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後日譚
後日譚144.事なかれ主義者は子どもを連れて町へ行く
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ラオさんとルウさんの故郷に行く事が決定してからは早かった。
二人の故郷はドラゴニア国内だけど、北の方の侯爵が治めている領地にある小さな町、という事で魔動車は転移門を使ってガレオールを経由してドラゴニアの王都から出発してもらう事となった。
普通の車と同じくらいの速度は出せる上に運転者の魔力が切れるまで疲れ知らずに走る乗り物だから、ラオさんたちの故郷の近くにある街に着くのもあっという間だった。
話をされた翌日にジュリウスにお願いして魔動車を運転して町へと向かってもらったけど二日ほどで到着したのは驚きだ。
転移門で時短している上に馬車の数倍速く移動できるとなるとそりゃすぐ着くか、なんて事を思いながら外用の服に袖を通した。普段はラフな格好をしているけど、挨拶する時くらいおしゃれはした方が良いだろう。
そう思っていたけど、部屋の外で待ってくれていたラオさんには不評だった。
「そんな綺麗な服着てったら一目でただもんじゃねぇって分かっちまうだろ」
「そうかな? 町の人たちが切るような物を用意してもらったんだけど……」
「素材の違いかしら? 髪と目の色も含めてみると平民とは思えないわね」
ルウさんもラオさんと同意見のようで苦笑を浮かべている。
今回はとりあえず両親以外には僕の正体については言わない事になっているっぽい。町の人たちに見られても大丈夫なような格好で行こう、という事になっていたけど、僕のアイテムバッグの中に用意されているのは上等な物で作られた服ばかりだったようだ。
部屋に一緒に戻って探してくれたラオさんのお眼鏡にかなう者はなかった。
「……ダンジョンに入った時の格好でいいか」
「じゃあお姉ちゃんたちも冒険者の格好をした方が良いかしら?」
「まあ、それが無難だろうな」
「じゃあ蘭加と静流は僕が見ておくよ」
抱っことおんぶをすればまあ何とでもなるでしょう、と思ったけれど順番に着替えるとの事で僕はそれぞれが着替えている間に二人の子どもを抱っこするだけだった。
二人がお揃いっぽい見た目の防具を身に着けたところで外に出た。
当然、待ち構えていたレモンちゃんが僕に飛びつこうとしてきたけど、外で待機していたジュリウスに空中でキャッチされていた。
「今日はほんとにダメなんだよ、ごめんね」
「れもん……」
「僕の畑のお手入れお願いしてもいいかな?」
「レモン!」
今日の朝、しっかりと言い含めておいたので抵抗はそこまで大きくなかった。
レモンちゃんは他のドライアドたちと一緒に駆けていくのを見送ってから、蘭加と静流をそれぞれ抱っこしている二人を連れて転移陣へと向かう。
「ジュリウスも今日は待機だよ」
「かしこまりました」
「僕が気づけないからって護衛をつけるのも駄目だからね? 他の人に気付かれたら怪しまれるし」
「…………」
「ジュリウス?」
「かしこまりました」
今回はわざわざ隣町から歩いて移動する事になっている。魔動車でやって来たところを見られたら、どれだけ見た目をそれっぽくしてもただ者じゃないと思われるから。
ゆくゆくは僕の正体が村の人たちにバレてもいいと思っているみたいだけど、余計なパニックを避けるために最初は両親以外には秘密で行くためだそうだ。
「向こうの準備ができたみたいだね。とりあえず行こうか」
「何か起きてもすぐに駆け付ける事ができるように隣町で待機しておきます」
「まあ、そのくらいならいいんじゃないかしら?」
「だな」
話がまとまったので転移陣を使って転移した。転移先にはなぜか小柄な少女がいた。
神は青空のような薄い青色で、瞳は夕日のような橙色のその女の子の名前はクー。僕が作ったホムンクルスの内の一人だ。
普段は別館でダラダラと過ごしたり、アンジェラに運ばれたりしている彼女だけどどうしてここにいるのだろうか。
そんな僕の疑問を気にした様子もなく、クーは目を細めて笑った。
「待ってたよー、お兄ちゃん」
「別館でダラダラしてたんじゃなかったの?」
「ウスウスに頼まれたんだよ。万が一の事が起きた際にはお兄ちゃんの子どもたちを転移させろって」
「シズト様のパーティーメンバーと言えば着いて行ってもおかしくはないかと愚考いたしました」
「静流たちはまだ帰還の指輪を自発的に使う事できないからとても助かるわ」
「ポーターだって言っとけばまあ何とかなるだろ」
「そういう事~。あーしはお兄ちゃんと一緒にいられてハッピー、お兄ちゃんは子どもたちの安全を確保できてハッピー、ギブアンドテイクって事。そういう訳だからおんぶして~」
「わっ!? 危ないでしょ! いきなり転移して背中に飛びつくのやめて!」
手と足を絡ませて背中にくっついてきたクーを背負い直してから馬車を下りると、どこかの倉庫の様だ。
