライアドとの対話はしっかりと腰を据えてやるべきなんじゃないか、という話になったので今日は小国家群にはいかず、アドヴァン大陸へと向かう事になった。
僕のすぐ近くには、頭の上に立派な青い薔薇の花を咲かせた女の子が立っていた。彼女の名前は青バラちゃん。ユグドラシルから来たドライアドたちのまとめ役で、普段はドワーフの国にある魔道具店の店長をしてもらっている。
背丈は他の肌が白いドライアドたちと比べると一回り以上大きく、小学生の女の子くらいある。頭の上に生えている青バラが無ければ人族の女の子にしか見えない彼女は、精霊に近い存在だからか容姿端麗で、ドワーフたちからはとても人気があるらしい。
「人間さん、転移陣が光り始めたよ」
「あ、ほんとだ。じゃあ魔力流すね」
「まずは私が参ります」
転移陣に近づこうとしたら、近くに控えていたジュリウスがスッと手で僕を制して、先に転移陣の上に乗った。彼は普段と異なり、完全武装していてわりと物々しい雰囲気が出ている。ただ、向こうのドライアドや世界樹の根元に住み着く魔物の様子が全く分からない以上、それでも足りないくらいかもしれない。
「気を付けてね。何かあったら命を第一にしてすぐ逃げるんだよ」
「心得ております」
世界樹の番人を筆頭に、エルフたちは時々過激な思想が見え隠れする時がある。ジュリウスもその例外ではないので、念のため釘を刺しておいたけど不要だったかもしれない。
そんな事を思いながら転移陣を起動したジュリウスを見送った。
「大丈夫なのにね~」
「心配性っていうんだよー」
「何ともないのにねー」
向こう側に精霊の道を開き、転移陣を設置してくれたドライアドの仲間である褐色肌の子たちは向こうに同種の子がいるから安全だと主張しているけど、ドライアドだから何もされていない、という可能性もあるから確認は必要だ。
エルフと険悪な関係になっているらしいし、護衛としてジュリウスを連れて行って大丈夫なのか、という懸念点もあったのでそう言った意味でも何が起きてもすぐに対応できるであろうジュリウスが斥候として向こうに行ったのだが、結果はすぐに分かった。
「大丈夫だってー」
「エルフさんが来ていいよって言ってるよー」
「私たちも行っていいのかなぁ」
「駄目なんじゃない?」
「でもあの子は一緒に行くみたいだよ」
「古株だからじゃない?」
「なるほど~」
「私たちの古株さんも呼ぶ~?」
「そうしよー」
褐色肌のドライアドが転移陣から戻ってきて、様子を見ていた小柄と僕たちと同じ肌の色が特長的なドライアドたちも含めてお喋りをしている様子を見ていたけど、雲行きが怪しくなってきたのでさっさと行く事にした。
「いってらっしゃーい」
「レモーン」
「行ってきます。レモンちゃんはお留守番ね」
「レモン!」
頬を膨らませて怒っているような雰囲気のレモンちゃんと肌の白いドライアドたちに見送られながら、僕は青バラちゃんと一緒にアドヴァン大陸へと転移した。
「……これからもレモンちゃんを置いて行きたいときは青バラちゃんに言えばいいのか」
「今回は私も危ないって思ったからだよ~。利害の一致って言うんだよー」
「つまり一致しないと止めてくれない、と」
「そういう事~。でも、人間さんが良いよって言ったんだよ~。そこは私たちのテリトリーだから仕方ないんだよ」
青バラちゃんが目を細めて僕の顔、というよりかはたぶん肩から上を見て言った。確かに、加護を返還してしばらくの間、ドライアドたちに認識されなくて不便だったからレモンちゃんに肩の上にいるようにお願いした時があったけど…………。
口は禍の元か。本当にダメな時は乗って来ないからマジで困っているわけじゃないし、助かっている事もあるからまあいいか。
視線を青バラちゃんから周囲へと向ける。転移陣が設置されたのはどうやら街の外側のようだ。周囲にはジュリウス以外にもエルフが何人もいたけれど、彼らを見た覚えはない。……似ているから見分けるのが難しいとはいえ、流石にいつも護衛してくれている世界樹の番人であれば分かる。
僕は唯一顔を知っているエルフであるジュリウスに再び視線を戻す。
「話をしている間も特に何も起きなかったけど……。ジュリウス、どういう状況?」
「ハッ。この街のドライアドたちを刺激せぬ様に城壁の外側からさらに少し離れた所に転移陣を設置したようです。これ以上先はここの者たちのテリトリーだ、と褐色肌のドライアドが言ってました」
「そうなの?」
「うん、そうみたいだよー。まだ何も植えてないみたいだけど」
「青バラちゃんが入っても大丈夫?」
「んー、分かんない!」
「分かんないかぁ」
でもこのまま何もせずにここで喋っているわけにもいかないし、様子を見ながら都市国家カラバに近づいてみよう。
そんな事を思いながら、葉っぱが一つもない大きな木を見上げるのだった。