ジュリウスはここで魔動車の護衛をするらしい。心配そうなジュリウスに見送られながら僕たちは倉庫を出るのだった。
二人の故郷はドラゴニア国内だけど、北の方の侯爵が治めている領地にある小さな町、という事で魔動車は転移門を使ってガレオールを経由してドラゴニアの王都から出発してもらう事となった。
普通の車と同じくらいの速度は出せる上に運転者の魔力が切れるまで疲れ知らずに走る乗り物だから、ラオさんたちの故郷の近くにある街に着くのもあっという間だった。
話をされた翌日にジュリウスにお願いして魔動車を運転して町へと向かってもらったけど二日ほどで到着したのは驚きだ。
転移門で時短している上に馬車の数倍速く移動できるとなるとそりゃすぐ着くか、なんて事を思いながら外用の服に袖を通した。普段はラフな格好をしているけど、挨拶する時くらいおしゃれはした方が良いだろう。
そう思っていたけど、部屋の外で待ってくれていたラオさんには不評だった。
「そんな綺麗な服着てったら一目でただもんじゃねぇって分かっちまうだろ」
「そうかな? 町の人たちが切るような物を用意してもらったんだけど……」
「素材の違いかしら? 髪と目の色も含めてみると平民とは思えないわね」
ルウさんもラオさんと同意見のようで苦笑を浮かべている。
今回はとりあえず両親以外には僕の正体については言わない事になっているっぽい。町の人たちに見られても大丈夫なような格好で行こう、という事になっていたけど、僕のアイテムバッグの中に用意されているのは上等な物で作られた服ばかりだったようだ。
部屋に一緒に戻って探してくれたラオさんのお眼鏡にかなう者はなかった。
「……ダンジョンに入った時の格好でいいか」
「じゃあお姉ちゃんたちも冒険者の格好をした方が良いかしら?」
「まあ、それが無難だろうな」
「じゃあ蘭加と静流は僕が見ておくよ」
抱っことおんぶをすればまあ何とでもなるでしょう、と思ったけれど順番に着替えるとの事で僕はそれぞれが着替えている間に二人の子どもを抱っこするだけだった。
二人がお揃いっぽい見た目の防具を身に着けたところで外に出た。
当然、待ち構えていたレモンちゃんが僕に飛びつこうとしてきたけど、外で待機していたジュリウスに空中でキャッチされていた。
「今日はほんとにダメなんだよ、ごめんね」
「れもん……」
「僕の畑のお手入れお願いしてもいいかな?」
「レモン!」
今日の朝、しっかりと言い含めておいたので抵抗はそこまで大きくなかった。
レモンちゃんは他のドライアドたちと一緒に駆けていくのを見送ってから、蘭加と静流をそれぞれ抱っこしている二人を連れて転移陣へと向かう。
「ジュリウスも今日は待機だよ」
「かしこまりました」
「僕が気づけないからって護衛をつけるのも駄目だからね? 他の人に気付かれたら怪しまれるし」
「…………」
「ジュリウス?」
「かしこまりました」
今回はわざわざ隣町から歩いて移動する事になっている。魔動車でやって来たところを見られたら、どれだけ見た目をそれっぽくしてもただ者じゃないと思われるから。
ゆくゆくは僕の正体が村の人たちにバレてもいいと思っているみたいだけど、余計なパニックを避けるために最初は両親以外には秘密で行くためだそうだ。
「向こうの準備ができたみたいだね。とりあえず行こうか」
「何か起きてもすぐに駆け付ける事ができるように隣町で待機しておきます」
「まあ、そのくらいならいいんじゃないかしら?」
「だな」
話がまとまったので転移陣を使って転移した。転移先にはなぜか小柄な少女がいた。
神は青空のような薄い青色で、瞳は夕日のような橙色のその女の子の名前はクー。僕が作ったホムンクルスの内の一人だ。
普段は別館でダラダラと過ごしたり、アンジェラに運ばれたりしている彼女だけどどうしてここにいるのだろうか。
そんな僕の疑問を気にした様子もなく、クーは目を細めて笑った。
「待ってたよー、お兄ちゃん」
「別館でダラダラしてたんじゃなかったの?」
「ウスウスに頼まれたんだよ。万が一の事が起きた際にはお兄ちゃんの子どもたちを転移させろって」
「シズト様のパーティーメンバーと言えば着いて行ってもおかしくはないかと愚考いたしました」
「静流たちはまだ帰還の指輪を自発的に使う事できないからとても助かるわ」
「ポーターだって言っとけばまあ何とかなるだろ」
「そういう事~。あーしはお兄ちゃんと一緒にいられてハッピー、お兄ちゃんは子どもたちの安全を確保できてハッピー、ギブアンドテイクって事。そういう訳だからおんぶして~」
「わっ!? 危ないでしょ! いきなり転移して背中に飛びつくのやめて!」
手と足を絡ませて背中にくっついてきたクーを背負い直してから馬車を下りると、どこかの倉庫の様だ。
ジュリウスはここで魔動車の護衛をするらしい。心配そうなジュリウスに見送られながら僕たちは倉庫を出るのだった。
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