日程に余裕があるのならば、まだ見ぬドライアドとの対話はしっかりと腰を据えてやるべきなんじゃないか、という話になったので今日は小国家群にはいかず、アドヴァン大陸へと向かう事になった。
僕のすぐ近くには、頭の上に立派な青い薔薇の花を咲かせた女の子が立っていた。彼女の名前は青バラちゃん。ユグドラシルから来たドライアドたちのまとめ役で、普段はドワーフの国にある魔道具店の店長をしてもらっている。
背丈は他の肌が白いドライアドたちと比べると一回り以上大きく、小学生の女の子くらいある。頭の上に生えている青バラが無ければ人族の女の子にしか見えない彼女は、精霊に近い存在だからか容姿端麗で、ドワーフたちからはとても人気があるらしい。
「人間さん、転移陣が光り始めたよ」
「あ、ほんとだ。じゃあ魔力流すね」
「まずは私が参ります」
転移陣に近づこうとしたら、近くに控えていたジュリウスがスッと手で僕を制して、先に転移陣の上に乗った。彼は普段と異なり、完全武装していてわりと物々しい雰囲気が出ている。ただ、向こうのドライアドや世界樹の根元に住み着く魔物の様子が全く分からない以上、それでも足りないくらいかもしれない。
「気を付けてね。何かあったら命を第一にしてすぐ逃げるんだよ」
「心得ております」
世界樹の番人を筆頭に、エルフたちは時々過激な思想が見え隠れする時がある。ジュリウスもその例外ではないので、念のため釘を刺しておいたけど不要だったかもしれない。
そんな事を思いながら転移陣を起動したジュリウスを見送った。
「大丈夫なのにね~」
「心配性っていうんだよー」
「何ともないのにねー」
向こう側に精霊の道を開き、転移陣を設置してくれたドライアドの仲間である褐色肌の子たちは向こうに同種の子がいるから安全だと主張しているけど、ドライアドだから何もされていない、という可能性もあるから確認は必要だ。
エルフと険悪な関係になっているらしいし、護衛としてジュリウスを連れて行って大丈夫なのか、という懸念点もあったのでそう言った意味でも何が起きてもすぐに対応できるであろうジュリウスが斥候として向こうに行ったのだが、結果はすぐに分かった。
「大丈夫だってー」
「エルフさんが来ていいよって言ってるよー」
「私たちも行っていいのかなぁ」
「駄目なんじゃない?」
「でもあの子は一緒に行くみたいだよ」
「古株だからじゃない?」
「なるほど~」
「私たちの古株さんも呼ぶ~?」
「そうしよー」
褐色肌のドライアドが転移陣から戻ってきて、様子を見ていた小柄と僕たちと同じ肌の色が特長的なドライアドたちも含めてお喋りをしている様子を見ていたけど、雲行きが怪しくなってきたのでさっさと行く事にした。
「いってらっしゃーい」
「レモーン」
「行ってきます。レモンちゃんはお留守番ね」
「レモン!」
頬を膨らませて怒っているような雰囲気のレモンちゃんと肌の白いドライアドたちに見送られながら、僕は青バラちゃんと一緒にアドヴァン大陸へと転移した。
「……これからもレモンちゃんを置いて行きたいときは青バラちゃんに言えばいいのか」
「今回は私も危ないって思ったからだよ~。利害の一致って言うんだよー」
「つまり一致しないと止めてくれない、と」
「そういう事~。でも、人間さんが良いよって言ったんだよ~。そこは私たちのテリトリーだから仕方ないんだよ」
青バラちゃんが目を細めて僕の顔、というよりかはたぶん肩から上を見て言った。確かに、加護を返還してしばらくの間、ドライアドたちに認識されなくて不便だったからレモンちゃんに肩の上にいるようにお願いした時があったけど…………。
口は禍の元か。本当にダメな時は乗って来ないからマジで困っているわけじゃないし、助かっている事もあるからまあいいか。
視線を青バラちゃんから周囲へと向ける。転移陣が設置されたのはどうやら街の外側のようだ。周囲にはジュリウス以外にもエルフが何人もいたけれど、彼らを見た覚えはない。……似ているから見分けるのが難しいとはいえ、流石にいつも護衛してくれている世界樹の番人であれば分かる。
僕は唯一顔を知っているエルフであるジュリウスに再び視線を戻す。
「話をしている間も特に何も起きなかったけど……。ジュリウス、どういう状況?」
「ハッ。この街のドライアドたちを刺激せぬ様に城壁の外側からさらに少し離れた所に転移陣を設置したようです。これ以上先はここの者たちのテリトリーだ、と褐色肌のドライアドが言ってました」
「そうなの?」
「うん、そうみたいだよー。まだ何も植えてないみたいだけど」
「青バラちゃんが入っても大丈夫?」
「んー、分かんない!」
「分かんないかぁ」
でもこのまま何もせずにここで喋っているわけにもいかないし、様子を見ながら都市国家カラバに近づいてみよう。
そんな事を思いながら、葉っぱが一つもない大きな木を見上げるのだった。
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